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(喜美子)海やぁ~!
(直子)海やぁ~!
空襲で何もかも失った喜美ちゃんの家族は知人を頼って大阪から信楽にやって来ました。
ほんまもんのタヌキやぁ~!
どこ行った…?
♪~
誰や!?
♪~
♪「涙が降れば きっと消えてしまう」
♪「揺らぐ残り火 どうかここにいて」
♪「私を創る 出会いもサヨナラも」
♪~
♪「日々 恋をして 胸を焦がしたい」
♪「いたずらな空にも悔やんでいられない」
♪「ほら 笑うのよ 赤い太陽のように」
♪「いつの日も雨に負けるもんか」
♪「今日の日も涙に負けるもんか」
陶工って 何する人?
(慶乃川)陶芸家よ。とうげいか?
芸術家て呼ぶ人もいる。げいじゅつか…。
まあ 平たく言うとの焼き物を作る仕事をする人のことや。
焼きもんって どんなん?
ここいらでは 火鉢やの。
何や 食べもんちゃうんか。タヌキの置きもんもほやで。
ああ あれもそうか。
器や お皿や 茶わんや花瓶なんかもほうや。
今やってるのは 何?土掘りや。
焼きもんを作る時に使う。
土で焼きもん作んのん?
信楽の土は ええ土やし。
何がええの?
あっ ちょっと 手ぇ出してみ。
はい。
何が ええんでしょう?
当ててみさい。 ほら。
何や…。
何や?
う~ん…。
分かるんけ?信楽の土のよさが分かるんけ?
分かれへん。 ただの土や。
どんだけ のせんねん。あっ! 売りもんやでぇ!
えっ 売りもん? この土 売んの!?うちも売れる?
土のよさが分からんやつなんかに売れるかいな。
土かてな売ってほしない いうてるわ。
もう いに いに。 もう。もう 危ない 危ない。
もう 子どもは来たら あかん。
もう いに。
(照子)「夜明けの風が流れてくる。中庭のキャベツが なたねが やぎ小屋がぼうっと あらわれる。どこかで小鳥が鳴いた」。(戸が開く音)
遅れました!(望月)川原さん!よかった~。後で おうちに行こかと思うてたんですよ。
道に迷ったん?すんません…。
ええわ。 ほこ座り。あっ その前に ご挨拶な?座って。
川原喜美子です。 今日からです。よろしくお願いします。
ほな 席に行って。授業 始まってますから。川原さんは 大阪いう大きな町から来はったんですよ。
(どよめき)
ほしたら! 川原さんに最初から読んでもらおうかしら。
読めません。あっ 教科書ないん?
後で取りに来なさい。貸してあげて?
(望月)ほな みんな静かに聞きましょうな。
「けの」! 「が」!
(望月)何?
「が」!(望月)何語? どこ読んでんの?
「夜明けの風が流れてくる」よ。
「れてくる」!
(どよめき)
漢字 読めへんの?
これまで家の手伝いや妹の世話に忙しく学校に行く余裕のなかった喜美ちゃんは読み書きが あまりできません。
これは?
う~ん…?
これも 分からへん?
分かりません!(子どもたち)え~!
はよ 行くど~!ほんま待って。 待ってや ほんま 待って!
読み書き できひんなんて。
黒岩君 やられた言うてたさけどんな子や思たけど…。
黒岩君?
ほうきで やってんて?
ああ…。
いかつい女が来るんやろ思てたらこんな かわいそうでアホな子やったなんて…。
誰が アホな子や。
読み書きできひん アホやろ。かわいそうに。
かわいそうやからお友達になってあげてもええよ。
よそもんには 優しくしいや言われてんねん。
うち 窯元の娘やから。
かまもと?
窯元 知らんの? 丸熊陶業やで。
丸熊陶業は 信楽で一番の窯元です。
窯元というのは陶磁器を窯で焼いて 作り出す所です。
たくさんの陶工さんがここでは分業で働いています。
熊谷照子よ。みんなは 照ちゃん呼んでるわ。
照ちゃん…。
お友達になってあげるわ。いらん。
いらん?忙しいさかい友達おっても遊ばれへん。いらんわ。
あっ!
何や?
(次郎)やるかぁ?やるかぁ?
(常治)ええか? ケンカ禁止や!
何を言われても 何をされても黙って じ~っと耐えとけぇ!
今日は油断は しいひんでぇ。
あ… あっ…。あっ!
照ちゃん!照ちゃん?
何や もう 友達になったんけ。
なってへんわ。
ほな やるどお!
♪~
(次郎)よ~し!
あ~!
(次郎)あっ 待てぇ こらぁ逃げるんけえ!
はあ…。
(直子)おなかすいた~!
(マツ)はいはい。
おなかすいた!ちょっと待っとき。
待たれへん! おなかすいて死ぬぅ~!
直子。 大野さんの奥さんにまた おむすび もろたやない。
あんなん足らん! もっと もろてきてぇ!
もろてばっかり できません。
喜美子~?
そやから 待っとき言うてるやん。
待たれへん! おなかすいて死ぬぅ~!
そんなこと言うたら あかん。
お父ちゃんがお金つくりに大阪行ったよって ちょっとの我慢や。
我慢なんかできへん!
お母ちゃんの着物をお金に換えてくるんやで?
それで 卵買うたげる。死んだ方がマシや!
何 言うてんのん 話聞きぃ?
死ぬ 死ぬ 死ぬ 死ぬ死ぬ 死ぬ 死ぬ 死ぬ…!
やめぇ! もう ええ加減にしぃ!
直子!
(泣き声)
(直子の泣き声)
卵 2つ買うたげる。
(泣き声)
3つ買うたげる。 おミカンもつけたげる。
手ぇ離したん 誰や!
あん時 手ぇ離したん 誰や!
(泣き声)
回想 (空襲警報のサイレン)おい 何してんねん!
大阪が空襲に遭った時喜美ちゃんは 妹を連れて先に防空壕に行けと言われました。
(サイレン)
(焼夷弾が落ちる音と叫び声)
直子! 直子…。
直子!
絶対に離してはいけないと言われていた妹の手を喜美ちゃんは 離してしまいました。
♪~
(泣き声)
ごめんなぁ… 堪忍なぁ…。
戦争が終わった今でも まだ一人取り残されて恐怖におびえたその傷は癒えません。
♪~
喜美ちゃんは こんな時 空を仰ぎます。
「何で 人は楽しい思い出だけで生きていけんのやろ」。
♪~
そのころ…。
ええなぁ。
ヘヘヘッ。 また買うてもうた。アハハッ。
喜美ちゃんのお父さんは 大阪で…とんでもない拾いものをしてしまうのでした。
明日 晴れたらええなぁ。
(物音)・放せ! …放せ!
(常治)何や?あ… おい 何しとんねん!何しとる… おい!
大丈夫か? しっかりせえ。
しっかりせえ おい!しっかりせえ おい!
おい! おい しっかりせえ!