352 結界
短くてすみません。
聖都がブランジュの首都みたいに、地下から瘴気が溢れ出ているようなことになっていなくて良かった……。
そう思う一方で、聖シュルール教会本部のみに瘴気が集積されているその不自然さに、誰かが意図してやったことなのではないか? そう思えてならなかった。
ただそれを邪神がしたことなのか、それとも教皇様達教会関係者がしたことなのかは分からなかったけど……。
まぁどちらにせよ、教会本部に入ってみなければ分からない……。
その前に上空の魔法陣を聖域結界で囲ってしまおう。
そう思って教会本部の上空に目を向けた……けれど、迷宮上空にあるはずの魔法陣が存在していなかった。
イレギュラーなのか、もう魔法陣が起動してしまった後なのか、判断に迷う……。
ただこれだけのはっきりと瘴気が協会本部だけを染めてしまっては、師匠達みたいに瘴気を目視出来てしまうだろうな……。
……これで教会本部から魔族や魔物が出て来ようものなら、教会本部が実は魔族の住処だったんだと思われそうだ……。
そうなれば徐々に立ち直り始めた教会が今度こそ潰れてしまう。そうなれば聖シュルール共和国そのものが滅び、大陸中央を巡って戦争が起こってしまうかもしれない。
それだけはどうしても避けなければならない。
「……行くか」
オーラコートを自分に発動し、瘴気を囲う見えない結界の中へと降下していく……そして結界に足が触れた瞬間のことだった。
バチィバチィっと電撃が発生し、俺は結界内に入ることを拒絶されてしまった。
「……やばい地味にショックだ。でもこのままだと不味いからな」
気を取り直して結界内に転移することにした……しかしまたしてもバチィバチィっとした電撃が発生し、結界に弾かれてしまったのだ。
まるでロックフォードの認証が無ければ侵入することが出来ないみたいだな……。
ただいつまでも結界の中に入れないままでいる訳にはいかないので、少し力業で侵入することを決め、まず聖域結界を発動して結界と聖域結界をぶつけることにした。
これですんなり結界の中へ進めればいいのだけど、そううまくいくものではなく、教会本部を覆う結界と聖域結界が接したところで激しい電撃と火花が飛び散っている。
俺はそれを無視して結界同士の繋ぎ目に、魔力を流し込んで中和していく。
そして小さな隙間が開いたところで、もう一度転移を試みた。
すると今度はしっかりと転移することが出来た。
ただ聖域結界ごと転移することは出来ず、聖域結界はあっという間に強制解除されてしまい、再び教会本部を覆っていた結界が元に戻ってしまった。
もしかするとこの結界があるから、教会内部にいる人達と連絡が取れなかったんじゃないのか? 試しにまずは冒険者ギルドのグランドマスターへ連絡をしてみることにした。
すると思った通りいくら念じても応答はなく、師匠やケフィン達にも試してみたけど、通信することが出来なくなっていた。
どうやら侵入防止以外にも、瘴気を外に漏らさないこと、外部との魔力通信を遮断してしまうなど、厄介な効果がある結界らしい。
それに結界内でも色々な効果があるらしく、教会内にいるはずの教皇様やルミナさん達の気配や魔力も一切感じることが出来ないでいる。
見つからないために発動させているのではないだろうか? そう思えてきた。
ただ救出する相手に居場所を教えるぐらいの対策もしていると判断し、今度は結界内にいるはずの教皇様へ連絡を取ってみることにした。
しかし残念ながら教皇様からの応答はなかった。
さすがに教皇様達が、既に魔族や魔物にやられたなんてことはないよな? 少しだけ焦りながら今度はルミナさんに連絡を取ってみた。
「ルミナさん、聞こえますか?」
しかし直ぐに応答はない。
……駄目か、そう思った時だった。
『……ルシエル君?』
小さな声だったけど、確かにルミナさんの声が頭に響いた。
「はい。教会本部に張られた結界の中に入りました」
『それなら教皇様が一人でこの結界を維持なさっているから、先に援護を頼みたい』
やっぱり教皇様が張っている結界だったのか。
ただ援護する意味で先に聞きたい情報があった。
「ルミナさん、魔族になってしまった者はどれぐらいいますか?」
『瘴気を弾くローブや鎧を纏っているから、まだ魔族になっているい者はいないはず』
「分かりました」
俺は直ぐに浄化波を発動させ、教会本部の結界内の瘴気を払っていく。
すると騎士団の訓練場から歓声が上がった。もしかすると戦闘中だったのかな? しかし気配や魔力を感じることは出来ないまま。
とりあえず浄化を続けて、教会本部を外から見ても瘴気が見えないように薄めていく。
「ルミナさん、教皇様はどちらにいらっしゃいますか?」
『教皇様はカトリーヌ様とガルバ殿、ローザさんと一緒に教皇の間にいらっしゃるはず』
その言葉を聞いて少し不安になる。
カトリーヌさんとガルバさんのこともパワーレベリングに誘ったものの、色々忙しくしていて時間を作ってもらうことが出来なかったからだ。
もし魔族と対峙したら勝てる見込みは少ないだろう。
まぁガルバさんなら何とかしてくれそうな感じはするけど……。
「ちなみルミナさんはどちらに?」
『戦乙女聖騎士隊はから迷宮から魔物が溢れ出ないように、何とか食い止めている途中……くっ』
「ん? 大丈夫なんですか?」
『今のところは何とか……出来れば加勢してもらいたいけど、教皇様を優先して欲しい』
ルミナさんが弱音を吐くなんて珍しい。
それにルミナさんは別格だとしても、戦乙女聖騎士隊の皆だってレベルが四百を超えているんだから、そこまで苦戦することはないはずだ。
そう考えると、迷宮の魔物も強くなっているってことか、もしくは迷宮から瘴気が溢れ出ていることで影響が出たのか、それとも悪臭が強烈になっているかのどれかか、その全てかもしれない。
「本当に大丈夫なんですね?」
『まだ始まったばかりだから、大丈夫だよ』
「分かりました。あまり進むことはせずに待っていてください。必ず駆けつけます」
『ありがとう』
そこでルミナさんとの連絡が途切れた。
直ぐに教皇の間へ転移を試みてみた……しかし転移することは出来なかった。
これも結界の効果なのか? まるで迷宮の階層に区切られてしまっているように感じる。
あまり時間をロスしたくなかったので、教皇様の部屋に向けて飛んでいくことにした。
お読みいただきありがとう御座います。
本日ニコニコ静画水曜日のシリウスで、コミカライズの三話目がアップされました。
ぜひご覧ください。一月二十七日に上げた活動報告内のコミカライズのイラストからも飛ぶことが出来ます。