消費税の増税分は年金、医療、介護、子育て支援の社会保障制度を支える財源になる。これだけの税負担を国民に求めるのだ。政府は税収の使途について、説明を丁寧に尽くす責務がある。
消費税収は、社会保障の費用に充てられることが法律で定められている。二〇一二年に旧民主、自民、公明の三党が「社会保障と税の一体改革」で合意したものだ。
これまでも確保できた財源を使い制度の充実が図られてきた。年金では基礎年金(国民年金)の給付額の半額を税で賄う。受給資格期間の短縮も実施された。
医療では国民健康保険への財政支援、介護では介護職員の待遇改善、子育て支援では保育所整備などに充てられてきた。
税率が10%になったことで、新たに低年金者への給付金制度が始まり、低所得高齢者の介護保険料の軽減が強化される。各制度の安定に資する。歓迎したい。
一方、安倍晋三政権は財源の使途を変えた。三党合意では、国の借金で支えている社会保障費用に充てるはずの財源の一部を幼児教育・保育の無償化に回した。
制度を支える現役世代に財源を回す点は理解できるが、国の借金を減らすという本来の目的から政策を転換した。首相の説明は十分とは言えない。検証は必要だろう。無償化より前に待機児童の解消や保育士の待遇改善を優先させるべきだが、この点も課題を残す。
税収が予定通り借金返済に充てられているかも注視したい。
使途に疑念を持たれては税負担への理解は広がらない。民主党政権が一二年に閣議決定した改革の方針である大綱には、消費税収は「その使途を明確にし、官の肥大化には使わず全て国民に還元」すると明記されている。
安倍政権もこの方針を変えていいはずはない。増税を機にあらためて肝に銘じるべきだ。
さらに、一体改革では各制度の見直しも進めることになっている。介護サービスの削減や医療費負担増などが実施されてきた。今後も見直しは進められるが、必要な給付が削られたり不必要な負担を強いられては困る。納得できる給付と負担のバランスを実現する財源の再分配を求めたい。
高齢者数がピークに近づく四〇年にはさらなる財源確保が必要になる。その議論を進めるためにも政府は税の使い方へ理解を得る努力を惜しむべきではない。
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