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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

15章 運命を切り開く者(仮)

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354 教皇様の大人化

 結界を力業で突破して教皇様へ近寄辿り着いた俺は、教皇様の姿を見て軽く混乱することになった。

 教皇様が俺の知っている教皇様の姿ではなく……面影を残しつつも立派に成長を遂げた大人女性だったからだ。

 種族としてはエルフ寄りでしっかりと耳も尖っているが、そこからさらにフォレノワール達精霊のような神秘さが増していた。

 この姿をカトリーヌさんが見たらきっとさらに崇めるんだろう……そんなことが頭に浮かんだ。

 ただ直ぐに教皇様が蒼白くで辛そうな顔をしていたのを見て正気に戻り、教皇様を救うべくエクストラヒールを発動した後で、教皇様の手を握り、魔力を譲渡していく。


 一般人であれば高級魔力ポーションを飲ませれば魔力枯渇していても直ぐに安定していくけど、教会本部を覆った結界を発動したのが教皇様であった場合、元々の魔力保有量から考えて、高級魔力ポーションでは心許ないと判断したからだ。

 後ろでは俺に続いてカトリーヌさんが教皇の間に入ってこようとしていたらしく、必死にガルバさんが止めていた。

 俺はその声を聞き流して最優先事項である教皇様の魔力回復を努めた。

 それから五分程度、魔力譲渡をしたところで教皇様の顔色が良くなり呼吸も安定したことから、少し強引だけど詳しい状況を知るために覚醒させることにした。


「教皇様、教皇様、そろそろ起きてください」

 まずは身体を揺すって起こそうと試みた……けれど覚醒することはなかった。

 やっぱり魔法で起こすのが早いか……そう思ったところで、結界の外にいるローザさんからまさかの一言が発せられた。

「ルシエル様、お姫様を起こすには、情熱的なキスだと昔から相場は決まっていますよ」


「ローザ、貴女は何を言ってい……!?」

 カトリーヌさんはローザさんの一言で絶句し、俺もまた突然の発言に思わず振り返ってしまった。


「ルシエル君、一刻を争うだよね? ならやれることは全てした方がいいと思うよ」

 すると何故か面白そうな顔をしたガルバさんが、ローザさんに便乗した。

 俺はガルバさんのあんな笑顔を久しぶりに見た気がした。

 きっと教会本部へ出向している今はストレスが溜まるんだろうな……。


 だけどこれで教皇様にキスでもしようものなら、きっとレインスター卿が顕現してくるだろう……。

 きっとレインスター卿はそんな魔法も仕込んでいるに違いない。

 俺はそんな冒険をする気はさらさらなかったので、レインスター卿の教え通り意識を強制的に覚醒させる魔法を想像して使えばいいはずだと、イメージ頼りに無詠唱で意識を覚醒させる魔法を発動してみた。

 すると青白い光が教皇様の額に吸い込まれていった。


「うっ……こ、こ、は?」

 その直後、まだ少し辛そうではあるものの、教皇様が目を開いてくれた。


「目が覚めましたか? 教皇様」

「ぬ……!? ルシエルではないか! どうやって教会本部へ……あ、いやお主は最近デタラメな存在になってきたと聞いているからしな……。それよりどうして聖都におるのだ。公国ブランジュの件はもう終わったのか?」

 教皇様の第一声に俺は顔を曇らせてしまう。

「そうだったのなら良かったのですが、どうやら邪神の目的というか狙いがこの聖都……そして教皇様だと気づいたので、急いでこちらへと戻って来たんですよ」

 それに各迷宮の上空に存在していた魔法陣を使って邪神が魔物や魔族を召喚したとしても、聖域結界を発動してきたから、召喚されたと同時に魔物や魔族は浄化されるから灰になるはずだ。


「それならブランジュはどうするのだ。ブランジュがある方角には視認出来る程の瘴気が集まっていたのだぞ」

「大丈夫です。一度浄化はしていますし、頼れる師匠と従者筆頭に現場を託してきましたから……」

「そうか……」

 しかしブランジュの瘴気を心配する教皇様を宥めるためにそう口にしたものの、俺は師匠とライオネルを心配していた。

 何故なら浄化波を相殺して見せたあの瘴気の騎士がいたからだ……。あの騎士だけは他と何かが違って嫌な感じがしたからだ。


 そこで心配そうにこちらを見つめる教皇様に気づいて話題を変えることにした。 

「ところで教皇様、姿がかなり成長されたご様子ですが、どうなされたのですか?」

「うむ……? 成長とはどういうことじゃ?」

 もしかしたら気がついてないのか?

「立っていただいた方が分かりやすいですかね」

 俺は教皇様に手を差し伸べて立ってもらい、水魔法で鏡を作り出してみてもらうことにした。

 もちろんそんな悠長な時間は本当のところなかったけど、教皇様の体調が戻れば何となく戦力になってくれそうな確信めいた予感があった。


「これが妾か……うむ、見事に成長しておるな。どうじゃルシエルもこの姿で迫られたら動じるのではないか?」

「教皇様は美人だという事実は認めます。ですが、それはないですね……。それよりもその変化がどうして起こったのか、聞いてもいいですか?」

 もしレインスター卿と邂逅することがなければ少しは揺れていたかもしれないが、レインスター卿の凄さと怖さを知ってしまっている以上、容姿で動じるようなことはない。

「ぬぅ即答とは……まぁいい。父様が結界を作動させるために作ってくれた魔導具があったのじゃが、発動させた途端に砕けてしまったのじゃ。すると身体の底から凄い力が湧き上がってきたじゃが、結界を発動するための魔力を結界を作る魔法陣に吸いつくされてしまってそこから意識を失ってしまったのじゃ。だからいくつか心当たりがあるものの、どれが正解なのかは分からないのじゃ」

「そうでしたか……それで体調の方がいかがですか?」

「魔力が戻ったからなのか、以前よりもかなり身体が軽く感じるのじゃ」

 一応教皇様に問題はないか……そうなるとこの後のことだけど……。

「教皇様はこの後どうなされますか? 私は地下から溢れ出てくる不死属性魔物(アンデッド)を相手にしつつ、戦乙女聖騎士隊を支援に向かい最下層の様子を見にいこうと思うのですが……」

「うむ……この姿も極力じゃが人目に晒すことはしたくないのじゃ。なれど聖都と教会本部へ結界を張ることが皆の役に立つだろうか……」

「なると思います。もしかすると教皇様はかなりレベルが上がったか、もしくは封印されていた力が目覚めたのかもしれません。残念ながらブランクがあり実戦経験もあまりないみたいですが、教皇様には教皇様の役割があると思います」

「役割……」

「はい。教皇様が無事で結界を維持している、その事実で教会本部にいる者達の士気は維持されると思います」

「分かったのじゃ。せっかく魔力もルシエルから回復してもらえたのじゃ、結界は維持しているから、サクッと地下から溢れ出てくる不死の軍勢と邪神を浄化してくるのじゃ」

「分かりました。それでは魔力枯渇しないようにこれを渡しておきます」

 俺が渡したのはポーラ達が頑張って量産してくれた魔力結晶球だった。

「念のためいくつ渡しておきます。教皇様は結界の維持に全力を注いで結界外にいる三人に守ってもらってくださいね」

「助かるのじゃ……ルシエル、死ぬでないぞ」

 そこで教皇様が部屋に掛かっていた結界を一度解除すると、ガルバさん達が入ってきた。


「教皇様、俺は痛いのも辛いのも嫌ですが、それ以上に老衰以外で死ぬのはもう(・・)嫌なので、サクッと終わらせて隠居します」

「はぁ~もはやそれが出来るというよりも許される立場ではなかろうに……しかしもう(・・)とは?」

 俺は曖昧に笑って教皇様の問には応えず、ガルバさん達に向かって「教皇様を守ってほしい」それだけ告げて窓から飛び出すのだった。


出来るだけ更新出来るように頑張ります。

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