パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第5話 初めての冒険

 漆黒の剣の4人はナーベとともにトブの大森林に沿った街道を歩いていた。

 ナーベの恰好は相変わらずメイド服に軍帽、腰には申し訳程度に剣がぶら下がっており、街の外に出てみるとさらに違和感が増している。

 

「森の中で狩りをするわけではないんですね」

「ええ、森の中は対処できない危険なモンスターも多いですから。我々が狩るのはそこから人の領域に漏れ出てきたモンスターです。ゴブリンやオークなどが多いですね」

「糊口を凌ぐ大切な仕事なのである」

 

 ペテルの言葉にダインが頷いている。

 

「おおっと、言ってる間に早速来たぜ」

 

 ルクルットが弓を構えた先を見ると豚のような顔の魔物と子供のような体格の亜人が森から出てくるところだった。オークとゴブリンだ。オークは巨大な棍棒を携え、ゴブリンは石器のような武器を構えている。

 

「オークが4にゴブリンが6だな。リーダー指示を頼む」

 

 索敵担当であるレンジャーのルクルットの言葉にペテルが早速指示を飛ばす。

 

「ゴブリンは足が速いので魔法を使えるナーベさんは敵の斥候を仕留めてもらえますか。それが終わったらみんないつも通りに」

「おう!」

「わかったのである」

「はい!」

 

 息のあったチームワークである。ルクルットの言っている通りゴブリンは小柄で素早い。最初に近づいてくるだろう。

 

「敵の先兵を倒せばいいのですね。分かりました」 

 

 言うが早いかナーベは腰から剣を引き抜くと軍帽へ手をかけ、それを天空へと放り投げる。

 

「なっ!?」

 

 一同がその行動の意味を理解しかねていると、そこに疾風が吹きすさぶ。

 目にも止まらない速さでナーベがゴブリンの、そしてオークたちの脇を走り去り光が一閃。

 パチンと音を立てて剣が鞘に収まると同時にナーベの頭へと軍帽がパサっと落ちてきた。

 

「ふっ……つまらないものを斬ってしまいましたね」

 

 至高の御方の言っていたセリフを真似つつ軍帽を目深に被ると同時にすべてのモンスターの首がコロリと落ち、そこから血しぶきが舞い上がる。

 

「さあ!先兵は掃除いたしました!本隊を迎え討ちましょう!」

 

 ナーベの言葉に漆黒の剣の4人の頭にクエスチョンマークが生える。

 

(帽子を投げた意味は……?)

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした。私一人でやってしまいまして」

 

 申し訳なさそうにお辞儀をしているのはナーベだ。

 

「い、いえ……そうですよね。あれが全部斥候と言う可能性もありますものね……ははっ……」

 

 若干引き気味にペテルが答えているが、実際見たナーベの実力は称賛に値するものである。

 

「驚いたのである……目にも止まらなぬとはまさにこのことである」

「てっきり魔法を使うかと思っていました」

「ナーベちゃんはうっかりさんだなぁ……でもそこがいい!」

 

 漆黒の面々がそれぞれの想いを口にする。ナーベの魔法により怯ませたあと順次片付けていく予定であったが、ナーベはあの程度の敵は斥候であり、後に大規模な増援が森から出てくると思い森の外の敵を一掃してしまったのだ。

 

「それで……みなさんは何をしているのですか」

 

 見ると漆黒の4人は倒れたモンスターの耳の端などを切り落として袋に入れている。

 

「こうしてモンスターを討伐した証拠を持っていくのですよ。それと引き換えに報酬がもらえます」

「へぇ……データクリスタルはドロップしないのでしょうか」

「データクリスタル?なんでしょうそれは……」

「いえ……このあたりのモンスターが落とさないならいいです」

 

 ナーベが若干しょんぼりしている様子にニニャは何だか悪いことを言ったような気分になる。

 やがて指定の部位の回収が終わり、一同は次の場所へ移ろうとするがナーベがモンスターの亡骸を指さして問いかけてきた。

 

「あの……他の素材は持っていかないのですか?」

「他の素材ですか?」

 

 ペテルの魔物の亡骸を見つめる。組合の指定している部位に取り残しはない。残った魔物の亡骸をどうするというのだろうか。

 

「ええ、このまま放置していきますが……」

「皮や肉、それに残していった武器とか使えるのではないですか?」

「ああ、レザー装備の素材としてですか。ああいうのは動物の皮で作るんですよ。確かにゴブリンやオークの皮でも出来るでしょうけどわざわざ集める人はいませんね……。たいしてお金にもなりませんし……」

「それは……もったいないですね。では私がもらってもよろしいですか?」

「は?それはいいですが……」

 

 ナーベは袋を取り出すとせっせとその袋の中へモンスターの亡骸を回収していく。袋の大きさに比べて明らかに入りきらないだろう大きさのものが吸い込まれるように中へと消えていくのはまるで魔法のようだ。

 

「ああ、これは収納用のマジックアイテムです。これで全部ですね……ありがとうございます」

 

 モンスターを丸々収納できるマジックアイテムの存在にも驚くが、モンスターの亡骸をもったいないからと回収する精神もぶっ飛んでいる。

 そんなナーベに若干引き気味ながら漆黒の剣は探索を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。キャンプを張りながら焚火の回りに漆黒の剣とナーベは集まっていた。野営の準備は終わり、焚火にくべられた鍋が煮えるのを待っている。

 

「いやぁ、それにしてもナーベちゃん強いね。可愛いし!やっぱ俺と付き合わね?」

「私の体をお望みですか?」

「やめろって!ルクルット!ナーベさんに変なこと吹き込むんじゃない!」

「いや、俺だって体だけとか思ってないよ?俺の求めるのはもっとなんていうか……ラヴだよ、ラヴ!」

「もうルクルットは無視してください。ナーベさん」

「そうですか?」

 

 ルクルット以外のメンバーはもはや世間知らずのお嬢様を教育している気分である。そして話題はナーベの強さに向かう。

 

「それにしてもナーベさん、すごかったですね」

「あの剣の腕はまさに王国戦士長に匹敵するのである」

「うん……それこそ冒険者じゃなくてももっとお金を稼ぐ方法があるんじゃないですか?なぜナーベさんは冒険者に?」

 

 剣の強さはナーベラルの取得している1レベルの戦士スキルを100レベルの肉体で扱っただけであるがそれを言う必要はないだろう。それよりも当初の目的を話したほうがいいかもしれない。ニニャの質問に少し考え込んだ後ナーベは答える。

 

「そういえば言っていませんでしたね。みなさん、モモンガ様をご存じないでしょうか?」

「モモンガ様?」

 

 ナーベの話した内容(カバーストーリー)はこうだ。

 ナザリックという場所にいたはずがいつの間にかここへ飛ばされており、自分の父ともいえるモモンガ様という人と離れ離れになってしまった。そのため、生き別れの父の情報を求めて情報の集う冒険者となって探しているという話だ。

 

「申し訳ありませんがモモンガさんと言う方にはお会いしたことがありませんね。ナザリックと言う土地も聞いたことがありません」

「そうですか……」

 

 期待していたのか落ち込んだ表情を浮かべるナーベに一同は悪いことをした気分になる。そして少しでも元気を出してもらおうと励ましの言葉をかける。

 

「元気出してください!きっと見つかりますよ!」

「我々も他の冒険者たちに聞いてみるのである」

「ありがとうございます。みなさんはとても良い方なのですね……。チームワークもとても良く思えましたし、何よりチーム名が抜群にかっこいいですよね」

「チーム名?そういえばナーベちゃんチーム名にこだわってたな。このチーム名はニニャが言い出しっぺでなぁ」

 

 ルクルットが面白そうにニニャを見つめる。

 

「ちょっと!やめてください!若気の至りです」

「そういうなって。ナーベちゃんは知ってるかな?だいたい200年くらい前に十三英雄って言うのがいたんだよ」

「十三英雄?41人ではなくて?」

「実際はもっと多かったって話だけど41は多すぎないか?とにかくそのうちの一人が暗黒騎士でな、四大暗黒剣と言うのを持っていたらしい」

「四大暗黒剣!!!」

 

 ナーベの目が一気に輝き出す。持ち前のレアアイテムを愛する心が刺激される言葉だ。

 

「邪剣・ヒューミリス、魔剣・キリネイラム、腐剣・コロクダバール、死剣スフィーズその4つを持って四大暗黒剣と言う。だったら全部俺たちで集めてしまおうぜってことで漆黒の剣って名前にしたのさ。なっ?ニニャ」

「それは素晴らしいですね!ぜひ私もお目にかかりたいものです!」

 

 興奮した様子ではしゃぐナーベ。

 その様子は、まるで英雄譚を聞いてはしゃいでる子供のようだ。その美しい容姿と相まって子供っぽいその反応は微笑ましく、漆黒の剣の4人はさらなる好感をナーベに抱く。

 

「でももしかしたらアダマンタイト級冒険者の誰かが持ってるかもしれないですけどね」

「ニニャそれを言うなって!」

 

 アダマンタイト級冒険者。それは冒険者のランクで最高に位置するものだ。そこまで成り上がれば手に入る情報も格段に上がるだろう。確かにレアなアイテムを持ってる可能性も高い。

 

「その……アダマンタイト級冒険者の方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか」

「あー、ナーベちゃんは冒険者になったばかりだから知らないよなぁ。よし!頼れるルクルットお兄さんが教えてあげちゃおう!まずは王国では蒼の薔薇と朱の雫っていう2つだな。バハルス帝国には銀糸鳥と漣八連。竜王国にはクリスタル・ティアだっけか。知ってるのはこれくらいだなぁ」

「王国にはたった二つですか……」

「それだけ達することが難しい頂なのである」

「だよなぁ……。だけど蒼の薔薇なんかは女だけのチームだっていうぜ?ナーベちゃんが入ったらさぞかし華になるんだろうなぁ」

「皆さんチーム名を決められてるんですね」

「チーム名だけじゃなくて二つ名持ちも多いぜ?ニニャの術師みたいにな」

「やめてくださいよルクルット……。でもナーベさんだったら何でしょうか。きっとそのうち付けられるんでしょうね」

「そりゃ美しい姫で美姫だろ!そしてアダマンタイト級冒険者になったら髪の色から言って黒かな?」

「なるほど……では私にはぜひダークネス・プリンセスと……」

 

 ナーベが自分で付けようとするのを聞き一同は残念そうな顔を浮かべる。この変わったメイドは見た目と強さはとてもいいのだが、ネーミングセンスが疑わしいというのがだんだんわかってきた。

 

「あの!ナーベさん!きっと二つ名はそのうち誰かがつけてくれますから!」

「そうそう!自分でつけるものじゃないし!」

「であるな!」

「そうですよ!きっとお似合いのがつきますって!」

「そうですか……」

 

 ナーベ本人は残念そうな顔をしているが、漆黒の剣の必死の説得によりおかしな名前がつくのは阻止される。

 

「しかし、もしその四大暗黒剣をアダマンタイト級冒険者が持っていたらどうするのですか?」

「どうするも何も諦めるしかないでしょう」

 

 ニニャの言葉に一同が頷く。銀級の自分たちにとってアダマンタイト級とは雲の上の存在にすぎない。

 

「そうですか?PVP(決闘)を挑んで奪い取ればいいじゃないですか?」

 

 ナーベは当たり前のように言うが、漆黒の剣の面々は顔を見合わすと笑い出す。

 

「あはは、相手は最高位のアダマンタイト級冒険者チームですよ」

「ナーベちゃんはやっぱ面白いなぁ」

 

 冗談だと思い大笑いする漆黒の剣の4人。

 しかし、笑われながらもナーベはもし冒険者チーム「蒼の薔薇」に会う機会があったらぜひ奪い取りコレクションに加えようと心にメモを残すのだった。


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