「まだ先は長いですけど、いいスタートが切れました」
こう話すのは、高校生棋士・藤井聡太七段(17)の師匠・杉本昌隆八段(50)だ。
藤井七段は9月30日、王将リーグ1回戦で三浦弘行九段(45)を下し、白星発進を決めた。今後も強敵がズラリと控えるが、この勝利の持つ意味は大きい。それは藤井将棋の一段の進境を物語っていたからだ。
「藤井の指し回しは全体的に危なげのないものでした。藤井に一つ、三浦九段にも一つミスがあったようですが」
杉本八段が注目するのは、優勢になってからもスキを全く見せなかった藤井七段の対応。相手の竜を持ち駒の金、銀でこれでもかとはじき、端に閉じ込めた場面だ。
「野球にたとえれば、相手の戦意を奪う落合野球をほうふつさせるような手です。もっと早く決める順はあったかもしれませんが、本譜でも十分。勝てる将棋を確実に勝つ。藤井は今、さらなる進化を目指し、いろいろな勝ちパターンを増やしている真っ最中なんです」
次戦は10月7日の豊島将之名人(29)戦。名人には過去3連敗しているだけに、藤井七段にとっては前半最大のヤマ場となる。
「経験値の差はどうしようもなく、名人のペースに巻き込まれると厳しい戦いになりますが、全く届かないということはないでしょう」
4度目となる愛知県勢対決で地元ファンの盛り上がりは必至。師匠もまた戦いの行方をじっと見守っている。(海老原秀夫)