Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する意見
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会 競争法部会
第1 総論
この度、公正取引委員会から、デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引に、独占禁止法の優越的地位の濫用規定を適用する際の考え方(案)(以下「考え方(案)」という)が提示されている。これに関して、確かに、デジタル化が進む中で、これまで独占禁止法が想定していなかった新たな業種、事業に関して、現行の独占禁止法でどこまで対応できるのかを検討することは必要なことである。
しかし、独占禁止法の目的は公正自由な競争を促進し、国民経済の発展に資することにある。国際的にデジタル化が進む中で、今やデジタル産業は、イノベーションの源泉として、Society 5.0の実現、経済発展に必要不可欠のものとなっており、デジタル産業をいかに促進させていくかがわが国において重要な課題であると認識している。公正自由な競争を阻害しない範囲でデジタル事業を行いやすくする環境整備が求められるのであり、その観点からすれば、個人情報保護法がすでに個人情報保護と事業活動とのバランスに慎重に配慮して規律を設けている分野について、新たに独占禁止法上の問題として取り上げるほどの必要性があるのかは疑問である。そうしなければならないほどの競争上の障害が発生しているのかといった検討を十分に行わないまま、考え方(案)に示された不明確な方針に基づき執行がなされることで、むしろわが国経済の発展、Society 5.0の実現を阻害することを懸念する。
以下、考え方(案)の問題点を述べる。
【適用対象の不明確性による萎縮効果】
まず、全体的に文言が不明確であることに加え、例示が少なく、適用対象が非常に曖昧である。それゆえ、法律の解釈を示し、予測可能性を担保するというガイドラインとしての機能が不十分であり、法的安定性を欠く。法律を遵守するために最善の努力を尽くしたとしても、基準が曖昧であるために、優越的地位を濫用したと認定されてしまうおそれがあり、萎縮効果が高く、日本の投資先及びイノベーション環境としての魅力が損なわれる。
【デジタル・プラットフォーマー規制の副作用の評価不足】
次に、考え方(案)では、デジタル・プラットフォーマーを過度に規制することの副作用が適切に評価されていない。デジタル・プラットフォーマーは、ユーザーのみならず、広告主、ウェブサイトのオーナー(いわゆるパブリッシャー)、アプリ・ディベロッパー、プラットフォーム・ビジネスに参加する小売店等の関連事業者にもサービスを提供しており、例えば、ユーザーデータ(プライバシー規制を遵守するのに必要な、匿名化や適切な承諾を得たデータ)を関連事業者に提供することにより、より良い広告機会やビジネス機会を提供し関連事業者の事業をサポートしつつ、資金源を確保し、結果として、インターネットを通じた無料(あるいは低価)のサービスを提供するなど、ユーザーに多大な利便を提供している。このようなメリットを軽視し、個人情報等の取得を必要以上に困難にすれば、デジタル・プラットフォーム事業者における新規のイノベーションを阻害するのみならず、既存のサービスの提供にも支障をきたし、結果として、ユーザーや関連事業者に大きな不利益を与えるおそれがある。
【競争法の国際的標準からの乖離】
加えて、考え方(案)で示された個人情報保護分野に競争法で規制をかけるという方策は、国際的潮流に反することも指摘したい。公正取引委員会の杉本委員長の2019年の年頭所感の通り、日本の独占禁止法も、グローバル競争の中で海外競争法との平仄が求められている。そのような中、競争当局が個人情報の取り扱いについて判断を示した事例として知られているドイツ連邦カルテル庁(「FCO」)のフェイスブック事件においては、多くの競争当局(米国連邦取引委員会 及び欧州委員会 等)が、プライバシーに関する問題は競争法の射程外であるべきだ、との見解を示しているところであり、また、FCOの判断自体も、消費者保護についてはこれを取り扱う他の法的手段や執行機関が存在するため、FCOが消費者保護法に依拠するべきではないということを理由として、その後、ドイツの裁判所で差し止められている。このことからも、個人情報の保護はプライバシー法において規制すべきであり、少なくとも、プライバシー法において合法とされている行為に対して競争当局が規制を行うことは、市場全体のルールに混乱を招き、望ましくないとするのが世界的潮流であると考える。日本の独占禁止法の方針が、国際的に認められた競争法の原則から離れ、日本の競争環境が諸外国に劣位することを懸念する。
以上の通り、考え方(案)には、【適用対象の不明確性による萎縮効果】、【デジタル・プラットフォーマー規制の副作用の評価不足】、【競争法の国際的標準からの乖離】といった問題点がある。経団連としては、デジタルテクノロジーとデータを高度に活用して社会全体の最適化を図る「Society 5.0 for SDGs」の実現を掲げておるところであり、国内デジタル事業に必要以上の規制を課し、イノベーションを阻害する結果とならないことを切に要望する。そこで、上記問題点の解消に向け、次の各論の通りの修正及び明確化を求める。
第2 各論
【デジタル・プラットフォームの定義の国際的平仄】
考え方(案)では、「デジタル・プラットフォーム」について、「情報通信技術やデータを活用して第三者にサービスの「場」を提供し、そこに異なる複数の利用者層が存在する多面市場を形成するという特徴を有するもの」とされている。しかし、現行の日本法上、「デジタル・プラットフォーム」の定義が定められていないことから、その定義を定めるにあたっては、諸外国の例も参考にしながら、注意を払い、慎重に検討を行うべきである。現在の記載では、漠然としているゆえ、相当幅広く解釈可能であり、事業者をして、自らの事業が「デジタル・プラットフォーム」提供事業を行っているのかの判断が難しく、混乱をもたらすおそれがある。
そこで、考え方(案)が適用され得る具体的なビジネスモデル・事業者・サービスを限定しつつ、国際的な平仄を取るべく、例えば、EUのP2B規制(REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation service)が、「プラットフォーム事業」を、オンライン仲介サービスのうち、1)オンライン・プラット・フォームであり、2)ビジネス・ユーザーが消費者に商品又はサービスを提供し、ビジネス・ユーザーと消費者との間の取引を容易とするものであること、という2点を充足するものと定義し、対象を限定していることを参考としてはどうか。
【個人情報「等」の定義】
考え方(案)では、「個人情報等」について、「個人情報及び個人情報以外の情報」と記載されている。しかし、個人情報保護法による規制との調和の観点から、「個人情報」を超えた概念は導入すべきではない。また、仮に、「個人情報」を超えた対象について記載する必要性があるとしても、「個人情報以外の情報」が何を意味するのか、及びその重要性については、明確な説明がなされていない。これでは、「デジタル・プラットフォーマーの予見可能性を向上させる」との考え方(案)の目的に反する。
- そこで、この「等」の部分は削除すべきである。
- 仮に、削除しないというのであれば、「消費者に不当に不利益を与える」ことを防止するという趣旨を踏まえ、「個人情報等」とは、例えば、「個人情報及び
個人情報以外の個人の消費者としての属性等の個人情報以外の個人に係る情報であって、その利活用の仕方によって、当該個人が不当に不利益を被る可能性のある情報をいう」に修正すべきである。 - また、これ以外の文言とするとしても、「個人情報以外の情報」としている部分については、何らかの制限をかけるべきである。
- 加えて、何が個人情報等の「等」に含まれるのかを例示すべきである。
【デジタル・プラットフォーム提供事業以外で得る「個人情報等」】
考え方(案)では、EC事業などの「デジタル・プラットフォーム」を提供する事業を行っている企業を「デジタル・プラットフォーマー」と定義している(考え方(案)1頁下から3行目終行~2頁4行目)。しかし、このままの記載では、同一企業がデジタル・プラットフォーム提供事業とリアル事業(例えば、対面販売等)の両方を行っている場合、リアル事業で収集した情報も、デジタル・プラットフォーマーが収集した情報として、一律規制の対象になるかに読めてしまう。
- そこで、この度規制の対象となる「個人情報」及び「個人情報等」とは、デジタル・プラットフォーム提供事業にて取得するものに限定されることを確認したい。
- また、明確性の観点から、その旨を明記すべきである。
【デジタル・プラットフォーマー規制の必要性】
考え方(案)2頁の1には、「自己の取引上の地位が取引の相手方である消費者に優越しているデジタル・プラットフォーマーが、取引の相手方である消費者に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当該取引の相手方である消費者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害する」と記載がある。ただ、本当に、消費者の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されているという事実があるのかは疑問である。公正取引委員会による2019年4月の消費者調査結果においても、7割弱(66.8%)の消費者が「デジタル・プラットフォームのサービスを利用している中で、個人情報や利用データの収集、利用、管理等について、具体的に何らかの不利益を受けたと感じたことはない」(Q17)と回答しており、デジタル・プラットフォーマーによる消費者の個人情報等の取得・利用に関して規制をしていくほどの背景事実の存在が不明である。
そこで、まずは、なぜ今デジタル・プラットフォーマーに関して、考え方(案)のような整理を行う必要性があるのかを、具体的な事例に即して説明していただきたい。
【競争促進性の記載】
独占禁止法違反の判断においては、競争促進的要素と反競争的要素とを比較検討しながら個々の案件についての評価を行うことが重要である。しかし、考え方(案)の「基本的な考え方」の個所には、公正競争阻害性のみ記載され、競争促進的要素が検討されるか否か、及びどのような場合に検討されるかについて、一切記載がない。個人情報に配慮した形でのデータの活用とそれによるサービスの向上は、競争を促進するものであり、またこれを活用する関連事業者はプラットフォーム事業者に止まらず多岐にわたることから、そのような事実への配慮が必要である。
そこで、このようなデータ・ドリブン・イノベーションの特性を考慮すべきことを明記する等、デジタル・プラットフォーマーの競争促進性に関する記載も行うべきである。
【個人情報の経済的価値】
考え方(案)の2では、個人情報を提供する消費者が優越的地位の濫用規制における「取引の相手方」となるとされ、その理由として、「個人情報等は、・・・経済的価値を有する」と記載されている。しかし、個人情報が経済的価値を有するとの合理的根拠は見当たらないと考えられるところ、仮に合理的根拠があると判断するのであれば、その客観的なエビデンスが示されるべきである。それが示されないまま、法改正も経ずに、ガイドラインの策定が行われれば、法的安定性ならびに事業者の予測可能性を害する。
- そこで、「経済的価値」を有すると判断した根拠について、客観的に検証可能な形で示すべきであり、また、仮にその「経済的価値」が算定可能なものであるという前提であれば、その算定方法を客観的に検証可能な形で示す必要がある。
- もし、これらを示すことができないのであれば、この部分の記載は削除すべきである。
- そもそも、個人情報の経済的価値を算定して課徴金を課すことができるのか疑問である。
考え方(案)の3では、デジタル・プラットフォーマーが個人情報等を提供する消費者に対して優越した地位にあることの定義を、「消費者がデジタル・プラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても、消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合」とするとともに、以下の3類型のいずれかに該当する場合には、「通常、・・・取引上の地位が優越していると認められる」旨記載している。
- 「消費者にとって、代替可能なサービスが存在しない場合」
- 「代替可能なサービスが存在していたとしても当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスの利用を止めることが事実上困難な場合」
- 「当該デジタル・プラットフォーマーが、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合」
しかし、上記定義や挙げられた類型に関しては、不明確で過度に広範に適用されるおそれがあるため、以下の次の通り、明確化等を求める。
【優越的地位の認定の基準】
上記の通り、考え方(案)では、「デジタル・プラットフォーマーが個人情報等を提供する消費者に対して優越した地位にある」ことの定義として、「消費者がデジタル・プラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても、消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合」とされている。しかし、既存のB2Bに適用される「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」には、「甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合」とあり、考え方(案)では、「著しく」、「大きな支障」といった言葉が消え、「優越的地位」認定の基準が相当程度緩やかになっているように思われる。
- そこで、優越的地位の定義としては、例えば、「消費者がデジタル・プラットフォーマーから著しく不利益な取扱いを受けても、消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービス
を利用するためにはの利用を中止するという選択が事実上不可能であり、これを受け入れざるを得ないような場合である」に修正すべきである。 - また、仮に上記の通り修正しない場合でも、B2Bにおける優越的地位の認定基準より緩やかなものとならないよう文言を修正すべきである。
【①「代替可能なサービスがない」ことをもって優越的地位にあるとすること】
優越的地位にあるといえる場合の一つとして、①「消費者にとって、代替可能なサービスが存在しない場合」とある。しかし、複雑多様なデジタルサービスが存在し、消費者の嗜好も多様化しているなか、そもそも「代替可能なサービスがない」と判断できるのかが疑問である。また、仮にできるとしても、現状の記載のままでは、需要の低い(利用しなくても実生活上支障がない)サービスゆえに、他事業者が参入せず、代替可能なサービスが存在しない場合も考えられるところ、このようなものまで優越的地位にあるとみなされるおそれがある。
- そこで、まずは、どのような場合に「代替可能なサービスがない」と判断するのか、その基準や例を示すべきである。
- それが不可能であれば、①は削除すべきである。
- 仮に、削除しないとするのであれば、①の文言は、例えば、「消費者にとって、当該デジタル・プラットフォーマーが提供するサービスの利用が必要不可欠であり、代替可能なサービスが存在しない場合」に修正すべきである。
【②「サービスの利用を止めることが事実上困難」ということをもって優越的地位にあるとすること】
優越的地位にあるといえる場合の一つとして、②では「当該デジタル・プラットフォーマーが提供するサービスの利用を止めることが事実上困難な場合」とされている。しかし、「困難」という文言は不明確であり、必要以上に広く解釈されるおそれがある。
- そこで、どのような場合に「サービスの利用を止めることが事実上困難」と判断され得るのか、基準や例を示すべきである。
- その上で、②の文言は、「当該デジタル・プラットフォーマーが提供するサービスの利用を止めることで生活に大きな支障が発生するため、当該サービスの利用を止めることが事実上困難な場合」に修正すべきである。
【③「ある程度自由に取引条件を左右することができる」ことをもって優越的地位にあるとすること】
優越的地位にあるといえる場合の一つとして、③には、「当該デジタル・プラットフォーマーが、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合」とある。しかし、「ある程度」とはどのような範囲であるのかが不明確である。また、この記載では、サービス約款に約款変更条項が入っていれば、約款を変更することにより、一見、消費者との関係で取引条件をある程度自由に変更できるので、③に該当するように読めてしまう。前掲のB2B取引に関する「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」において、「甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合」とあることからすれば、そことの平仄をあわせるべきである。
- そこで、③に関しては、まずは、「ある程度」の範囲を示すべきである。
- その上で、文言に関しては、例えば、「当該デジタル・プラットフォーマーが、
その意思で、ある程度自由に、一方的に価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右することができる地位にある消費者に不利益に変更した場合であっても、消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスの利用を中止するという選択が事実上不可能であり、これを受け入れざるを得ないような場合」、あるいは、「当該デジタル・プラットフォーマーが、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合で、消費者にとってデジタル・プラットフォーマーが提供するサービスの利用を止めることが実生活上支障をきたすため、デジタル・プラットフォーマーが消費者にとって不利益な取引条件の変更を行っても、消費者が受け入れざるを得ないようなとき」に修正すべきである。
【優越的地位の認定の基準となる消費者】
消費者1人1人のサービスの利用状況や利用方法、嗜好等によって異なってくるものであり、膨大なユーザーが存在するオンライン事業において、事業者をして、個人個人の消費者が①~③に該当しないかを判断することは到底できない。もし、優越的地位の認定の基準となる消費者を個々の消費者とすれば、ある1人の消費者が事後的に、優越的地位の濫用を受けたと主張したというような結果論によって判断される危険性があり、事業への萎縮的効果が非常に高くなる。
そこで、優越的地位の認定の基準となる消費者については、例えば、「当該サービスを利用している消費者の大多数」であることを明確にするべきである。
【「通常、取引上の地位が優越している」との文言】
考え方(案)では、前述の通り、①~③に該当すれば、「通常、当該デジタル・プラトフォーマーは消費者に対し取引上の地位が優越していると認められる」とある。しかし、前述の通り、①~③の記載はあいまいであり、過度に広範に適用されるおそれがある。
そこで、「通常」認められる、ではなく、認められる「可能性がある」、「場合がある」等の表現に留めるべきである。
考え方(案)の5(3頁~7頁)では、優越的地位の濫用行為として以下の類型が挙げられている。
- (1)ア 「利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること」
- (1)イ 「利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を取得すること」
- (1)ウ 「個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること」
- (1)エ 「自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対し、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等の経済上の利益を提供させること」
- (2)ア 「利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を利用すること」
- (2)イ 「個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を利用すること」
これらに関しては、文言等の解釈につき個人情報保護法との関係性で不明な点が存在する。また、考え方(案)中では、問題が生じないセーフハーバー又は例外の記載が少なく、どのような行為を行えば独占禁止法上違反となるのかが判然とせず、事業者に混乱をもたらす。
そこで次の通り、個人情報保護法を遵守していれば原則問題ないこと、及び個人情報保護法上問題ない行為であっても優越的地位の濫用となる場合があるのであれば、その部分に関して具体例や基準を挙げるなどの明確化を行うこと等を求める。
考え方(案)の5全体に関して
【濫用の認定における考慮要素】
現行のB2Bに関する「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の21頁では、取引当事者間で取引の条件等を提示する際にその理由を十分に説明したか否かが、濫用行為かの判断の考慮要素となることが明記されている。ところが、考え方(案)には、誠実な交渉、十分な説明といった考慮要素は、これまで事業者が実際に事業活動を行う際の一つの行動指針として実務上重要な役割を果たしてきたにもかかわらず、その旨の言及がなく、事業者がどのように行為すれ独占禁止法を遵守できるのかという点について、明確性を欠いている。
そこで、契約約款の内容、周知方法等から、事業者側から消費者に対する誠実な情報提供が行われているといえる場合には、優越的地位の濫用該当性を否定する方向の要素として考慮することを明記すべきである。
【対価に対し相応でない品質のサービス】
(1)及び(2)本文には、それぞれ「対価に対し相応でない品質のサービスを提供すること等により、消費者に対して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる」と記載がある。しかし、仮にデジタル・プラットフォーマーが優越的地位にあるとしても、「正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える」か否かは、対価とサービス品質の比較だけでなく、サービス料や技術の進歩、物価情勢を含めた社会情勢をも考慮して判断されるはずである。現状の記載では、「正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える」かの判断において、対価とサービス品質との比較ばかりが考慮されるおそれがある。また、そもそも、個人情報は、金銭の様に定性的・定量的にその価値を測ることができるものではなく、デジタル・プラットフォーマーの消費者に対するサービスの提供と、当該消費者から取得する個人情報が対価関係にあるものでもない。消費者からの個人情報等の取得とデジタル・プラットフォーマーの消費者に対するサービスが対価関係に立つことを前提に、その両者の価値に不均衡が生じることを違法性の根拠として、優越的地位の濫用となる行為の類型を抽出し、規律することは相当でない。かかる観点からは、考え方(案)が、各不利益行為の違法性の根拠として、一貫して、「対価(消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等)に対し相応でない品質のサービスを提供すること等により、消費者に対して、正常な商習慣に照らして不当に不利益を与えることになる」と述べているのは不相当である。
- そこで、「対価に対し相応でない品質のサービスを提供すること等により」という部分を削除するとともに、他に考え方(案)中に使用されている「対価として」「対価に対し」の表現に係る文言を削除いただきたい。
- 仮に、削除しないとしても、濫用の認定基準はB2Bに比して緩やかになることのないよう留意すべきである。
- また、その上で、(1)ア~(2)イの各類型に該当する行為があった場合に、どのような理由でサービスが対価として不相応となるのかを、具体的にご教示いただきたい。
(1)ア~ウ及び(2)ア、イに関して
【利用目的】
(1)イ及び(2)アにおいて、「利用目的の達成に必要な範囲を超えて」との記載があるが、「利用目的」が何を示すのかが明確ではない。仮に、プライバシーポリシーなどで「特定している利用目的」ではなく、当該取引の履行に必要な範囲に限定した「利用目的」を指すのだとすると、データの有効活用が困難となり、産業の発展を著しく阻害するおそれがある。
- そこで、考え方(案)記載の「利用目的」とは、個人情報保護法に基づきプライバシーポリシーなどで特定されている「利用目的」と同義であることを確認したい。
- その上で、明確性の観点から、「利用目的
の達成に必要なとして特定している範囲を超えて」と修正すべきである。また、【想定例②】の記載は、「~、特定している「商品の販売」という利用目的を超えて、~」とすべきであり、(注3)、(注6)、(注7)中の「利用目的」との文言は「特定している利用目的」に修正すべきである。
【利用目的の通知方法】
(1)ア(注1)において、利用目的を知らせず個人情報を取得することに関し、「自社のウェブサイトの分かり易いところに利用目的を掲載した場合や、消費者に対し、電子メールなどにより利用目的を通知した場合は、通常、問題とならない」とされている。一方、(注2)では反対に、問題となり得る通知方法についていくつかの例示がなされている。しかし、(注1)に関しては、情報の取得が、ウェブサイトを通じて得るものでない場合など、「ウェブサイトへの掲載」が利用目的を通知・公表する手段として妥当ではない場合もある。また、(注2)で挙げられている「利用目的の説明が・・・他のサービスの利用に関する説明と書き分けられていない」といったケースも、消費者にとっては、むしろ書き分けないほうが分かりやすいサービスもあり得る。
- そこで、まずは、考え方(案)中の「利用目的を通知」に関しては、個人情報保護法上許容されている方法で通知すればよいことを確認したい。
- そのうえで、明確化の観点から、上記(注1)の文言は、「自社のウェブサイトの分かり易いところに」から「自社のウェブサイトの分かり易いところ、その他の当該消費者にとって分かり易いところに」に修正すべきである。
- また、(注2)の「他のサービスの利用に関する説明と明確に区別されていないこと」という部分は削除いただきたい。
【取得の状況からみて利用目的が明らかなとき】
消費者が契約の申込みの際に事業者に提供した情報を、事業者が、不正契約でないかの審査の目的で利用することは実務上あるが、個人情報保護法18条4項4号を根拠に、「利用目的が明らか」として、利用目的に「不正契約でないかの審査」と記載されることはまれである。
- そこで、個人情報保護法同様、利用目的が明らかな場合には、その通知等は不要であることを確認したい。
- また、明確化の観点から、(1)アの記載を、「取得の状況からみて利用目的が明らかではなく、かつ、利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること。」に修正すべきである。
【消費者の同意】
(1)イ(注3)及び(2)ア(注6)、(注7)に、「ただし、消費者が、サービスを利用せざるを得ないことから、・・・やむを得ず同意した場合には、当該同意は消費者の意に反するものと判断される場合がある。」とある。しかし、オンラインの情報取得や利用については、消費者の間でかなり嗜好や依存度に違いがある一方で、膨大な数のユーザーが存在し、一人一人が「やむを得ず同意していないか」を個別に確認することは到底できない。それにもかかわらず、この考え方(案)を守ろうとすると、一人一人の消費者に個別の確認をしなければならないことになり、実務上不可能である。消費者が個人情報の提供に同意するよう強要又は強制されうるといった潜在的な懸念は、プライバシー法によって適切に対処すべきである。
- そこで、まずは、(1)イ及び(2)アで求められる同意プロセスは、オプトアウト方式も含め、個人情報保護法上適法とされる同意プロセスを経ていれば問題ないことを確認したい。
- その上で、このただし書きの部分は、削除すべきである。
- どうしても削除できないというのであれば、「やむを得ず同意した場合」(同意はしているが「意に反して」いる場合)に関して、事業者にとって予見可能な客観的な要件の提示や例示を行うべきである。
- また、「やむを得ず同意」をしたか否かは、個々の消費者を基準に判断するのではなく、「当該サービスを利用している消費者の大多数」を基準に判断することを確認したい。
【個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置】
(1)ウ及び(2)イにおいて、「個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置」がとられていないことが濫用行為として挙げられているが、これも個人情報保護法との関係性が明らかでない。また、このような措置がなされていないことが、なぜ「優越的な地位の濫用」となるのかも不明である。
そこで、考え方(案)中の「個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置」とは、個人情報保護法上の安全管理措置と同義であることを確認したい。
【第三者への提供】
(2)ア【想定例⑥】は、「デジタル・プラットフォーマーF社が、サービスを利用する消費者から取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく第三者に提供した」場合を優越的地位の濫用の例としている。しかし、提供には第三者提供もあれば委託提供もあり、後者の場合は、個人情報保護法上本人同意は不要であるし、それ以外にも本人同意が不要な法定類型があることから、この【想定例⑥】についても、個人情報保護法との整合性を踏まえた上でより一層明確化が必要である。また、(注7)の「なお、提供された個人情報を、消費者の同意なく、社内の営業部門から総務部門に提供することは、通常、問題とならない」という文章についても、本考え方における「第三者への提供」の定義を明確化していないこと、個人情報保護法との関係を整理していないがために何を示しているのか判然としない。
- そこで、まずは、考え方(案)における「第三者」及び「提供」とは、個人情報保護上のものと同義であることを確認したい。
- その上で、個人情報保護法上、同意を得ずとも適法とされている類型の提供であれば、優越的地位の濫用とはならないことも併せて確認したい。
【匿名加工情報】
個人情報保護法上の「匿名加工情報」に関しては、個人が特定できないよう適切に加工されたものであり、目的外利用や第三者提供等がなされても消費者に不利益を与えることにはならない。また、総論で述べた通り、関連事業者も含め、デジタルサービスを提供・利用する事業者にとって非常に有用なものであり、イノベーションの源泉といえる。
そこで、匿名加工情報の要件を満たす個人情報に関しては、個人情報保護法同様、同意なしに目的外利用や第三者への提供が行えることを確認したい。
(1)エに関して
【エの適用範囲の明確化】
(1)エに濫用行為の類型として、「自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対し、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等の経済上の利益を提供させること」が挙げられている。しかし、前述の通り、そもそも、消費者からの個人情報等の取得と事業者の消費者に対するサービスが対価関係に立つことを前提に、その両者の価値に不均衡が生じることを違法性の根拠として、優越的地位の濫用となる行為の類型を抽出し、規律することは相当でない。また、消費者がサービスを利用するための「対価」として提供している個人情報等とは別に、追加的に提供する個人情報等の「経済上の利益」とは具体的に何を想定しているのか不明確であり、客観的な判断が困難である。進歩の激しいデジタル業界においては、目に見える「追加的なサービス」の提供等がない場合でも、技術進歩に伴い新たなデータの取得が必要となる場合はしばしば存在するし、有料サービスであれば、物価上昇によって、サービス料の引き上げが必要になることもある。これらまで「対価」とはみなされない可能性があれば、技術進歩に大きな萎縮効果を生み、実務に混乱を招くと考えられる。
- そこで、(1)エは削除すべきである。
- 仮に、削除しないとするのであれば、「対価」の定義及び「対価としての個人情報等」とは別の「経済上の利益」とはどのようなものを指すのかをご教示いただきたい。
- また、消費者がサービスの利用のための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等の経済上の利益を提供させる場合であっても、社会情勢の変化等(たとえば技術の進歩、物価上昇)に照らして適正な範囲にとどまるときは、問題とならない旨を明記すべきである。
第3 その他
【内外のイコールフッティング】
本年6月21日に政府が閣議決定を行った「成長戦略フォローアップ」では、消費者保護関連法令、電気通信事業法、旅行業法の域外適用等について述べられている。多種多様なデジタル・プラットフォーマーには国内事業者も国外事業者も存在することから、公正取引委員会は、国内外デジタル・プラットフォーマーに対して、差別なく平等に対応をすべきである。