3話 フレンド
今日も仕事を終えてガンドラルに。
ゲームを始めたところでフレンドからボイスチャットが飛んできた。
『左の字~』
「どうした?
『今暇~?』
「INしたばかりだから暇といえば暇だな」
『よかったー。なら少し手伝ってよ』
「何をだ?」
『なんだっけな?』
「…」
『ルル〜なに手伝ってもらうんだっけ?』
「いや、巴、私に話しかけてるぞ。相手を切り替えるかグループチャットに切り替えろ」
『おお、ごめんごめん。この切り替えってのすぐに忘れちゃうな。今切り替えるからちょっと待ってて』
「わかった」
『よいしょっと。おーいルル、左の字になに手伝ってもらうんだっけ?』
『セブンこんばんは。トモエ、ワタシの話ちゃんときいてましたカ?』
『左七さん、こんばんは。ルルさん、巴さんにそれを言ってもしょうがないですよ。基本人の話を聞いていないのが巴さんですから』
『キョウさらっとボクに毒を吐くな…基本人の話をきいてないって、そこまでひどくないぞボクは!』
『いえいえ、聞いてないでしょう? そう思いませんか左七さん』
『そんなことないよね左の字?』
『そんなことヨリ、セブン! 今日の予定デス』
『そんなことって・・・、ボクけっこうひどいこと言われてるんだが』
うん、話が全く前に進まない。どうしたもんか。
でも下手につつくとこっちまで飛び火するしな、傍観だな。
そのうち落ち着くだろう。
『ということデ、セブン。今日はアデクの森で素材集めと狩りデス』
『ということだよ、左の字!』
『よろしくお願いします左七さん』
やっと話がまとまったようだ。
「わかった、集合場所はアダの町でいいか?」
『それでおねがいシマス』
アデクの森に行くなら釣り竿も持っていこうかな?
あそこの湖は結構いい魚が釣れるし釣ってる最中にモンスターに絡まれてもあの3人がいれば平気だろう。
私は壁に立てかけてあった釣り竿に手をかけた。
「お~、左の字こっちー」
ライトブラウンに近い色のふわっとした髪の女性がこちらに手を振っている。
背丈は150台後半くらい、若干日本人離れしている顔立ちの女性。
あれが巴だ。ちなみに日本語以外はまったく話せないそうだ。
「セブ~ン」
その左隣りで手を振るブロンドの女性。
背丈は170程度、ブルーの目と透き通るような肌。
私の名前のサシチの発音が難しいようでなぜか左七の七をとってセブンと呼ぶ彼女がルル。
そして巴の右隣りで軽く会釈をした黒髪で切れ長な目と170近い身長。
現代版日本美人と言いたくなるような女性がキョウだ。
改めて見ると結構迫力がある3人組だな。
そこに軽く手を上げながら加わる私。
「待たせてしまったかな?」
私の一言に3人がにこやかにこたえる。
「いやこっちも今来たところ」
「デスネ」
「お気になさらずに」
「左の字、今日はどのくらい時間がとれそうだ?」
「できれバ、3時間ほどオチカラをオカリしたいのデスガ」
明日は休み。
今日も特に予定もない私は彼女達の依頼を承諾した。
森に入ってしばらく狩りや狩猟をしながら進むと、私が釣りをしようと思っていた湖にたどり着いた。
私は3人に了解をとり、釣り糸を水面にたらした。
現実で釣りが趣味というわけではないが、ガンドラルオンラインの世界では結構釣りにはまっていた。
「ねえ、左の字」
のんびりと水面を眺めていると巴が声をかけてきた。
「なんかこの状況、最初に会った時を思い出すね」
「ソウデスネ、あの時に似ていますネ」
「たしかにあの時も、佐七さんは釣りの最中でしたものね」
この3人と初めて出会ったとき私は釣りの真っ最中だった。
彼女達は私が釣りをしている池のそばで探し物をしていたらしく、結構な時間池のそばをうろうろとしていた。
そんな彼女達を釣りの最中の私は何とはなしに眺めていた。
しばらくうろうろしていたが、目的のものは見つからないようで彼女たちがあきらめて帰ろうとしたとき、私の釣り糸を垂らした水面が大きく波打ち七色に光り始めた。
その池ではよく釣りをしていたのだが、この現象は初めてだった。
初めての現象ではあったが、釣りをしている時に獲物がかかっているのならばやることは1つ、私はそれを釣り上げた。
釣り上げられたそれは七色に光る眼をもった水棲型のモンスターだった。
しかもこの池のエリアボスという特殊なモンスターだった。
いきなりボスとの戦闘が始まったのだが、そのときちょうど近くにいた彼女達もこの戦闘に巻き込まれてしまう。
彼女達を巻き込みながら始まった戦闘は思いの外激戦で、数時間にわたる戦闘の後、なんとかこれを撃退した私たちはその激闘を称える打ち上げへ突入した。
その後はちょこちょこと一緒に遊ぶようになり、今にいたっている。
「あの時は本当に申し訳なかった」
あの時のことを思い浮かべて私があやまる。
「いやいや、気にしないでよ。あいつ倒したおかげでボク達が探していたアイテムもドロップしたんだし」
「あの戦いは熱かったデス」
「あの時の縁があってその後も色々助けてもらっているのですし、むしろあの時のボスに感謝してるくらいですよ」
3人の返答を聞いて私は少し嬉しくなってしまった。
ルルやキョウが私と同じことを考えているのも嬉しかった。
「お、左の字嬉しそう」
「ああ、こんな素敵な女性たちと出会えたことに感謝しているところだ」
「く」
「コレハ」
「効きますね」
「っと、あたりが来たようだ。私は動けないから周囲の警戒をたのむ」
(しかもさらっと流した)
(この照れもなく普通に誉める感じガ…)
(嘘とかお世辞ではないっぽいところがまた効きますね)
3人がちょっと微妙な表情になった気がしたが、特に何かあった訳でもないので気のせいだろう。
それよりもこのあたりだ!
結構大きい、いやかなり大きい。
「3人とも聞いてほしい。またボスを釣ってしまったようだ」
その後、予定の3時間をほぼ全てつかってなんとかボス戦に勝利した。