米国の強硬姿勢に引きずられることなく、仲介者としての立場を堅持し、中東の緊張緩和に向け、粘り強く外交努力を続けることが日本の役割である。
米ニューヨークでの国連総会を舞台にした、米国のトランプ大統領とイランのロハニ大統領の直接対話は実現しなかった。直前に起きたサウジアラビアの石油施設への攻撃を受け、両国の対立は深まるばかりだ。
そんな中、安倍首相が両氏と相次いで個別に会談した。6月のイラン訪問時に続くロハニ師との会談では、「地域の平和と安定に建設的な役割を果たしてほしい」と強く自制を求め、その後、トランプ氏に会談内容を伝えた。
トランプ氏は軍事行動には慎重だが、経済・軍事両面でイランへの圧力を強めており、偶発的な衝突の恐れは否定できない。米国の同盟国であり、イランとも長年友好関係にある日本が、意思疎通の橋渡しをすることには大きな意義がある。
ただ、今回の緊張の発端は、米国が昨年、イランの核開発を制限する多国間合意から一方的に離脱したことだ。首相はイランに自制を促すだけではなく、核合意に復帰し、経済制裁を解除するようトランプ氏に働きかける必要がある。
ロハニ師はニューヨークでの記者会見で、現在の核合意を上回る制限を受け入れる可能性に言及した。しかし、あくまで制裁解除が交渉の前提であり、米国の姿勢が変わらなければ、対話の糸口はつかめない。
サウジへの攻撃を、トランプ氏はイランによる犯行と断じ、核合意にとどまる英仏独も「イランに責任がある」との見解を示した。一方、首相は国連総会での演説で「国際経済秩序を人質にする卑劣極まる犯罪」と批判しつつも、攻撃主体には触れなかった。米政府内には日本に同調を求める声もあるが、国連による調査結果を待ってからでも遅くはあるまい。
一方、ホルムズ海峡などで船舶の安全を守ろうという米主導の「有志連合」には、英国に続き、バーレーン、豪州、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)が参加を表明した。
日本は態度を明らかにしていないが、自衛隊を派遣すれば対イラン包囲網に加わったとみられ、仲介者としての貴重な立場を失うことは間違いない。これまでの慎重姿勢を貫くことが、賢明な判断といえよう。
首相は一連の会談後の記者会見で「(両国とパイプを持つ)日本ならではのかじとりが求められている」と語った。その言葉通り、対話による事態打開を最優先に、核合意の立て直しに全力で取り組むべきだ。
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