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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

15章 運命を切り開く者(仮)

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361 恐怖


 罠が発動しようと魔物が目の前に現れようとも俺はその全てを無視して低空を飛行しながら進む。

 理由は罠が発動する頃には既に罠の影響を受ける範囲を越えているし、もし影響を受ける何かがあったとしても風龍が全てを吹き飛ばして無効化してくれるからだ。

 それは魔物も同じことがいえる。

 目の前に出現しても聖龍が枝分かれするように小さく分裂して魔物に喰らいつき、浄化して燃やし瘴気を魔力に変換してくれるのだ。

 まぁその変換されてくる魔力はどれだけ強い魔物であっても微々たるもので改善点はまだまだあるんだけど……。


 この龍達の力を合成して完全に制御するのはかなり難しかったけど、レインスター卿との特訓で魔法はイメージだと教わってから、ずっと形になるように特訓していてようやく出来た奥義みたいなものだ。

 本来であれば対邪神や魔族の集団と戦う時まで温存しておきたかったけど、これがきっと物語の主人公であるレインスター卿と一般人である俺との違いなんだろう。

 そんなことを考えていると、四十階層のボス部屋が見えてきたので風龍と聖龍の力を解除した。


 すると身体から魔力が三割ほどごっそりと抜け落ちていく。これがこの奥義を多用出来ないデメリットだ。龍の力を完全に制御することは出来るのだが、龍の力を使った反動がくるのは龍の力を解除した時なのだ。

 そのため下手に長時間使用したり、魔物がいないところで使用したりしてしまうと龍の力を解除した時に魔力が枯渇してしまうのだ。

 まぁそのデメリットもポーラとリシアンが作ってくれた魔力結晶球のおかげで何とか使用する目途がついたんだけど……。

 それはそうと龍の力を解除した時に大量の魔力を消費するデメリットは術者の俺だけのはずなんだけど……。


「あの皆さん、なんで蹲っているんですか? これから四十階層の主部屋ですよ」

「な、な、なんだったや」

「あ、明らかにおかしいわ」

「気持ち……悪い」

「視界が揺れます」

「ただ……抱き着かれたいだけ……だと思っていたのに」

「世界が戻ってきた」

「賢者……どこまで常識を……ウプッ」

「レベルだってかなり上がっているのに掴まっているだけで精一杯だった」

「……出来れば回復魔法を……」

 どうやら加速し過ぎたことで流れる景色で酔ってしまったみたいだった。

 それから俺はリカバーとエリアヒールを発動して、暫し皆の回復を待つことにした。 


「それでさっきの移動はなんだったの?」

 いち早く回復したルーシィーさんが皆の疑問を代表して聞いてきたので素直に答えることにした。


「龍の力を完全に制御出来るようになったので、自分なりの奥義を作ってみたんですよ。ただ俺も内部情報が分からずに直接転移することが出来ない迷宮で、それも移動手段として使うことになるとは思いませんでしたけどね」 

「制御って……何度も壁や魔物にぶつかりそうになったし……」

 あ、安全性に関して説明をしていなかったな……。


「事前に説明していなかったことは謝罪します。でも誰も怪我はしなかったですよね? 一応これが完成した時に安全性を確かめていますから安心してください」

「それってもしかして……あなたの師匠やあの戦鬼将軍なんじゃないでしょうね」

「ええ。師匠達よりも前にケフィン達に手伝ってもらいました。師匠達に試してもらったのは完成した後ですよ」

 まぁそこからかなりダメ出しされて改良もさせられたけど、そのおかげでたとえ壁に衝突しても安全な飛行を習得することが出来たんだったな。


「あ、悪夢や」

「あの速度に耐えられるなんて……」

「ルシエルと旅をしたメインメンバーはもう普通じゃない」

「元々師匠や従者筆頭から普通じゃない実力者しか居なかったわ」

「言っておきますけど、皆さんも俺の従者並みにレベルが高いんですからね。それはそうとさっさと行きましょう」

 絶句しながら俺や仲間を人外扱いするような言葉が飛び出してきたので、念のため皆に聖域鎧を発動展開してからさっさと四十階層のボスを倒しに行くため扉を開く――。

 するとそこで待っていたのはメチャクチャイケメンの人族だった。


「えっとあなたは一体?」

「余を知らぬだと? まさか下賤の者とはいえ、自らが仕えておる主の名や姿さえ知らぬ者がいるとは……。だが、よかろう。余は先王と違い寛大なのだから教えてやろう。余こそはラインバード王国で唯一無二の存在となったオルタルフ・ゼレスト・オブ・ラインバードである」

 その名を耳にした俺は……いや、戦乙女聖騎士隊の皆も耳を疑ったことだろう。

 なぜなら彼こそが旧ラインバード王国を消滅させる原因を作った者だったからだ。

 ちなみに物理的にラインバードを亡国にしたのはレインスター卿なんだけれども……。


「あの人類と魔物を融合させようとしたり、死霊術を用いて生前の記憶を持ったまま死者の尊厳を冒涜するような真似をしたり、邪神をその身に宿そうとした……」

「うむ。分かったのならさっさと頭を下げぬか」

「レインスター卿に一撃で塵も残さず消滅させられた愚王」

「なん……だと……余が愚王だと? それともレインスター……レインスター…レイーン!!」

 先程までイケメンだった愚王オルタルフ・ゼレスト・オブ・ラインバードは憎悪の黒炎でその身を燃やすと、その中から美しい漆黒の翼を四枚背中から生やし、六本の腕にそれぞれ武器を持った骸骨が現れたのだった。



「る、ルシエル。何か作戦は?」

「ま、まともに戦ったら勝てない」

「ど、どうればいいの」

「転移、転移で逃げられないの」

 愚王の変化した姿を見た戦乙女聖騎士隊から次々と指示を待つ声が届いてくるが、その様子はどう見ても恐慌状態になってしまっていた。

 ただ俺は思う。これって怖いのだろうか? と……。


 正直、邪神と比べたら月とスッポンだし、師匠やライオネルが同時に襲ってくる方が命の危険を感じた。

 それに物語が本当であればレインスター卿が一撃で滅ぼし、そしてあの空間の中でこの愚王の名や死霊術に関しては一言も出なかった。 

 それはそういうことなのだろう。

 しかし思っていたよりもこの迷宮の攻略において、戦乙女聖騎士隊の状態異常耐性が高くないことや、ホラー系な要素として精神的な強さまでは手に入れていなかったように思える。

 やっぱりレベルを上げてステータスだけ高くなっても追い込まれる状況を何度も経験しないとダメなんだろう。

 そんな教訓を得て俺は一人で戦いに望むことにした。


「どうやら皆さんビビっているようなので、俺だけで倒してきますよ」

 幻想剣を幻想杖に変化させて魔力を込めていく。


「な、なんだ、その魔力は」

 驚きの声を上げながらも愚王は闇属性の攻撃魔法を俺に放ってくる。

 さらにこのボス部屋の至る所の空間が割れ、そこから魔物が顔を出してくる……が、それらは全て予想済みだった。


「申し訳ないのですが、先程から本気を出すことを決めたので」

 魔物は空間から出ることが出来ずに青白い炎となって消えていくし、愚王が放った魔法は俺の聖域鎧を貫くことが出来ずに弾かれるか、消滅していく。 


「な、何なのだ貴様は」

「レインスター卿の最後の弟子にして賢者……。そして世界を守護する者の称号を持った元ただの治癒士です……それではサヨウナラ」

 俺は全力で聖域結界を発動し、そこに浄化魔法の化身である聖龍を解き放った。聖龍は大口を開き愚王……オルタルフ・ゼレスト・オブ・ラインバードを飲み込んでいく。


「……こん……なもの……余は邪神の……写し身となった……」

「じゃあもう一丁」

 今度は愚王の真上から新しい聖龍を放ち、愚王は青白い光の奔流に飲み込まれていった。

 そして光が消え収まった時には魔石だけを残し愚王は消滅していた。


 そのことを確認した俺は魔力枯渇の症状で頭痛と吐き気が押し寄せてきたことで片膝を突いてしまい、魔力結晶球を取り出して魔力を回復させざるを得なかった。 

 その間、戦乙女聖騎士隊は誰も俺に声をかけてくれることはなかった。

 魔力結晶球が割れた頃に魔法陣が出現したので、俺は戦乙女聖騎士隊に声をかける。


「それで付いて来るか、厩舎で待っているか決まりましたか? まぁ俺はどっちでもいいんですけど、ルミナさんやエリザベスさんは皆さんが来てくれると信じていると思うし、そちらの方が嬉しいと思いますけどね」

 俺は迷宮に入ってから倒した魔物の魔石を魔法陣に投げ込んだ。これで次へ進む魔法陣が分かった。

 そして再び戦乙女聖騎士隊に目を向けると、自らを奮い立たせて俺に片膝を突きついて来る姿勢を示した戦乙女聖騎士隊の姿があった。

 しかしさすがにその反応は予想していなかったため、俺は少しだけ慌ててしまった。


「えっと、とりあえず今まで通り普通に行きましょう。ビビらないのであれば普通に連れて行きますから」

 すると皆の緊張が少しずつ解けていくのが分かった。


「強くてもルシエルはルシエルや」

「躊躇なく敵を消滅させたことに一瞬恐怖したけど、下手に出られてると慌てるところは変わらん」

「異常なまでの成長力……それでも……」

「たった数年でこれだけ差を付けられたのは悔しいですけど、それだけ過酷な経験もしていますもんね」 

「どんな時も努力してそれで結果が出なくてもさらに努力して結果を出してきた」

「ルシエルが強いのは分かっていたし、気遣ってくれる優しさを持ち合わせていることも知っている」

「その強さが考えていたよりも凄すぎただけ……」

「心置きなく私達を娶ってくれて構わないぞ」

「さて落ちついたところで、ルシエル、私達をルミナ様とエリザベスさんのところまで連れていってほしいの」

 どうやら俺も彼女達をどこかで侮っていたのかもしれないな。

 そう思いながら俺は告げる。


「五十階層までノンストップで行きますから、振り落とされないでくださいよ。じゃあ行きましょう」

 こうして俺達は魔法陣に吸い込まれ、迷宮を踏破するために全力で飛び出した。




お読みいただきありがとうございます。

まだブランクがあるので、書きたい言葉が出てこないことが多々あります。

それでも完結に向けて書いていければと思っております。

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