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"『時鐘』", is tagged with「Juice=Juice」「ともかりん」and others.

アンリアル・金澤さんと宮本さん。【完結済】

tsukise

『時鐘』

tsukise

9/11/2015 06:32
アンリアル・金澤さんと宮本さん。【完結済】


あたしが決めればいい。
ぜんぶぜんぶ、何もかも。
だって時間はたっぷりある。
途方に暮れる程、たっぷりある。


*****


咽喉が渇く…だめだ…足りない。

静寂に包まれた夜。
こんな日はいつだって、結界に守られたこの屋敷の闇の中でうずくまり、ただ時が
過ぎるのを待つだけなのに、今日に限って胸を掻きむしらんばかりの飢餓感に
どうしようもなくなってる。
慣れない洋酒に手を出したって酔えるわけでもなく、苛立ちが募るだけ。

もうだめだ、耐えられない。
欲しい…ただの一滴でも…欲しい。

『とも?新月の夜は外に出てはだめよ?』

タヌキの、いや、由加ちゃんのにこりともしなかった顔が浮かぶけど、
そんなの知ったこっちゃない。
あたしのしたいことは、あたしが決める。
それに、この屋敷を出て、結界から飛び出してしまえば誰もあたしを止められない。

さぁ行こう、――― 狩りに。
簡素なジーンズにシャツ、ジャケットなんか羽織って人間の姿の真似事をして。
隠しきれない、ぎりりと伸びた犬歯を一舐めして屋敷の門を…結界をくぐった瞬間――。

「…っ!」

鼻をくすぐる…ううん、鼻をつんざく強烈な甘さを含んだ匂いにむせ返った。

なに、この匂い…これは…まるで果実のような甘ったるいほどの糖度を含んだ…
ベタベタとまとわりつくような、そんな匂い。
けど…人間の匂いだ…。
あたしの、ヴァンプの極上のエサの匂い。

最近では、処女の血なんて滅多にありつけない。
それこそ不味くて、男でもなんでもただの腹の足しにしかならない、生気をその喉元に
手をかざして頂くばかりの日々だった。

けど、今日は違う。
これは…純潔の匂い。
まだ誰の穢れにも染まっていない…真新しい人間の匂いだ。

こくん、と咽喉が鳴る。
もう限界を知らせて。
欲しい…ぜんぶ奪ってやりたい…そんな欲望を止められなくて。
そうなれば早くて、およそ人間の身体能力では考えられない跳躍で匂いを辿るように
地を蹴った。

どこ…?
あたしの獲物は…?

そうやって引き寄せられた先。
目の前に広がった場所に、チッと軽く舌打ちした。
なんだ、純潔の匂いなんて当たり前じゃない。
だってここは。

「教会、ね」

囲う場所にはうってつけ。
てか、こんな場所じゃなきゃもう処女なんて妄想なのね?
まぁいい、今日のあたしはすこぶる調子がいい。
たとえ神の名のもとに何かされても、どんな鉄槌でも跳ね返せる自信がある。

だから…――。

「お邪魔しまーす」

ギィ、と古めかしい音を立てる重い扉を開け、厳かな礼拝堂へと足を踏み込んだ。
ただそれだけなのに、びりびりとあたしの身体を締め付けるような戒めの鎖のような
感覚がするからたまらない。
けどガン無視。
いるから。
あたしのエサが…そう、今、目の前に。

夜のこの場所なんて、滅多に人なんて来ない。
せいぜい懺悔部屋とか、そんなところに用がある人ばっかだし、下手したら
来るもの拒まずの所だから酔っ払いの類がいるぐらいでしょ?
ま、あたしも人の事言えたもんじゃないけど。

真紅の絨毯に、祈り台。
先祖の恨むべき相手をその先に置いて、蝋燭が等間隔に並んでる。
もちろん照明だってあるけど、ここは蝋を使うのがしきたりなのか、ほのぐらい。
ま、その方が隠し切れない口元にはありがたいけどね。

「どなた、ですか?」
「…っ」

一気に濃くなる甘い匂い。
ただ一人、目の前の子から。
肺一杯に、質量のある酸素が入り込んで満たしてくるのがわかる。

と、そこで苦笑。
なんだ…教会ったって、とんだ食わせモノだなーなんて。
だって、純潔なんてこの子一人じゃん。
ヴァンプのあたしにはわかる。
そうか、そうじゃないかぐらい。
てかさ、神がこの場にいたら笑いものだね。

「あー、ごめんなさいねーお祈り中だった?」
「いえ、大丈夫です。何か御用ですか?」
「御用、というわけでもないんだけど」

緩みそうになる口元を押さえて、カツンカツンとブーツのかかとを鳴らして近づく。
あぁ、今にも触れて掴んで喰らってしまいたい。
けどまだだ。
油断している隙をつかなきゃ、灰にされてしまうかもしれない。
そういう教育を施されていないとも限らないから。
だからまだ。

「何か悩み事でも?」

けど、すぐそばまで近づいて気づく。
なんだ、まだ子供じゃん、と。

あたしより頭一個分低い身長。
くりっとした目はあどけなく、雪のような柔肌がハビットの隙間から覗いてる。
気が引けるねぇ、こんな子供から拝借しようとしてるなんてって。
けど、もうハラペコだ。ぐーぐーお腹は鳴るほどに。

「悩み事、ねぇ」
「神のご加護の元に、私で良ければお聞かせください」
「うーん、じゃーひとつお願いしていい?しすたー」
「シスター…見習いですけど」

自信なさげにハの字に下がる眉。
いっそう幼さが際立つね、そうすると。

てか、ンなことどっちでもいいって。
さぁ、もうあたしの全身をめぐる血液は沸騰しそうなほどに心をいきり立たせてる。
ざわざわと全神経が逆立ってきてるのもわかるんだ。
だからね、ちょっと利口そうなしすたーさん。

「あなたを――」

すいっと手を持ち上げて真っ白なベールに軽く触れる。
きょとんとした目は、ほんの少しだけあたしの罪悪感を呼び覚ますけど、
それ以上に…食欲が止められない。
もう、止められない。

「――― 食べたいんだけどいい?」

喰らってやる。

欲望がカタチを成す。

小さなこの子に、今。

「…っ!?」

伸びた爪が肩に食い込んだ。
その痛みにわずかに歪む彼女の顔。
けど、構わずあたしは顔を近づけ喉元に向かって口を開く。
誘うのはやっぱり、あの強烈な甘さを含んだ匂い。
くらくらするほどの…匂い。

利口そうな しすたーさん。
ほんのちょっと、おとなしくしててよ。
すぐ終わるから。
そう念じるように瞼を閉じて、あたしは牙を突き立てた。
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