アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 ラナーさん大勝利になってるし、今後何があっても状況変わらないので、先に後日談を兼ねて。



閑話:ラナーさん大勝利ぃ!(前編)

 ラナーがナザリック魔導国執政官となり数日後。

 蒼の薔薇を送り出した次の朝。

 

「ラナー様! ラナー様、どうか起きてください!」

「ん……あら? クライム、どうしたの? 寝室に……えっ?」

 

 愛する従者の声で機嫌よく目を覚ませば。

 二人はうららかな木漏れ日の差し込む、森の中。

 少し暑めの気温。

 ラナーが寝ていたのは、ふんわりとした苔の上。

 

「こ……ここは?」

「わかりません……しかし、いつの間にかこの森に」

 

 クライム自身も、目覚めたばかりなのだろう。

 ここは、木々の間にできた苔の野原。

 太陽は差し込む程度、湿った甘い匂いが立ち込める。

 少年の避けるような視線に気づき、己の姿を見れば。

 ラナーは、薄い寝着のまま。

 クライムも鎧は着けず、短衣しか着けていない。

 まるで、ベッドの中から己だけ転移したような状態。

 

「私はモモンガ様が魔法で築いた城に寝ていたはずですが……クライムは何か気づきましたか?」

「いえ、自分もラナー様の隣の部屋にいました。鍛錬後は、いつものように就眠を……」

 

 思案するふりで、クライムの困惑した顔に視線を這わせる。

 

(いかにもな塔の上や、牢獄を想像していましたが。健康を考慮してくださったのかしら?)

 

 全てはラナーが、モモンガと話し合った、計画通り。

 二人は幽閉されたのだ。

 ナザリック駐留時から、クライムとの距離をじっくりと近づけている。

 あの頃は、同じ部屋で扉の前に立ってくれていた。

 初日は不寝番までしてくれて。

 その後も立ったまま、時折ラナーの寝姿を確認しつつの立ち寝。

 ラナー自身はナザリックから報酬として、寝食不要・疲労無効の指輪を得ている。

 そう。

 時折、布団をはだけて寝着が露になるごと。

 クライムが慌てた顔をしたり、視線をそらすのも。

 愛しい忠犬が、稀に欲望の視線で炙ってくるのも。

 ラナーは眠ったふりで、ずっと見て、感じていた。

 彼の寝顔も、決意も、抑制も、戸惑いも。

 夜通しずっと、ラナーは見ていたのだ。

 あれは本当にいい時間だった。

 

 おかげで、クライムは逗留中、常に何者かの視線を感じ続けた。何らかの魔法的手段で、ラナーの部屋が覗かれていると考えるも無理はない。

 無邪気にモモンガを友と呼ぶラナーが、狡猾な淫魔に操られるのではと警戒したのだ。

 とはいえ、だからといって何もできず。

 警告しても、ラナーはまともに取り合わなかったが。

 

「やはり、あの魔導王を名乗る女淫魔(サキュバス)の仕業では……」

「そ、そんなはずがありません。きっと何か、魔法事故の類ですよ」

 

 怯えつつも気丈な――そんな声色と表情を作って見せるラナー。

 クライムは何か言おうとしつつも……不安にさせまいと口を閉じる。

 

 だが、無情なるかな。

 二人の不安を煽るかのように。

 甲高い声をあげ、異様な魔獣が飛ぶ姿が、上空に見える。

 虹色の翼を持つ、大蛇。

 比較的低空を飛ぶその様子は、己の威容を見せつけるようだ。

 事実、クライムには、話に聞くドラゴンと同じかそれ以上の怪物に思えた。

 木々のすぐ上を、大蛇の腹が這いうねる。

 いくつかの枝葉が当たり揺れ、強風が吹き荒れた。 

 

「きゃっ!」

「ラナー様!」

 

 細い体を風に飛ばされまいと。

 ラナーが、クライムにしがみつく。

 少年は、か弱い姫を守るべく抱きしめ。

 己らを見もせぬ魔獣を威嚇するように立つ。

 空を舞う大蛇は、二人など眼中にないかの如く、飛び去る。

 それでもしばらくは、警戒を解けず。

 クライムは、姫を抱きしめ続けた。

 

「あ……す、すみません、ラナー様っ!」

「いえ……どうか、もう少し、このままで」

 

 ようやく、柔らかく暖かいラナーの感触に気づき。

 慌てて離れようとするクライムだが。

 不安そうな、怯えた顔の姫に懇願され。

 立ちすくむ。

 

(うふふふ、本当にかわいい!)

 

 もちろん、ラナーは最初から怯えてなどいない。

 だが、せっかくの機会は活かす必要がある。

 魔獣への恐怖と不安で冷えていた、少年の体が。

 己の肢体を意識して、熱く火照り始めているのだ。

 それを全身で感じるのは本当に楽しくて、嬉しい。

 彼が男として反応しているか、直に調べたくもあったが。

 今はまだその時ではない。

 肌で堪能するだけに留める。

 粘膜部分はお預けだ。

 ラナーはCOOLに、己の火照りをわずかに察させる程度で離れた。

 

「ごめんなさい、クライム。どうしても不安で……」

「いえ、ラナー様が謝られることでは!」

 

 勢いよく頭を下げるクライムの腰が、少し引けている。

 反応してしまっているのだ。

 

(あら、これは思ったより早く……してしまいそう♪)

 

 音を立てず、口の中で舌なめずりした。

 

 

 

 その後、二人で周囲を探索する。

 不安だから、はぐれてはいけないからと。

 手をつないで。

 緊張するクライムに、無垢な姫として身を依り添わせる。

 野歩きに馴れないのだから、不自然ではない。

 少しハプニングもあったが……。

 

(はぁ……ふふ、お互い姿の見える場所、音も聞こえる場所で……。

 クライムのあんな音を聞くなんて、本当に思っていませんでした。

 私の音も聞かせてしまいましたが……相当、意識してましたね♪)

 

 森なのでトイレもない。

 危険だからとお互いに姿の確認できる場所で……。

 小用をしたのだ。

 クライムの慌てようは酷く。

 終えた後に見せた顔は真っ赤だった。

 じきに大きな方も互いに聞かせ、聞くのかと思えば。

 ラナーは正直、期待せざるをえない。

 

(これだけでも、取引した甲斐がありました!

 ゆくゆくは恥じらうクライムに、目の前でさせましょう!)

 

 ともあれ。

 

 二人のいるのはまばらな木立で、十分に歩き回れる。

 小川。泉。小さな岩山と洞窟。

 洞窟の奥からは冷気ではなく熱気があり、温泉があるかもしれなかった。

 寝室も寝具もないが、目覚めた場所のような苔や草花の野原が、点在する。

 果実の実った樹も、多数。

 気温も高め。

 添い寝させる理由は、いくらでもある。

 

(ふふ、わかってらっしゃいますね!)

 

 心の中で、モモンガとハイタッチするラナー。

 途中で疲れたからと、抱きかかえさせたり。

 おぶさったりもする。

 ラナーの体に触れるごと、少年の見せる反応が楽しい。

 着ている寝着は、ネグリジェだ。

 木々の枝や茂みに引っかかる。

 はだけもすれば、端々が裂けもする。

 一週間もすればボロボロになって、きっと裸同然になるだろう。

 わざと元気に野を散策すれば、数日だ。

 鎧下のような丈夫で実用本位の、クライムの短衣は無事だろう。

 そうなった時、彼は……。

 己のそれを脱いで、ラナーに着せようとするのか。

 木の葉で服でも作ろうとするのか。

 あるいは、我慢できずに自らラナーの衣装を引き裂き……

 

(私、本当に楽しみです!)

 

 おぶさられ、レースが今も枝に裂かれる音を聞きながら。

 ラナーは満面の笑みを浮かべていた。

 

「っ……これは……!」

「まあ……」

 

 密集した木々が壁のように立ちはだかる。

 張り巡らされた蔓草は檻のよう。

 しかも、その先だけ不自然な霧が蠢きながら立ち込めている。

 明らかに魔法的なものだ。

 試しに霧に触れてみれば、指が痺れる。

 たとえラナーがおらずとも、中に入れば……麻痺状態に陥るだろう。

 左右を見れば、霧はずっと続いている。

 ゆるく、弧を描いて。

 おそらくは円の中に二人を閉じ込めるように。

 

「まさか……」

「これは、魔法でしょうか?」

 

 上空。

 嘲笑うように声をあげ、頭上を再びあの大蛇が飛ぶ。 

 おそらく樹を登っても、無駄なのだ。

 あの大蛇の餌になるだけ。

 クライムは呆然と立ち尽くした。

 

(なるほど、まさにバカンスのための監禁場所ですね♪)

 

 ラナーは、内心でさらに感心し。

 モモンガへの感謝を新たにしていた。

 持つべきものは同志であり、友情だ。

 相当な広さがある。

 事実上、二人きりで無人島に遭難したようなもの。

 

(けれど、食事はどうするのでしょう。果物だけで暮らしていけるとは……)

 

 内心少しだけ疑問に首をかしげる。

 そんな時、背後から冷たい声がかけられる。

 

「手間をかけさせるな、下等生物(ボウフラ)」 

 

 何の気配もなく――突然に。

 振り向けば、黒髪ポニーテールの美しいメイドが、そこにいた。

 





 書いてみたら一話で終わらなかったので前後編です。

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