パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第3話 冒険準備

 ナーベは冒険者組合を出た後、必要な道具類の調達へと来ていた。

 創造主たちから得ている情報ではモンスターを狩った場合データクリスタルを始め、様々な素材をドロップするらしく、その採取に適した道具や入れ物が必要となるからだ。さらにモンスター以外の草木や動物からも剥ぎ取りを行う可能性もある。

 そのため現在来ているのは冒険者組合で場所を教えてもらった『バレアレ薬品店』だ。

 

「たのもーう!」

 

 ナーベが勢いよく扉を開くと店の中には老婆が座っていた。手足はしわくちゃであり、非常に高齢なのがうかがえる。着ている作業着は薬草や薬品のシミだらけであり、売り子ではなく職人ということが分かる。

 おそらく彼女こそ薬師の中でも最高の熟練と言われるリイジー・バレアレなのだろう。

「おや……?いらっしゃい。可愛いらしいお嬢さん」

「《道具上位鑑定》!」

 

 あいさつ代わりに周囲の道具を鑑定する。ポーションの類はナザリックの宝物殿にあったものより質の低いものばかりであるが、その効果や色等はパンドラズ・アクターの知らないものもあり興味がそそられる。

 

「なるほど……面白い……面白いですね」

「いきなり魔法で鑑定かい?礼儀を知らないお嬢さんだね」

「これは失礼いたしました。しかし、百聞は一見に如かず。魔法による鑑定ほど確かなものはないでしょう?」

 

 しれっと真理をついたことを言ってくる美女にリイジーは思わず吹き出す。リイジーとて己の目より魔法による鑑定を信じる者の一人だ。目利きなどと言っても平気でだましてくる輩はいくらでもいる。しかし、魔法を誤魔化すのは至難の業だ。

 

「ははははは、面白いお嬢さんだね。それで、何が入用だい?」

「そうですね……とりあえずここにある薬類をすべて1種類ずついただけますか。それから瓶やフラスコなどの精製の道具、それから採取用の道具類とその入れ物などをいただきたいです」

 

 リイジーはその注文に瞠目する。ポーションを1種類ずつすべて等と注文する人間など聞いたこともない。低位のポーションを買う人間は最上位のポーションなど買う金はないし、最上位のポーションを買う人間が低位のポーションを必要とすることもない。

 まるでコレクションのために買うとでもいうような感じだ。金額も相当なものになるだろう。

 一方、ナーベとしては陽光聖典から巻き上げた金貨がありお金を儲けることよりも探求心のほうが上回っている。

 

「おたくもしかして同業かい?」

「いいえ、冒険者です」

 

 ナーベの胸のあたりを見ると銅の冒険者プレートがかかっていた。最下級のプレートである。

 

「……お金はあるんだろうね」

「ええ、これで足りるでしょうか」

 

 ナーベはアイテムボックスから陽光聖典から奪った金貨の袋を机に置いた。それは家が一軒丸ごと買えるほどの金額だ。

 

「こ……これは……」

「足りないでしょうか」

「いや、十分だよ……ンフィーリア!ちょっと来ておくれ!」

 

 リイジーが大声を上げると二階から少年が下りてきた。少年の顔立ちは整っているのだが残念なことに金色の髪が顔の半分ほどを隠してしまっておりその整った顔はほとんど見えない。着ているものもボロボロの作業着であり、磨けば光る玉であるにも関わらずもったいない限りだ。

 

「おばあちゃん、呼んだ?」

「ああ、お得意さんだよ。商品を運ぶのを手伝っておあげ」

「うん、わかったよ」

 

 ンフィーリアが商品に手をかけようとしたその時……。

 

 

 

 店のドアが蹴り破るような勢いで大きな音を立てて開かれた。

 

「こんばんはーー!人浚いでーす!」

 

 突然入ってきたのは歪んだ笑顔を浮かべた女だ。見た目は20歳前後。金髪のボブカットをしており肌は白く非常に整った顔をしているがその浮かべている表情は残虐そのもの。ビキニアーマーのような鎧にプレートを張り付け、ジャラジャラという音を立てている。

 

「あ、あんた……突然なんじゃ……」

「あたし?あたしはクレマンティーヌ、ンフィーリアちゃんを浚いに来ました。んふふふふ、よろしくねぇー?」

 

 女は馬鹿にしたような笑いを浮かべている。そしてそこから発せられるているのは殺気だ。そのあまりの恐怖にリイジーとンフィーリアが固まっている中、空気の読まない声が発せられた。

 

「あ、そこの籠も一緒にもらえますか?」

 

 侵入者を意にも解せずに買い物を続けようとしているナーベだった。

 

「おい、お前!客か!?何あたしを無視してんだ……ぶっ殺すぞ!」

「今買い物してるので後にしてもらえませんか?」

「はぁ!?」

 

 ナーベのあまりの態度にさすがのクレマンティーヌも困惑する。今から殺される人間の態度ではない。自分は関係ないから殺されないとでも思っているのだろうか。いままでこんな態度を取られたことはなかった。怒りより先に体が動く。

 

「ああ、そう?じゃああんたから死になよ!」

 

 クレマンティーヌは腰からスティレットを引き抜くと一気にナーベへと突きこむ。常人では反応さえできない早業だ。

 しかし、その切っ先は細く美しい指先二本でつままれていた。

 

「ほぅ?珍しい武器ですね。《道具上位鑑定》!なるほど魔法の追加効果発動可能と……レアですね……」

「な、なに!?」

「もしかして私に攻撃したのですか?決闘(PVP)をご所望ですか?」

「ご所望も何も最初からそう言ってるだろうが!」

 

 それを聞いてナーベはニコリと笑う。

 

「そうですか!ではPVPの誓約に則りよりこれより決闘を行いましょう!」

 

 突然ナーベは立ち上がると両手を大きく上空へ広げ、まるで俳優のように宣言する。その馬鹿にした態度。まるでクレマンティーヌを道化扱いだ。怒りに顔が朱に染まる。

 

「てめぇ!ふざけんな!《疾風走……》」

「とう!」

 

 ナーベの拳が一閃。武技の発動さえ許さずに天に振りぬかれた拳はクレマンティーヌを吹き飛ばし、天井どころか屋根まで突き破り夜の中天に舞うとそのままの勢いで床へと落下し床へと突き刺さった。

 

「さて、では誓約に従いドロップアイテムは回収します」

 

 ナーベはそう言うが早いかクレマンティーヌの靴を脱がし、靴下やズボン、ベルトや武器、上着まですべてを引きはがしては袋へ詰めていく。

 やがてクレマンティーヌは下着のみの姿へと変貌する。

 

「うわぁ……」

 

 それを顔を赤らめながら凝視するンフィーリア。

 

「ンフィーリア!駄目だよ!お前にはまだ早い!」

 

 咄嗟にリイジーがンフィーリアの目を塞ぐ。その時……。

 さらに入口から一人の男が入ってきた。痩せ細り目がくぼんだ顔色の悪い男だ。禿げ上がった頭に黒いローブを纏っている。

 

「おい、クレマンティーヌ。いつまで遊んでいるのだ。さっさと……何!?クレマンティーヌがやられただと!?誰だ!?こんなことをしたのは!?……おまえか!?喰らえ!《酸の投げ……(アジッドジャベリ……)

「とう!」

 

 クレマンティーヌを追ってきたものの名前も名乗れなかったこの男、カジッドをナーベは仲間と見なし、問答無用で拳を振るう。

 クレマンティーヌと同様に天へと舞い、天井の穴を増やしたカジットは同じように床へと頭から突き刺さる。

 

「《道具上位鑑定》!ほほぅ!これは珍しいアイテムを持ってますね!モモンガ様がお喜びになるかもしれません!」

 

 大喜びでカジットも下着一枚へと変えていくナーベ。しかし、ふと天井を見上げたかと思うと頭を抱えた。失敗したという表情だ。

 

「ああ……すみません!家を壊してしまいました……。まさかこの程度で壊れるとは思いませんでしたので……弁償させてください」

 

 この程度も何もあの勢いで壊れない建物なんてあるものかと思う。さらに誘拐犯から助けてくれたと思ったら家を壊したことを謝罪しているこの状況。

 そのギャップに思わずリイジーは噴出した。

 

「はははははは、いいよいいよ。孫を救ってくれた恩人だ。弁償何てさせられないさ」

「なんと……ありがとうございます!」

 

 軍帽を取り、一礼をするナーベ。さらりとした黒髪が初めてあらわになり、その整った容姿の全貌に同姓でありながらリイジーさえも魅了されてしまう。

 

 

 

 その後、買い物を続けるナーベであったが、これだけの物音や騒動があって周りが気づかないはずもなかった。

 しばらくすると衛兵がリイジーの店へと駆けつけてきた。

 

「何かあったのですか!?こ、これは……!?」

 

 そこには下着姿で気絶している二人の男女。天井には大きな穴が二つあり、周りにはその残骸は飛散している。そしてそこには袋に何やら詰め込んでいる黒髪の美女と、店主と店員と思われる老女と少年だ。

 衛兵は何が何やら分からない。

 

「その二人は強盗誘拐犯です。私がやっつけました」

 

 振り向きもせずナーベは答える。嘘はいっていない。

 

「そ、そうなの……か?この二人……何も武器は持っていないようだが強盗誘拐?これで……?すまないがこの二人が所持していたものを持っているなら提出してほしいのだが……」

 

 衛兵のその言葉を聞いた瞬間ナーベは目をそらす。

 せっかくPVPによって勝ち取った戦利品を提出するなんて悲しすぎる。それも創造主に喜んでもらえそうなレアアイテムさえ入っていそうなのだ。

 ナーベは視線を訴えかけるようにリイジーへと向けたが、リイジーは気づいていないようだ。

 

「ああ、そやつらはわしの孫を誘拐すると言っておっての、そやつらの持ち物は……」

 

 そこまで言ってリイジーがナーベの視線に気づく。その目には涙が浮かび顔をまるで拾ってきた子犬をかばう子供のようにフルフルと頭を振るわせている。その意味するところは一目瞭然だ。

 

「……そやつらは下着姿で……素手で襲ってきた……変態じゃった……よ……」

 

 リイジーはそう言って視線を逸らす。衛兵はさらに訳が分からなくなってしまった。しかし、上司への事件の報告書は上げないわけにはいかない。

 そして仕事熱心な衛兵により彼らは全員を連行されることになるのだった。


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