オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー

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41 会談

 

 そして王国と帝国の会談当日。その前にブレインが闘技場で暴れ回って大番狂わせがあったり、エンリとネムへのお土産を買ったりして時間を潰したりとそこそこに色々あったのだが、会談には何も支障は出なかった。

 最初の予定通り「黒銀」は会談の会場の護衛を。場所は王城ではなく帝都の離れにある大きな離宮のような場所だった。さすがに本丸では会談などやらないということだろう。

 ラナーの護衛も当初から変わらず「蒼の薔薇」とクライムが。どういう内容で話し合うとか頭のいい人はどういう風に話を進めて自分の国に利益をもたらすとか気になったモモンガではあったが、この会談が失敗したら王国と帝国で戦争になるので、素人のモモンガは素直に護衛を務めていた。

 帝国の専業騎士の人々ともにこやかに会話を続けながら辺りの警戒をしていた。至って平和だ。何かを仕掛けてくるような危険は感じられなかった。

 

「しかしあの『フォーサイト』の面々が揃ってカルネ村に移住してくるとはな。私たちに同行して王国に向かうんだったか?」

「そうですね。まずはエ・ランテルで国籍を取って、その後にカルネ村に来ると。こうして少しはあの事件の前くらいの人口に戻ればいいのですが」

「まだ土地は余ってるし、ダメになっちまった畑もいくつかあるもんな。人手はまだまだ足りねえよ」

「ブレインは畑を手伝えるから良いだろ。俺たちなんて農具すら持てないんだから」

「それも不思議だよなあ。だからもっぱら召喚系のモンスターにやらせたほうがいい」

 

 そう、モモンガもパンドラもそのままの姿では鍬すら持てないので農作業を一切手伝えないのだ。パンドラは農業系スキルを持ったアインズ・ウール・ゴウンのメンバーに変身すれば別だが、そのメンバーも遊びで取得した無価値スキルとまで言っていたのだ。

 こんなネタスキル使い道ないと当時は笑っていたが、まさかそれがないと行動に制限がかかるとは思わなかった。そういう関係でモモンガたちは農業を一切できない。その代わりと言っては何だが、マジックアイテムをかなり提供していた。宝物殿には本当にゴミアイテムから用途のわからない物まで各種揃っている。それが生活の役に立つのであればいくらでも投入した

 ブレインは農家出身ということで農業を手伝えることにモモンガは少なからず嫉妬した。モモンガだって自然に触れられる農業をやってみたいのだ。それを剣の道に生きてきた、ある意味同族のブレインが手際よくやっていることが悔しかった。

 エンリが褒める程の手際だったようだし。それが余計に心に来る。

 モモンガは万全を期してアンデッドを周囲に召喚して警戒に当たっていた。そこまでしていても特に脅威がなく暇だった。だからこうして会話をする余裕がある。

 

「中ではどんな話をしているんだろうな……」

 

 扉一枚隔てた部屋の中でその会談は行われている。防音の魔法が使われているため中の声は聞こえない。ここで魔法を解除してしまうと信用問題に発展してしまうからだ。

 だからモモンガは周りの人間と話すことで時間を潰していた。

 

 

 

 

 

(まったく……。このバケモノめ。とにかく時間稼ぎができれば良いというわけか。何か策があるようだが、たしかに提案してくる内容はお互いに益のある話……。少し会わない間に変化があったか?本質は変わらないようだが)

 

 それがこれまで話してきたラナーに対するバハルス帝国皇帝、ジルクニフの所感だった。

 そもそも使者が送られてきて、例年通りならもう少しでお互いの国が牽制目的の戦争を始める時期だ。今も帝国では戦争準備をしているし、それはさすがに王国も同じのはず。提案としては休戦協定ではあるが。

 このまま戦争をして今の政権から王国を奪うことと、休戦に応じてわずかな国交を広げること。どちらが益になるかなど考えるまでもない。王国に忍ばせている間者から王国の現状は把握しているので、王国の自滅を待つという展開は期待できなくなってしまった。

 八本指という王国に巣食う諸悪の根源の撲滅。それと通じていた悪徳貴族共の検挙。そして兄だとしても悪であれば裁く度胸。そういう諸々からザナック新国王はかなり民衆から支持を得ている。

 

 そこに鮮血帝として名高いジルクニフが戦争を仕掛けて国力を落とし、王国を支配したら。王国民から反発が増えてまともな国家運営などできないだろう。

 そのためザナックが王位に着いた時点で戦争の意義は薄くなってしまった。いずれは周辺諸国を併合しようと考えているジルクニフだが、今は時期が悪い。ザナックが何かをやらかさないと王国民の支持が得られないからだ。

 そういう意味では国交を開く同盟のようなものは良い提案だろう。だからこそ、その隠しているものを暴きたくなった。

 今ジルクニフの周りには帝国の4トップたる四騎士と魔法省の重鎮たるフールーダ、それに護衛の騎士たちとフールーダの高弟がいる。ラナーの周りには「蒼の薔薇」と従者たるクライムのみ。あと同行してきたのは「黒銀」だけで、その「黒銀」は外で待機している。

 

 「蒼の薔薇」を重用していることもラナーにとっては当たり前だった。ただ「黒銀」の方はあまり間者たちもわからなかった。エ・ランテルで活動している冒険者チームで、メンバーも役職が偏っていて、ブレインがいること以外白金級ということしかわからなかった。ラナーともどういう関わりなのかすら把握できなかった。

 これには基本モモンガたちが転移魔法で移動していることと、表立って王城に行ったのはランポッサ三世に褒賞を貰う時と、ザナックの摘発の時の護衛の時のみだからだ。後者の時は認識阻害の魔法を使っていたので、その場にいたことすら間者にはわからなかった。

 アダマンタイト級ではないのでそこまで警戒していなかったことと、やはり手元に置いたのは「蒼の薔薇」だったので、重要視しているのは「蒼の薔薇」の方なのだろうということでブレインがいることから護衛を頼んだ程度だろうとジルクニフは考えた。

 あえて傍に置かなかったのはラナーの策略だった。信頼関係は真逆なのにあえて信頼していない方を傍に置くことで誤解させるためだった。

 ジルクニフとしてはラナーとはあまり関わりたくない。だが政略結婚という意味では好いカードだと思っているし、ラナーと婚姻関係になれば王国を併合することも容易くなるだろう。

 

 生理的に無理なので側室扱いでも拒否するが。

 これまでの話し合いでそれは顕著になったし、ジルクニフとしてはそろそろ決定的な一撃を与えてこの会談を終わらせようとしていた。王国が提示してきたものは土地そのもの。広大な土地を貸し出すことで農業を発展させ、王国としては貸出費を帝国から受け取り、帝国はその土地で育てたものを関税など一切かからずそのまま帝国の所有物とできる。それが王国領であってもだ。

 それだけ財政難だと、人手不足だと宣言しているようなものだが、理には適っている。王国は無駄なことをたくさんしてきた。それに比べれば何と有意義な場所の使い方か。

 だが、ジルクニフからすれば金を払ってまで他の土地で農業をする理由がない。たとえ長期的に見ても帝国の利となる行為でも、敵国と今さら有意義に仲良く事業を起こそうとは思えないのだ。

 いずれ攻め込み手に入れようと思っている土地でもある。それに王国は今武力的な意味でも衰退した。ザナックの評判が少し面倒ではあるが、悪い証拠など後から偽造すればいい。だからこの一手を放つ。

 

「とても良い案だと思う、ラナー王女。だが、君は知らないかもしれないが我が国の農業はかなり発展している。わざわざ王国の土地を借りずとも――」

「アンデッドを使役して人手の代わりとしているからですか?」

 

 その返しに、その場にいる全員が息を呑み絶句した。王国側からしたらアンデッドを使役して農業をしているなんて寝耳に水であるし、帝国側からしたら極秘も極秘、国内の本当の上層部しか知らない情報だ。

 それをここ数年帝国を訪れていないラナーが知っているはずがなかった。

 

「あら、どうかされましたか?ジルくん」

「ッ!ラナー様、ジルクニフ皇帝にそのような呼び名は……!」

「あら。幼い時の呼び名が思わず出てしまいましたわ。あの頃から変わらないとても素直に驚かれた顔をされたものだからつい。申し訳ありませんでした」

「いや、いいとも。……それよりラナー王女。どこでその情報を聞いた?情報源次第では、その口の軽い者を処罰しなければならない」

「さすが鮮血帝様。でも処罰する者などいませんわ。私がそうだろうなと思っただけですので」

「そう思った根拠は?」

 

 情報規制は完璧だった。だが、人の口を完全に防ぐこともできないだろうともジルクニフは思っている。だから何故そんな正解と呼べる推論を思いついたのか、確認したかった。

 心の内の動揺を必死に隠して冷静に問いかける。

 

「まずフールーダ様が死霊術士のリグレット様を目標にしてアンデッドの使役に注力していることは王国にまで伝わってきています。ですから、普段からアンデッドを使役するために様々な研究をしているのでしょう。そしてアンデッドの特性からして労働力としては申し分ありませんし、人手不足を解消するにはうってつけでしょう。それと私が見たのは帝国の農業生産指標。その指標と市場に出ている農作物の量、そして帝国の人口を調べれば人以外に農作物を作成している存在がいてもおかしくはないと思いました。それで二つが繋がってもしかしたら、と思ったまでです」

「なるほど。御見それしたよ」

(だから嫌いなんだ、バケモノめ)

 

 ちょっとした情報を繋ぎ合わせて真実を導き出す。今までは隠していたその能力をこうして敵国のトップや信頼のおける冒険者チームに明かしてきた。いや、人によっては把握していただろう。そうでなければ今まで提案してきた法案を産み出す頭脳の出所がわからなくなる。

 惜しみもなく切ってきたことには驚いたが。

 

「ではなんだ。その実験をやる地を提供すると?さすがにアンデッドを使用することには帝国民からも反発があるだろう。それも王国領なら問題ないと」

「はい。それに王国でも一部の召喚モンスターに農業や土木作業をやらせている場所もありますから。別段不思議なことではないでしょう?」

「ちょっと、ラナー!?そんなこと初耳よ!」

「言ってないもの、ラキュース。まだ実験的な意味合いしかないし、そもそも召喚魔法ができる魔法詠唱者やマジックアイテム、巻物の絶対数が少ないもの。本当に一部でしかやっていないことだわ」

 

 ラキュースの悲鳴にラナーは咎めることもせずそのまま返答をする。

 召喚魔法が使える巻物やマジックアイテムは金貨数百枚、もしかしたら千枚を超えるほどの高価で希少なものだ。そんなものを実験もなしに使うなど王国以外の国家でも無理だ。

 しかもこれは国策ではなく、ただカルネ村で行っているだけの事。帝国への良いカードになるからぼかして使っただけ。

 この切り返しにジルクニフは舌を巻く。いわば共同事業になってしまう。これでは否定することもできない。お互いの利益に、今度こそなってしまう。

 

 


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