オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記   作:ほとばしるメロン果汁

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本編のペロロンチーノネタは妄想です。姉のエロゲ出演作品について仲良く話をする二人ですから、多少はね。


『皇城への道中』

「それではッ! 我が師よ、今の御言葉確かに伝えさせていただきます。おそらく併せて事情も説明せねばならぬと思いますので、しばし師の元を離れるのをお許しください」

「え……あ、うん……行け」

 

 少女の力ない小さな声がバジウッドの耳に僅かに届く。

さすがにあれ程の大魔法を使って疲れたのだろうか? それともこの国の皇城に向かうという、フールーダの言葉にさして興味が無いのだろうか?

 

 できれば前者であってほしい、震える体の中でそう願わずにはいられなかった。

 

 少女が手をヒラヒラ動かし、まるでうっとおしい虫を早く追い出すように帝国の英雄に、――フールーダに命令する。それを嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに受けるフールーダ。すぐに飛行(フライ)を発動させ、バジウッドが見たこともないような速さで西門を飛び越え、皇城の方へ飛んでいった。

 おそらくあれが彼の全力の飛行(フライ)なのだろう。共に陛下(ジルクニフ)に仕え、国の仕事に携わってきたがあれほど速く飛ぶのは見たことが無かった。

 

 あのまま向かえば、あっという間に城に――

 

(城に着く……城、にィ!!? ま、不味い! あの姿で(・・・・)城に向かえばッ!)

 

 無意識下で考えていた結論に脳が覚醒し、震えていた体が飛びあがる。この場にいる人間にしか、『若返ったフールーダ・パラダイン』が誕生した事など知らないのだ。城にいる人間は誰一人、フールーダとは認めないだろう。

 つまり不審人物――侵入者あるいは賊として処理しようとする。だがおそらく捕らえることもましてや殺す事など出来はしない。なにせ相手は見た目が変わっただけで帝国の英雄(フールーダ・パラダイン)なのだ。今の飛行(フライ)の魔法をみるに、若返って魔法力が弱体化したなどという希望も持てない。そうなると城を守る守備隊に甚大な被害が出る可能性もある。

 

(あぁいや、流石にフールーダ殿なら、穏便に……いやまさか……)

 

 この場で繰り広げられた彼の様々な奇行、それがバジウッドを不安にさせる。だが彼を不安に思おうが、信頼しようが今しなければならない事は決まっていた。いつもの自分であれば真っ先に思い付く事、それができなかった今の自分を心の中で奮い立たせる。

 

「おいッ!」

「へあ!? ば、バ……バジウッド様…?」

 

 一番近い場所に崩れ落ちていた皇室地護兵団(ロイヤル・アース・ガード)の青年の胸倉を片手で掴み、無理矢理立たせる。焦点が合わない瞳に帝国騎士として情けなさを感じるが、今さっきまで自分も同じ醜態を晒していたかと思うと、少しだけ心に余裕がうまれた。

 

「そうだッ! 帝国四騎士『雷光』のバジウッドだ! いいか? 今からお前は馬を使い城に向かえ、そしてここで起こったことをありのまま(・・・・・)陛下に報告するんだ! 道中で俺の名ならいくら使っても構わん。最優先だ、わかったかッ!?」

「ハ……はいッ!」

 

 力を取り戻した瞳と言葉を確認し手を放すと、馬の元へしっかりした足取りで駆け出して行った。それを確認すると周囲で同じように膝を折り、震えている騎士達を一瞥し、声を張り上げた。

 

「お前ら何をしているッ立て! 帝国の威を示せ!! 帝国最精鋭であるお前たちがそれを常に体現せねば誰がするというのだッ!! 国を……皇帝陛下を守るのはお前たちなのだぞ!!!」

 

 その声とその意味が体に染みたのか、次々と全身鎧(フル・プレート)のガシャガシャした音が周囲に響き渡る。立ち上がった騎士達は未だに震えている者、玉座に座ったままの少女をチラチラ見ている者と様々だ。形こそ当初に戻っているが、その動揺がありありとにじみ出ている。

 

(そんな動揺しないでくれよ……少なくともこの場で一番の貧乏くじを引くのは俺だぜ……)

 

 この場の責任者はバジウッドだ。フールーダを止められなかったことに始まり、幾つもの失態をしてしまった。先ほどはああ言ったが、既に帝国の威など少女にとっては見下げ果てた物だろう。

 部下の胸倉を掴んだあたりから、じっとこちらを見ていた少女の前に進み出る。美人に見つめられるのは普段であれば喜ぶべきことだったが、今は心臓を鷲掴みにされたような気分にしかならない。無論色気のある意味じゃない、文字通りの気分だった。

 

「シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン様、私は帝国四騎士である《雷光》のバジウッド・ペシュメルと申します。まずなによりも、皇帝陛下よりこの場を任された者として謝罪をさせて頂きたい」

 

 玉座に座った白いドレスを着た少女の前で平伏する。先ほどまでのフールーダと同じく両手も両足も、そして頭も地に擦り付けた形だ。騎士としてはどのような場合でも、目上の者に跪くのが一般的となる。だがこの場で帝国が晒してしまった醜態の責任は、全て自分にあると体で示さねばならない。この後少女が合う人物――自らの仕える皇帝が少しでも軽くみられないために。

 

「……ふむ? 何か問題がありましたか?」

「……ぇ」

 

 その少女の台詞に間抜けな声が漏れた。思わず伏していた顔を上げ、まじまじと見上げてしまう。

 

「あの程度でクレー……あ、いや……ヘジンマール? 何か今後に差し障る問題があった?」

 

 玉座の後ろから様子をうかがっていた白いドラゴンに振り向き、声をかけていた。

 

「へッ!? あ、いえ……そ、そうですね。特に、なにもなかったのではないかと!」

 

 しきりに首を縦に振り何もなかったと必死にアピールする巨体のドラゴン。その度量の大きさに心の底から感心してしまっていた。あのような醜態を晒したにもかかわらず、それを見なかったことにしようと少女は言うのだ。

 

(大きいのはドラゴンやら胸やら……そしてその力だけでは無いってことか、借りを作ったかもしれんがこの場においてはありがたい。だが相対する陛下は、苦労をなさるかもしれんぞコレは)

 

 平伏から跪く形に変えたバジウッドが再び頭を下げる、勿論騎士として最大の感謝を示す形だ。

 

「――感謝いたします、ゴウン様」

「ん? ええ、それでこの後の予定などは?」

 

 本当に何もなかったかのように笑顔を向けてくる少女に、バジウッドは再度感心する。

本来であれば予定通りこのまま真っ直ぐ大通りを抜け、直接城へ行かねばならない。だが、城は今頃若返ったフールーダで騒ぎになってしまっている可能性が高い。

 

(陛下が直接お会いになればあるいは……いや、流石に陛下でも若返ったフールーダ殿とすぐに判断するのは無理か? フールーダ殿自身も説明なさるだろうが、どちらにせよ混乱は必須か)

「す、既に大通りを通行止めにしており、そこを抜け直接城に向かっていただく予定となっております。ゴウン様は初めて帝都アーウィンタールに来られたわけですので、よろしければ大通り沿いの主要施設などを私自らが、ゆっくりご説明しながら向かおうかと思うのですが?」

 

 頼む、頷いてくれ。内心の声を押し止め、あくまで「あなたのために」という好意的笑顔のまま問いかける。

 

「えぇ。では、そのようにお願いします」

 

 その了承の返事にバジウッドは思わず頭を下げかけ――

 

「ただ案内役(ガイド)は同じ四騎士のレイナース・ロックブルズ……殿? に、お願いしたいのですが?」

 

 その言葉に下げかけた頭が止まってしまった。なぜその名を知っているのか? 旅の途中か銀糸鳥に聞いた? 四騎士は帝国でもかなり名が知れているのでそこに不思議はない、だがなぜレイナースを指名するのか?

 膝を折りながら見上げると、ひじ掛けから持ち上げた手で自らの頭を指さす少女の姿。

 

 その姿が何を示すのか理解した時、体の温度が一気に下がった気がした。

国の柱と言ってもいいフールーダ・パラダインの記憶を読んだという精神魔法。少女自身もフールーダに告げていた、国家機密。それら全て少女は知っている、そう言っているのだ。四騎士の名前など思い出すまでもないのだろう。

 

「そ、それは勿論構いませんが……彼女は、その……少々事情がありまして――」

「彼女の事情ならもう知っていますから。フールーダでも解けなかった彼女の呪いについて少々興味があるのです、お願いできませんか?」

 

 玉座の上から可愛らしい微笑みを浮かべる少女。だがその笑顔を見ても、刃を眼前に突き付けられたような恐ろしさしかバジウッドには感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(とはいったものの、よく考えたら女性と馬車の密室で二人っきりじゃん……どうしよう……)

 

 馬車が揺れる――といっても僅かにだが、その馬車内でレイナースの対面に座る形でモモンガは内心苦悩していた。既に帝都内、しかも先行させていたハンゾウの報告によると城までの道半ばあたりである。ここまでの道中、若い女性二人の空間とは思えないくらい馬車内は静かだった。

 いや、案内役(ガイド)としてレイナースの知識に文句などない。最初の挨拶から丁寧で素晴らしいものだったし、西門や城壁の防衛設備の説明、帝国銀行や中央市場の規模や今回は通らない北市場についての説明など、解りやすいものだった。やや事務的というか、クールというか、いわゆる物静かなタイプの美人というだけである。

 

 そしてこれは完全にモモンガが悪いのだが、肝心の呪いの話には一切触れることができていないのだ。

 

(女性の容姿を……しかも本人が気にしてる顔を見せてって、なんだかなぁ……。別に俺にとっては少し興味があるだけで急ぐわけじゃないし、後日仲良くなってから見せて貰えばいいんじゃないか?)

 

「あちらの建物が冒険者組合になります。帝国には既にご存知の銀糸鳥、それともう一つ漣八連というアダマンタイト級冒険者チームがおりますわ。帝国ではモンスター討伐や治安維持は騎士団が行いますので、他の国と比べて相対的に冒険者の地位は低いものと思われます。ですが、最近はズーラーノーンによる"死の都"の件で騎士団も人手が取られていますので、依頼件数も増えているそうですわ」

 

 外側からは見えない窓の向こう、ドラゴンであるヘジンマールを見ながら騒ぐ群衆の先にある建物を指さすレイナース。そちらを振り向くと、その建物の前にいる群衆の中に銀糸鳥の面々が見えた気がした。

 

 彼らとは既に西門で先に別れている。モモンガとしては一緒に城へ行っても問題なかったのだが、バジウッドと少し押し問答した後、リーダーであるフレイヴァルツが涙ながらに別れを惜しんできた。とはいえモモンガとしても彼らからある程度知識や情報を貰った身、なによりアダマンタイト級冒険者という人脈を持っていて損はない。

 後日の再開の約束をしたあたりで、フレイヴァルツは泣きながら仲間達に引きずられていった。

 

 ――しかし冒険者と名乗っている彼らだが、言ってみればただのモンスター専門の傭兵だ。

 

 旅の道中でその事に気づいたとき、ややモモンガは落胆した。とはいえモモンガが一方的にこの世界の、そして冒険者の理想をイメージしていただけだ。特に気にしてはいないし、社会構造として役に立ってるなら文句などない。ただモンスターを含めた治安維持的なものは国の機関――この国であればこのまま騎士に一任するべきではないか? と思ったくらいだ。

 

「へぇ、そうなんですか。ところで漣八連とい……ん?」

 

 そこまで言い終えた所でふと視界の隅に、複数の男に追いかけられる少女の姿が映る。

正直に言えばシャルティアの目でも男か女か微妙なところだった。かなり細い路地からほんの少し見えただけだったうえに、手前には追い詰めるような男も重なっておりあまり自信はない。

 

(丁度ハンゾウ達も護衛しかさせてなかったし、少し見てきてもらうか)

 

 帝国にプレイヤーがいないかの確認の為先行させていたハンゾウ、結果から言えば未だ発見できていない。一応いないとは思うのだが、セキュリティの強そうな国の重要施設には近寄らせていないのでその部分についてはまだわからないのだ。モモンガが到着するまで一般施設や民衆の噂話を搔き集め、その後は馬車の護衛に戻っていた。その周囲を囲んでいたハンゾウの内一体を向かわせる。

 

「よし……後は兎の耳(ラビッツ・イヤー)

「あ、あの? ゴウン様? ……」

(おっと、何も言わず目の前で兎耳なんか生やしたらただの不審者だよな)

 

 その事に気づき、慌ててレイナースに対して人差し指を口に当てるジェスチャーをする。

よく考えたら帝国でこの動きは通じるのだろうか? などと考えもしたが、レイナースは勢いよく何度も頷いてくれた。短い付き合いとは言え、物静かな彼女らしくない動きに少し疑問を覚えたが、とりあえず先に湧いた疑問を解消するため兎の耳(ラビッツ・イヤー)で周囲の音を探る。

 群衆達の騒がしいドラゴンやこの馬車に対する興味の声、ドワーフの国がドラゴンを手なずけたなどの話題で周囲は盛り上がっている。そのかなり離れた所から女性の悲鳴のような声が聞こえた。

 

(うわぁ……まるでペロロンチーノさんが好きだったエロゲーのサンプルボイスみたいだな)

 

 一度話のネタにと、彼が日頃から好きだと豪語する作品の公式サイトを見たモモンガの衝撃は、色んな意味でヤバかった。TOP絵は勿論サンプルCGもアレだし、通常立ち絵もデフォが裸でアレだし、サンプルボイスも最初から途中まであんな感じだった。そして、最後の方は女の声というか犬の声だった。エロい気持ちなど抜きに声優の演技力に感心していた程だ。

 そっちの方面の作品で彼と会話のキャッチボールをするのは、世界がひっくり返らない限り無理だろうと理解できた日だった。ある意味いらない知見が広がった、有意義な経験だったと言えなくもない。

 

『シャルティア様、目的の騒動を発見いたしました。変わった服を着た人間の少女が……たった今小汚い男五人に捕まったようです』

(おっと……思い出に浸っている場合じゃないな。しかし変わった服? 庶民の服じゃないということは貴族とかか?)

 

 モモンガは自らの目で確認すべくフローティング・アイを発動させる。

飛んでいく視界、大小の建物を抜けた路地の先でその現場を目にする。

 

(ほー、あれは確かフールーダの記憶にあった『帝国魔法学院』の制服じゃないか)

 

 報告通り路地裏で小汚い男達に捕まっている少女、その服装はつい最近変人の脳内で目にしたものだった。

 

(襲われているのか? ふむ……助けるか? それともなんらかの罠か?)

 

 ズーラーノーンの影響で王国民が流入しているというし、こういった治安の悪化が表立っているのか。はたまたここまでモモンガが察知する前提でしいた、何らかの存在による罠か?

 

(いや、罠なんてあり得るのか? いやいやあの少女の年齢、シャルティアの見た目とほぼ同じだな。同情心から助けるだろうと仕向けている意図がある。ならばここは無視……いや助けるか。仮に罠でなかった場合鮮血帝に借りが作れるかもしれないし、そうなるとハンゾウじゃなく自分で助けなきゃならないが。まぁペロロンチーノさんも助けたがるだろうしな『リアルと二次元は別だからッ』とか言って)

 

 急ぎ残りのハンゾウ達に指示を出し、馬車列から現場周辺までの安全確認をさせる。

それとともに馬車内でゆっくりと立ち上がる。目の前で静かに、しかし僅かに困惑した表情のレイナースが問いかけてきた。

 

「ゴウン様? 先ほどから何か……」

 

 相手に会釈を返す。そして窓の外、少女が襲われている方向を指さし答える。

 

「どうやらあちらの方で帝国魔法学院の女生徒が、悪漢に襲われているようです。あまり時間もない様子ですので、私が直接助けに行きますね」

 

 そう言い終えると、安全確認済みを知らせる伝言(メッセージ)とともに魔法を発動させた。




ところで読者の皆さんにお聞きしたいのですが……
実は作者自身も『ハーメルンでブクマした二次連載小説の内8割が失踪する』という呪いを患っているのです、解き方を知ってる人いましたら教えてください(切実)

次話完成度60%(おそらく週末投稿

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