358 治癒士潰しの罠
そ~っと再開します。
倒れていた者達はまだ息があった。
周囲を警戒しながら倒れていた者達の様子を見てみると、聖シュルール共和国の紋章が入った鎧やローブを身に纏っていたので、聖騎士や神官騎士で間違いないだろう。
徘徊している魔物と遭遇していないところを見るとボス部屋から出たばかりかもしれないな。
それにしても戦乙女聖騎士隊だけで迷宮へ潜ったんじゃないと分かってから一気に不安が増したな……。
出来るだけ早く合流しないとまずそうだ。
まぁ倒れている騎士達を見つけたのは今回が初めてだし、ルミナさん達は先へ進んだんだろうけど……。
それにしても倒れていたのがルミナさん達、戦乙女聖騎士隊の誰かではないことが分かってホッとしたな。
そんなことを思いながら声をかける。
「大丈夫ですか?」
しかし騎士達からの反応はない。
とりあえず騎士達が纏ってしまっていた瘴気を払うためにピュリフィケイションを発動し、目立った外傷はないけど念のためにエリアハイヒールを発動した……その時だった――。
倒れていた騎士達が苦しみだしたと同時に、いきなり騎士達の身体から瘴気がこちらへ向けて噴き上げてきた。
「うわぁ」
いきなりのことで思わず声を上げて後退ってしまったけど、幸い
しかし身体から瘴気を噴出させた騎士達は想像した通り無事では済まなかった。
まるで幽鬼のようにユラユラと立ち上がった騎士達は先程までと違い肌色を薄黒く変色させ、魔族のような赤い瞳を宿していたのだ。
しかも回復魔法と瘴気が反発しあったからなのか、騎士達の全身が溶け爛れているようだった。
「最悪だ。まるで魔族化を失敗したゾンビみたいになるなんて……。どれだけ嫌な罠を仕掛けてくるんだ」
普通の罠とは違い、彼等が魔族化してしまった理由は俺の回復魔法がトリガーであることに間違いないなかった。
助けるはずの相手にトドメを刺してしまうのだから、これは精神的にくるものがあるし、迷宮内での動揺は命取りになるだろう……。
これじゃまるで治癒士の存在を消すためにだけに作られたみたいじゃないか。
いくら邪神だからとはいえ、
そんなことを思いながら俺は直ぐに騎士達の対処を始めた。
「これは成功するかどうかは賭けになりますが、試させてもらいます」
そう告げてから、まだあまり使ったことのない対象の時間を少しだけ巻き戻す時空間属性魔法タイムリバースを発動した。
発動したと同時に魔力をごっそりと時間に吸い取られているような感覚に襲われる。
その感覚を我慢しながら発動を継続していると騎士達はゆっくりと後退していき、逆再生のようにユラユラと倒れた。
そして肌の色が戻ったところでタイムリバースを解除した。
「ふぅ~」
少し前だったら諦めるしか出来なかったことを、こうして今なら何とかすることが出来る……その選択肢が増えたことに感謝した。
しかしいくら対象だけとはいえ、時間を操って逆行させる魔法は魔力消費が激しいこともあり、あまり多用することは避けたいとも思った。
「今度こそしっかりと回復しますね」
今度はリカバーとディスペルを発動してから、一人一人にピュリフィケイションを体内へ浸透するイメージで発動し、最後にエリアハイヒールを発動をしてみた。
すると今度は瘴気が出ることもなく、呼吸も正常にしているようだった。
俺はそこでホッとした。
しかしここでもまた問題が発生する。
彼らに何度も声をかけ、身体を揺らしてみても起きる気配がなかったのだ。
ただ間違いなく生きてはいるので、魔物が徘徊しているこの場所に放置することも出来なかった。
「どうする……あ、あれがあるか」
先へ急ぎたいけれどこのまま騎士達を放置するのはさすがに気が引けるので、今回は隠者の鍵を使用して彼等を棺に納めていくことにしたのだ。
数分後にようやく騎士達を棺へと入れ、気を引き締めてから三十階層のボス部屋の扉を開き、ボス部屋の中央まで入ると魔法陣から瘴気の渦が立ち上った。
そこから現れたのはレイスを何倍も凶悪にした大鎌を持つ漆黒のローブを纏った死神を彷彿とさせる魔物が出現した。
しかもどうやら召喚魔法が使えるらしく、複数の魔法陣が展開したと思ったら魔物が出現し始める……。
そこへいつも通り魔法陣が出現した位置の中心に聖域結界の展開が終わり、俺は
しかしここで予想していなかったことが起こった。
「もうこれだけじゃ倒せない魔物が出現するのか……」
死神の断末魔の声量が上がり耳を刺した時、死神がこちらへと大鎌を振った。
すると無数の瘴気の刃が出現し俺へと迫ってきたのだ。
こちらも負けないように浄化波で打ち消していくが、瘴気の刃の数が多く、いくつか打ち消せなかった瘴気の刃が聖域結界に到達しては消えていくが、聖域結界からは嫌な音が鳴る。
それを確認した俺は慌てずに反転聖域結界を追加で発動し、威力を増幅させた浄化波の刃が瘴気の刃を打ち消すだけでなく、死神の瘴気で作られていた身体を青白い炎が削っていく。
生ある者に対しての執着かそれとも憎悪なのか、もしくは憤怒だったのか、死神は消滅するまで瘴気の刃を止めることはなかった。
「一気に魔物の強さが上がったな。さてと……」
出現したのは相変わらず二つの魔法陣。
迷わず右の魔法陣の上へ移動して乗ってみると、今回は黒い渦が出現せずに転送されたらしく、視界が切り替わった俺が目にしたのは、二十数名の疲弊した騎士達だった。
どうやらようやく追いつくことが出来たみたいだ。
いきなり出現したことで武器を構える騎士達もいたけど、どうやら既に満身創痍だったらしく、俺だと分かった瞬間に構えた武器を下し、安堵して崩れ落ちる者、歓声を上げる者、泣き出す者までいた。
「えっと……まずは回復しようか」
騎士達からここまで頼られることはなかったので嬉しく思う反面、もっと信頼関係を築くことが出来ていれば彼等も迷宮で鍛えることが出来たのでは……と、ここまで苦戦することはなかったんではないかと申し訳なく思いながらまずは治療をすることにした。
倒れていた騎士達を回復させてアンデッド化してしまった反省を踏まえてリカバー→ディスペル→ピュリフィケイション→エリアハイヒールの順に発動していくと完全に治すことが出来た。
ただ顔色が優れない者達が多いことから、かなり精神的に追い込まれてしまっている様子だ。
そんな騎士達の中には戦乙女聖騎士隊のメンバーであるルーシィーさん、クイーナさん、サランさんの姿もあった。
ただ戦乙女聖騎士の他のメンバーがいないこともあり、まずは彼女達から話を聞くことにした。
お読みいただきありがとうございます。
これから活動報告も書き込みます。