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生々流転で始まる異世界放浪ろまん譚~勇者パーティーから排除されたので最強ギフトで無双します!~ 作者:水辺野かわせみ

第一章 エルレイン王国編 召喚

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【第1話】振り向けば異世界?

「くっそ、やられてたまるか!」



【ターゲットスコープ(光学照準システム)がストライク・アイ(統合目標指定システム)に変化しました。複数のターゲットを同時にロックオンする事が可能です】



 視界の中に、軍事的な響きを持つ文字が表示される。


「え?」


 またしてもスキルの変化(・・)だ。


 ただ、呆けている暇はない。


 15体の魔物が牙をむき、堰を切って襲い掛かって来る。



【ストライク・アイ、起動】



 視界に映る全ての魔物達に赤いマーカーが表示される。



【ターゲットロックオン、マルチブロー(同時複数発射)での魔法発動可】



 迷っている場合でもない。

 シリューは即座に魔法を発動させた。


「いっけええええ! ホーミングアロー!!」


 シリューの頭上に15の光が輝く。


「ファイアー!!」


 一斉に放たれた魔法の鏃がミサイルのような軌跡を描き、それぞれ捉えた獲物をほぼ同時に屠ってゆく。

 そして静寂。


「……ここまで来ると、もう戦闘機かイージス艦ってとこだな……俺ってホントに人間? だよね……」


 シリューは、自分でも信じられない光景に、茫然と佇むしかなかった。


「ご主人さまぁぁ」


 透き通るような碧の髪を風に揺らし、身長20cmほどの美しいピクシーが、透明の羽をぱたぱたと羽ばたかせシリューの目の前に飛んだ。


 随分と興奮している様子だ。


「すごいのっ、すごいの、ご主人さまぁ!こんなの初めてぇ!」


「うん、ヒスイ。誤解を与える言い方はやめようか。あと、ご主人様呼びも」


「ダメなの、ご主人さまは、ヒスイのご主人さまなの、です!」


 シリューは大きな溜息を零しゆっくりと顔を上げた。


「……なんだろう、この状況……」


 見上げた先には、この世界に召喚された日と同じ、紺碧の空が広がっていた。






 その日。






 ふと 気がつくと、いつもの交差点だった。


 もう、半年も通っていなかった、半年前までは毎日通っていた道。


 いつもの交差点で、いつものように待っていてくれた、幼馴染の少女。


 6歳の時に両親を亡くし、養護施設にやって来た美亜。


 産まれてすぐに捨てられ、養護施設で家族を知らずに育った明日見 僚にとって、彼女は世界で最も大切な存在だった。


 17歳で一つ年上だった美亜は今年の春、18歳の誕生日を迎える事なくたった一人で逝ってしまった。


 それから半年以上が過ぎた今でも僚は現実を受け入れる事が出来ず、だから意識してこの道を通らなかった。


 それなのに。


 今日は何故か考え事に気をとられ、無意識の内にいつも美亜と待ち合わせた、この交差点に来ていた。


 交差点には信号待ちの学生たちがいて、楽しそうにお喋りをしている。


「美亜と同じ制服か…」


 その四人のグループは美亜の通っていた、この近くにある県内でも有名な進学校の生徒らしかった。


 背の高い男子一人にあとは女子が3人、そしてその一番後ろに立っている女子生徒に目をやった時、


「美亜?」


 僚は足を止め、思わずその名を口にしてしまった。


 勿論、そんな事があるはずがないのは分かっていた。


 分かってはいたが余りにもその後ろ姿が似ていたのだ。


「ん?」


 はっきりと聞こえる程の声では無かったはずだが、その女子生徒は振り返り僚の顔を一瞬いぶかしげな表情を浮かべて見つめた。


「……いま……?」


“ なんて言ったの? ”女子生徒はそう言おうとしたのだろう、そこにはすでに疑るような表情は無かった。


 よく見れば顔が似ているわけではない。だが、どことなく雰囲気が美亜に似ていた。


「ごめん!人違いだった」


 僚は咄嗟に謝って、相手の言葉を遮った。


「何?ナンパ?」


「へぇこんな所で」


 前にいる3人が振り返り、少しからかうように笑った。


「違うんだ、ホントごめん!」


 別に逃げる必要も無かったのだが、気不味さに耐えきれず僚は今来た道を駆け出した。


 そして、丁度5歩目を踏み出した時。


「うわっ」


 周りの一切の音が消えた。


 それだけではない、身体が宙に浮かんだまま固定されたように動かなくなり、周囲一帯が停止していた。


 自分の思考だけが進み、全てが時を止めている。


「なんだ、これ……」


 その直後、目を開けて居られない程の光に包まれる。


 いや、包まれるというより投げ出されるといった感覚だろうか。


「うっ」


 熱くも冷たくもない、が、目を閉じていても身体全体でかんじる、息が詰まる程の光の圧力。


 堕ちているのか昇っているのかさえ分からない浮遊感。


「くっそ、どうなってるんだ」


 僚は、唸るように声をあげる。


 そして、身体に感じていた圧力が唐突に消える。それと同時に浮遊感も無くなり、身体を支えきれずに冷たい床に尻餅をついた。


「冷たい? ……」


 今は10月、夕方とはいえアスファルトは日中の日の光で温められ、かなりの温度になっているはずだ。


 僚はゆっくりと目を開き床を見た。


「大理石?」


 白く艶のある床材は、いつか行った美術館のものとそっくりだった。


 周りに目をやると、そこはかなりの広さがあるホールのような造りで、壁も床も同じ石材が使われているようだった。


 少し薄暗いのは、目が慣れていないせいでもあるだろう。


「ようこそおいで下さいました」


 透き通るような女性の声が背中の方から響いた。


「召喚に応じて頂きありがとうございます、勇者様、従士様」


 勇者? 召喚? 気になるワードが聞こえ僚は片膝立ちで振り返った。そしてすぐにその女性の言葉が、自分に向けられたものではないと気付いた。


 僚がいる場所から5m程の所に、スポットライトにでも照らされたかのように4人の男女がこちらに背を向けて立っていたのだ。4人共制服姿で背の高い男子が1人に女子が3人、先ほど交差点にいたグループのようだ。


 よく見ると彼らの足元には、円形の紋様が金色で描かれており淡い光を放っている。


「これって……」



“ 異世界召喚 ”



 成績は常にトップで本を読むのが好きだった森崎美亜が、頻繁に貸してくれた彼女お薦めの本。その本の内容の多くが所謂異世界召喚ものだった。


「まさか……本当に?」


 チートな能力をもった勇者の冒険に、異世界への召喚や転生。それらは全て本の中の物語であり、現実を忘れ、ひと時の間主人公になりきり夢の世界を楽しむ。


 そして本を読み終えれば、また現実へと戻る。


 実際にあれば面白いだろうなとは思うが、それはあくまでも創造の産物であり、現実に起こりえるはずはない。


 そう、起こるはずがない……。



 今日まで、いや今この時まで僚はそう思っていた。




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