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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

15章 運命を切り開く者(仮)

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359 さらに追いかけて

話す直前に彼女達の顔色が優れないこと気が付き、なるべく明るく声をかけることにした。 

「ルーシィーさん、クイーナさん、サランさんお疲れ様です。かなり早いペースで探索されていたんですね。中々追いつけないので焦りましたよ」

 するとルーシィーさんの口から予想していなかった言葉が飛び出してくる。

「物体Xを使って魔物を避けながら進んできたからほとんど魔物と戦うことがなかったの」

「物体Xを……ですか?」

 まさか騎士団が魔物除けとして物体Xを使っていたことに素で驚いた。

「物体Xを魔物除けとして使うことにしたのはルミナ隊長の判断。物体Xの効能が分かってから定期的に私達も飲むように指示されていた」

 クイーナさんは俺を少し恨めしそうな目で見て言った。

まるで物体Xを飲む破目になったと訴えていたことに苦笑いを浮かべるしかなかった。

「クイーナ、そんな目でルシエルを睨むなって。物体Xを飲んだ効果があったことには間違いないんだからさ」

「それは認めているけど……あれは人が飲むものではない」

 サランさんがフォローをしてくれたけど、確かにクイーナさんが言うように飲まなくていいなら飲みたくはないよな~。


「まぁ全ては邪神のせいということにしておきましょう。ところでルミナさんと他の方々の姿がないようですが?」

「皆は魔物除けとして物体Xの樽を私達に預けて、少しだけでも安全の確保が出来る場所を探すと言って先行することになったの」

 三人の顔色が曇り、ルーシィーさんが絞り出すようなか細い声でそう口にした。

 この三人がここに残った理由は聖属性魔法の適正が高かったから治癒士潰しの罠で精神的に疲弊したか、それとも他の騎士隊や治癒士達を生かすためだろう。

 それにしても騎士隊が迷宮に潜りレベル上げをしていたのか、それとも無理に戦乙女聖騎士隊に同行したのかは分からないけど、完全な足手まといだろうな。


 それにしても本来であれば引き返す選択肢だってあったはずだけど、戦乙女聖騎士隊が先へと進んだ理由は彼等を助ける目的もあったのかもしれないな。

 ただそれ故に制限がかけられた状態での迷宮探索は危険だから待っていてくれれば良かったのに……そう思わずにはいられない。


「戦乙女聖騎士隊だけで先行したんですか……」

「ええ。ここにいる騎士達以外は全員……」

「犠牲者がかなり出たんだ。それにほぼ全員が動けない重傷者達だったからか、隊長達が先行するしかなかったんだ」

 ルーシィーさんが言葉に詰まり、代わりにサランさんが教えてくれた。

 ただそれならルミナさん達は少し無理をして迷宮を進むだろうな。

 足手まといがなければそれぐらいはやってしまうだろうし……。

 ただ先に待つ敵が邪神の可能性もあることから、全力で追いかけるしかない。


 俺は先程治療した騎士達へ選択を迫ることにした。

「一度しか言わないので聞いてください。私は当初の目的通り今から先行した戦乙女聖騎士隊を追いかけます。皆さんはこのまま物体Xを楯にしてこの場で留まるか、それとも隠者の厩舎の中で馬達と一緒に私達が迷宮から脱出するまで避難しているかを選択してください」

「そんな横暴だ。S級治癒士なのだから我らも一緒に同行させてくれ」

「そうだ。いくら何でもその選択肢はないだろう」

「また手柄を独り占めにするのか」


 さっきまで死にそうだったのに元気なことだ。

「別に同行するのは構いませんが、目的は迷宮の脱出を考えると踏破となるでしょう。だから私は踏破を優先しますので、もし魔物と対峙した皆さんに助けを求められても助けませんよ。私は騎士団を助ける騎士ではなく、民を守る治癒士なので……」

 俺はそれだけ告げると隠者の鍵で厩舎を開いた。 

「一分以内に入ってください。もし入らないならそのまま置いていきます」

 しかしそれでもプライドがあるからなのか、厩舎に入ろうとする素直な者はいなかった。

 するとそこへうまい具合に魔物が複数体接近してきた。

 その姿を見た騎士達はいま口々に精一杯威勢が放っていたのが嘘だったかのように我先にと厩舎の中へと入っていった。

 俺は厩舎に騎士達と治癒士達が入っていったことを確認してから、ルーシィー達に声をかける。

「皆さんはいいんですか?」

 少しだけ煽ってみると、その返事は行動で示すとばかりに近づいてきた魔物へ突っ込んでいき、魔法と連携攻撃で魔物達を翻弄し瞬く間に倒した。


「戦乙女聖騎士隊は一人一人が強いのよ」

「足手まといさえいなければ楽勝」

「ルシエルが強くなったのは分かるけど、戦乙女聖騎士隊のお姉様達の力だって教会本部最強なんだぜ」

 どうやら騎士団という枷が外れたことで本来の動きと明るい表情を取り戻したみたいだな。これなら同行してもらっても大丈夫だ。


「御見それしました。これなら余裕ですね。ちょっと先行した皆も焦っている印象がありますので追いかけましょう」

 俺は物体Xの樽をこちらの魔法袋にしまいながらそう告げると、三人は真剣な表情になった。


「ルミナ様に追いつくのは私達の力だけじゃ無理だと思う」

「悔しいけど、皆に追いつくまではルシエルを頼らせてもらう」

「出来るだけ足手まといにならないようにくっついていくからさ。もしなんだったらサービスするぜ」

 いや、顔を真っ赤にするなら言わなければいいのに。


「分かりました。それじゃあ行きましょう」

 そう口にしてみるも残念ながら迷宮は構造が変化しているので、とりあえず浄化波を放って瘴気と魔物を浄化しながら進む。

 助かったのは三十一階層から三十五階層に罠がないことと、三十階層のボスのような一撃では死なない魔物が出ないことだ。

 そう思っていると後ろから三人の呟きが聞こえてくる。

「強くなっているのは実際に見て知っていたけど、既にかなり強い魔物のはずなのに一瞬で複数の魔物を倒すなんて……」 

「魔物や魔族にとっては天敵以外の何者でもない」

「これならすぐに隊長達に追いつけるかもな。全部やってくれるのは楽でいいな」

 サランさんがフラグを立ててしまった気もするけど、いくら先に行っているとはいえ四十階層のボス部屋に入ることはないだろう。


「この迷宮の魔物達とは相性がいいんですよ。死霊系の魔物は簡単に浄化されてくれますからね」

「上位の魔物ほど高い属性魔法耐性があるから普通は魔法も効きにくくなっているのよ」

「さすが治癒士では飽き足らず賢者となって、非常識を常識として改変して語る突き抜けた存在」

「あんまり自分がなんでも出来るからって相手に求めんなよ」

 完全にクイーナさんのは悪口だろう。ただ何だかんだいっても強くなり過ぎた俺に対しても畏怖の感情がなく、軽口を叩き合えるだけの関係となってくれていることが救いなんだよな。


「とりあえずルミナさん達が戦ったからなのか、瘴気が薄れているのが分かるようになってきたのでそろそろ追いつきますよ」

「瘴気って何も見えないのだけれど?」

「もしかしてまた普通ではないことをしている?」

「疲れているなら少しは私達も手伝うけど、大丈夫か?」

 未だに【称号:世界を守護する者】の恩恵である瘴気の視覚化にはなれないな。

 一応オンオフは出来るようになったけど迷宮のような瘴気が具現化したような場所だと、どうしても視えてしまうんだよな。

 まぁこれで追えるんだから悪いことばかりではないんだけど……。


「正常だし元気ですよ。だから大丈夫です。ただスキルの制御がまだ甘くて弊害があるだけなんです」

「それは大丈夫ではないんじゃない?」

「慣れが必要なものだからもう受けいれてますよ……っと、この階にもいなかったな」 

「疑っているわけじゃないけど、隊長達は本当にこんな先まで進んでいるの?」

 確かに安全そうなスペースを確保するだけならこんなに下りて来なくても良かったんだろうな。

 でも他の騎士隊や治癒士がいる分、探索に時間が掛かり過ぎたことで色々なリスクを考えて迷宮を進んだことは十分考えられた。

 せめて四十階層ボス部屋までのルートを確保するまで先行しようとするのもおかしくはない。


「これは俺の考えですけど、たぶんルミナさんは一番リスクが低い探索を選択したんだと思います」

「私達を置いて?」

「たぶん回復魔法を使用して精神的な負担の掛かった皆さんの様子を見て、このまま他の騎士隊や治癒士達を守って探索すると戦乙女聖騎士隊が潰れてしまうことも考えたんだと思いますよ」

「それじゃあ隊長達は?」

「四十階層のボス部屋までのルートを確保しに行ったんでしょう。まぁ次の階層からは罠があると思うので、ボス部屋までには合流出来ると思います」

「じゃあチンタラしているわけにはいかないな。ヒャァ」

 そう行ってサランさんが先行しようとするので、肩を掴んで止めた。


「……変な声を上げないでくださいよ」

「い、いきなり肩を掴んで来るからだろ」

 普段おっさんなのに何故いきなり乙女モードになるんだろう? 未だに謎だ。 

 気を取り直してしっかりと止めた理由を説明する。

「次の階層から罠があると思うんで、罠を感知するスキルや能力がないと大変な目に合いますから」

「ルミナ様達もそんなスキルはないのよ」

「分かっていますよ。だから俺の後ろをしっかりとついて来てください。ここからもう少し飛ばしますから」

 そう告げて三十六階層へ下りて、瘴気の薄れた場所を進むと遠くから戦闘音が聞こえてきた。


「どうやら追い付けたみたいですね。今の皆さんの実力ならこの階層に出てくる魔物や魔族なら問題ないと思いますが、罠だけは気をつけてくださいね」

「ここまで温存させてもらった分、しっかりと役に立ってみせる」

「ルシエル、急いで」

「分かっています。とりあえず【ピュリフィケイションウェーブ】これで俺が来たことが分かったはずです。合流しましょう」

「さすが賢者様だな」

 それから駆け足で迷宮を進んだ先で待っていたのは、魔物に囲まれながらも耐えて戦っている戦乙女聖騎士隊だった。

 ただしそこにルミナさんとエリザベスさんの姿はなかった。



お読みいただきありがとうございます。

後日、活動報告を上げさせていただきます。

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