離婚前提で別居していた夫が自殺……「事故物件」化したマンションの損害賠償金は1000万⁉ 残された遺族がすべきこと
自殺すると、残された側にとんでもない迷惑がかかるんだな……。というのが、身も蓋もないが『自殺遺族になっちゃった!!』(宮本ぐみ:漫画、宮本ぺるみ:原作/竹書房)を読んで最初に思ったことだった。同書は、宮本ぺるみさんの夫・トビオさんが自殺したあとの顛末を、姉のぐみさんが作画を担当して描いたコミックエッセイだ。
『虐待父がようやく死んだ』――誰か助けて。でも私の親がおかしいことと、愛されていないことには、誰も気づかないで
迷惑、なんて言い方は絶望の末に死を選ぶしかなかった故人に対して非道な物言いかもしれない。だが、どんなに用意周到に死を準備していたとしても、現実に事務手続きをしなくてはならないのは遺族だ。ぺるみさんはもともと、トビオさんの不倫が原因で、離婚を前提に子供を連れて別居していた。けれど離婚前だったというそれだけの理由で責任を負うべき遺族となってしまう。トビオさんが息をひきとったのは搬送された病院だが、死体検案書に「死亡場所=自宅」と書かれてしまったために、大家から「事故物件にした」ことの損害賠償金を1000万円も請求されることとなる。
賃貸契約の連帯保証人であったぺるみさんの実父にまで影響が及び、周囲からは「嫁が子供と出て行ったせいで追い詰められて死んでしまった」と心ない噂がとびかう。事実を知っているはずのトビオさんの親族も噂を否定するどころか、ぺるみさんを責める始末。幼い子供たちにはもちろん事情を話せない。心身ともに追い詰められるなか、全面的に味方してくれる弁護士に出会っていなければ、言われるがまま1000万の債務を負ってさらに追い詰められていただろうことは想像にかたくない。
本書を読むと、法律を知ること、いい弁護士に出会うこと、その2つがどれほど大切なことかわかる。自殺にかかわらず、誰だって、いつどんなトラブルに巻き込まれるかわからない。そのうえでも本書は、賃貸契約をかわしている人なら読んでおくべき一冊といえる。
さらに本書で響いたのは「相手の死にとりこまれる場合もある」という表現だ。夫婦関係は破綻していたから周りに「ぺるみさんが後を追わないように注意したほうがいい」と言われても、姉のぐみさんも深刻にとらえていなかった。だが、身近な人がみずから死を選んだという事実は、おそらく他人が想像する以上に闇が深い。終わらないトラブルと先の見えない不安、彼が死を選んだ理由とその想い。考えれば考えるほど、そのつもりがなくても選択肢のひとつとして引き寄せられていく。死は誰にとっても隣り合わせのものなのだと改めて痛感させられる。
「死にたい」は「生きたい」の裏返し。死にたい理由さえなければ生きたいんだ。
と、あとがきでぺるみさんは綴っている。「自分の醜態を晒すことで、せめて他の遺族の方の役に立てたら」という思いがやがてぺるみさんの生きる理由になっていったのだ。死を選ばざるを得ないほど追い詰められた人たちを、事情を知らない人間が一方的に責めることはできない。トビオさんに対しても、読めば読むほど、他人ながらやるせなさが募る一方だ。けれどだからこそ、この本がぺるみさんの生きる理由になったように、死に引き寄せられそうになった人たちにとって、少しでも生きる理由になればいいなと思う。
文=立花もも