東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

香港デモで発砲 市民への銃口許されず

 恐れていた事態が現実となってしまった。中国政府が建国七十年を祝った一日、香港のデモ隊に警官が発砲し高校生が重体となった。民主を求める市民に銃口を向けることは、断じて許されない。

 香港メディアの映像では、棒を振り回す高校生に、警官がわずか数十センチの至近距離から発砲し、胸を撃たれた高校生は後ろ向きに転倒した。四カ月近くに及ぶデモで、デモ隊が実弾で撃たれたのは初めてである。

 香港警察は、自衛のための発砲だったと釈明している。だが、映像で現場の状況を見る限り、自衛や威嚇を大きく逸脱した、過剰で非道な対応であったと批判されても仕方がない。

 一日は中国建国七十周年を祝う国慶節の式典や軍事パレードが北京で行われた。このため、香港警察は過去最大級の五千人の警官を動員し厳戒態勢を敷いていた。

 慶祝の日に香港で大混乱が起これば、中国政府や共産党のメンツは丸つぶれになる。この日、香港各地で行われたデモはいずれも無許可であり先鋭化が予想されたとはいえ、香港警察の保身や焦りが過剰なデモ隊鎮圧の背景になかっただろうか。

 デモ隊では、「和理非(平和・理性・非暴力)」を唱える「穏健派」が多数だが、暴力も辞さない「勇武派」も存在する。当局関係者がデモ隊を装い、時には過激な行動を扇動したとの指摘もある。

 香港紙・明報が九月に実施した世論調査では、デモ隊と警官隊の衝突が激しくなったことに、七割が「警察の暴力が過剰」と答えていた。もしも「勇武派」が運動の主導権を握りデモを過激化させれば、民主化運動が広く香港市民の共感を得ることは難しくなろう。

 香港紙記者は「中国政府は、デモ隊が暴徒化すれば武力鎮圧の口実になり、国際世論の批判もかわせるとみている」と分析する。それだけに、デモ隊は今回の発砲に激高することなく、非暴力の戦いを貫くべきである。

 習近平国家主席は国慶節の演説で「一国二制度の方針を堅持し、長期の繁栄と安定を維持する」と述べた。だが、その言葉と裏腹に、中国が「一国二制度」を踏みにじってきたことが香港デモの主因であると深く反省すべきだ。

 香港警察は実弾発砲で治安維持の一線を越えた。中国政府は、香港基本法に定められた「制御不能の動乱」を理由に武力介入するような挙に出るべきではない。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報