コラム

副大統領にも仕事があった

2009年10月28日(水)10時00分

 今年7月、旧ソ連圏のグルジアとウクライナに行ってきました。グルジアは、昨年8月、ロシアと戦火を交えた国。ウクライナは、ロシアから離れてヨーロッパに接近しようとして、ロシアとの対立が激化しています。そんな様子を取材に行ったのですが、そこで出会ったのが、アメリカのジョー・バイデン副大統領ご一行さまでした。

 私が直接会ったわけではなく、たまたまウクライナの首都キエフで副大統領の車列を見ただけなのですが。

 その直前、オバマ大統領は、ロシアのメドベージェフ大統領と会い、米ロ関係の改善を約束していました。これが、グルジア政府やウクライナ政府の懸念を掻き立てました。自分たちの味方だったはずのアメリカが、自分たちを見捨ててロシアと接近しようとしているのではないかと疑念を抱いたのですね。

 そこでバイデン副大統領が急遽グルジアとウクライナに飛び、「友好関係に変わりはないよ」と宥めたのですね。

 そんな副大統領の立場を、本誌日本版10月28日号が取り上げています。題して「不都合な真実を語る男ジョー・バイデン」。「不都合な真実」といえば、アル・ゴア元副大統領の映画と著作の名前。同じ副大統領ということでヒネリを効かせたタイトルになっていますが、本文を読むと、オバマに対して不都合なことでもズケズケと言っている、というわけです。

 この中に、以下のような文章が出てきます。

「対ロシア関係では、2人がアメとムチの役割を分担している。良好な感情に基づいてロシアと新しい時代を築きたいと宣言するのはオバマの役目。ただしロシアの抱く領土拡張の野望と人権侵害の現状は厳しく見張っている、と付言するのはバイデンの役目だ」

 私がウクライナでバイデンを見たのは、まさにこの立場を実行していたというわけです。

 アメリカの副大統領というのは、存在感が薄いものです。大統領は毎日大きく取り上げられるのに、副大統領に関しては、失言でもしない限り、ニュースに登場しません。

 ところが、この記事では、オバマとバイデンの関係を活写しています。オバマ政権が、アフガニスタン戦略に傾注しようとしたとき、バイデン副大統領は、こう言ったというのです。

「アルカイダは、ほぼ全員がパキスタンにいる。そのパキスタンには核兵器がある。それでもわれわれは、パキスタン向けの1ドルごとにアフガニスタンで30ドルを費やしている。これは戦略的に正しいだろうか?」

 これで会議の流れが変わったというのです。

 過去には自分の仕事を「バケツ1杯の小便ほどの価値もない」と表現した副大統領もいましたが、どうして、どうして、バイデンは価値ある仕事をしているようです。

 ふだん日本でのニュースでは取り上げられない副大統領の仕事ぶり。それを知ることができるのも、この雑誌の価値あるところです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

MAGAZINE

特集:消費増税からマネーを守る 経済超入門

2019-10・ 8号(10/ 1発売)

消費税が増え年金は激減── 変化の時代にマネーを守るため、投資や住宅、貯蓄、消費で知っておくべき基礎知識とは

人気ランキング

  • 1

    韓国で長引く日本製品不買運動、韓国企業への影響が徐々に明らかに

  • 2

    米韓関係の険悪化も日本のせい⁉ 文在寅がまた不安な言動

  • 3

    ラグビーW杯:オールブラックス、タトゥー隠して日本文化に配慮

  • 4

    「OK」のサインは白人至上主義のシンボルになったの…

  • 5

    安倍首相の祝賀ビデオメッセージが中国のCCTVで大写…

  • 6

    繁殖を止めるために遺伝子組み換えされた蚊、自然界…

  • 7

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 8

    日本の若者にとって気候変動よりも「セクシー」な問…

  • 9

    「バレエ男子」をありのままに受容する、日本に世界…

  • 10

    <動画>トランプを睨みつけるグレタ・トゥーンベリ…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!