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【社説】

三つ子次男致死 母親を孤立させないで

 愛知県豊田市で生後十一カ月の三つ子の次男への傷害致死罪に問われた母親の控訴審で、名古屋高裁は一審判決を支持し実刑を言い渡した。多胎育児に悩む母親たちを孤立させない手だてが必要だ。

 一審と同じ懲役三年六月を言い渡した判決によると、被告は昨年一月、次男が泣きやまないことにいらだち、自宅で一メートルを超す高さまで持ち上げて畳の上に二回たたきつけ、半月後に死亡させた。

 控訴審判決は「被告は産後うつの状態だったが、責任能力はあった」「行政機関などの支援がないまま、三つ子の育児を一人で背負い込む中で起きた事件は誠に痛ましいが、執行猶予を付けるほど軽い事案ではない」と一審判決を支持した。

 一審は、市民が判決に加わる裁判員裁判だった。プロの裁判官だけによる控訴審判決は「一審では多胎育児の難しさやうつ病の影響など、裁判員と裁判官が判決への話し合いを尽くした」「懲役六年の求刑に対し、懲役三年六月を言い渡した裁判員裁判の一審判決は、重すぎて不当とはいえない」と述べた。

 実刑は免れないが、酌量の余地はあり、刑期は短めにという一審の市民感覚を尊重する-。そんな控訴審判決だったとも言えるかもしれない。

 法律の専門家には「被告の行為が危険かつ悪質で、実刑もやむをえない判断」という意見が多い。その一方で、市民団体などからは疑問の声も上がる。

 一般社団法人・日本多胎支援協会(神戸市)は「判決に疑問を感じた。必要な支援があり、家族が発するSOSに気づき受け止めてもらえたら、このような事態を防げた。救える命だった」「事件の責任を母親個人だけに帰することにも問題を感じた」としている。

 同協会の指摘は、豊田市の外部検証委員会が今年六月にまとめた報告書でも触れられている。

 報告書によると、三つ子を妊娠した時、市との面談で母親は出産や育児に不安を訴えた。生後の健康診断で、母親は「子の口をふさいだ」という欄にチェックを入れ、長男の背中にあざも見つかった。「SOSが支援に結びつかず、母親は孤立。疲弊した育児を招いた」と結論づけた。

 多胎(複産)の分娩(ぶんべん)件数は、全体の1%前後の年間一万件ほど。近年は横ばい傾向だが、決して少なくない。行政は、母親に孤独感を味わわせない仕組みを早急に構築してほしい。

 

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