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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

15章 運命を切り開く者(仮)

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347 回想

 師匠達のパワーレベリングを続ける日々を過ごしながら、三ヶ月程経ったある日、技術開発部に依頼し、開発してもらった魔道具が完成したと報告が入り、この日から俺はルシエル商会の会頭として各国と交渉することになった。

 その結果として公国ブランジュを除いた各国のトップと会談し、主要都市から小さな村に至るまで全ての場所に魔道具を設置させてもらうことが出来た。

 そして設置の際、まず手始めに浄化波を発動していった。

 すると潜伏していた魔族や魔族化した者達が青白く燃えたり苦しんでのたうち回ってくれたので、直ぐに魔族を発見することが出来た。

 しかしどこの国の街や村を巡っても、大抵一体以上の魔族や魔族化した者がいたことに驚きを隠せなかった。

 まぁ戦闘に関してだけ言えば、大抵の場合、浄化波を発動すると最低でも弱体化してくれるので、同行した仲間があっさりと倒してくれて、魔道具を設置するのに時間はほとんど掛からなかった。

 しかし一度だけ範囲が広く浄化波で魔族を浄化することの出来なかった場所があった。

 それはルーブルク王国の首都だった。


 どうやらウィズダム卿とルノア王女にはそこまでの力がなかったようで、街はおろか、まさか王宮にまで魔族が入り込んでいたことに気付けなかったらしい。

 浄化波を発動することは出来たけど、魔族と魔族化した者を炙り出すことしか出来ずに、混乱させてしまった。

 本当に数多くの魔族が潜伏していたこともあり、事態の早期終結を図る様に第三王女としてルノア王女から依頼を受け、実験的かつ保険の意味で仕掛けた魔道具を発動させることになってしまった。

 それでも魔道具がうまく発動することを俺は信じていたから直ぐに発動させた。


 そして魔道具はちゃんと作動してくれたらしく、首都を青白い透明な結界が包み込んだ。

 すると一旦外に出た魔族は街の中へ侵入することが出来なくなり、街の中にいた魔族や魔族化は弱体化してくれた。

 それこそ敵が一体であれば、複数の一般兵士でもうまく連携すれば互角以上に戦えたのだ。

 ただこの日の主役は彼らではなく、一人のハーフエルフだった。


 弓を用いて何体、何十体もの魔族を狙撃してそれを全て成功させた。

 いくら魔族が弱体化したとしても、その魔族にすら勝てない者達は多い。

 そんな者達を救ったのがハーフエルフが放った矢だった。

 その矢に救われたのは住民だけではない。

 それこそルーブルク王国の貴族も紛れていたらしく、その強さと美しさになんたらかんたらと、そんな話が複数上がり俺のところまで来た。


「なぁクレシア、あれからたった一ヶ月の間にルーブルク王国の貴族やエルフから求婚したいと申し出がきているんだけど?」

「今はイエニスとイエニスの学校に通う生徒を守ることしか考えられません。ルシエル様には大変申し訳ないのですが、お断りをしていただけますか?」

「はぁ~第三王女に伝えておくよ。でもハットリ先生にはちゃんと自分で報告してな」

「……はい」

 あの日クレシア個人の活躍が認められ、ルーブルク王国から秀麗弓姫という通り名と恩賞の打診があった。

 しかしクレシアはそれを辞退する。

「ルシエル様が受け取らない恩賞を私が受け取る訳にはいきません。それにルシエル商会で十分過ぎる報酬をいただいています」

 それからこうしてイエニスへ戻ってくると、俺のところにルーブルク王国からの書類が溜まっているのだ。

 まぁクレシアもハットリ先生に手を焼いているから、あまり言わないでおこう。

 そして俺は転移した。


 魔道具を設置するに辺り、各国からの反発を予想していたけど本当にあっさりと各国が了承してくれたことについての裏が取れたらしい。

 その理由は表と裏の二種類があるらしく、何だかとても嫌な予感がした。

 まず表向きの理由は、既に邪神と魔族が動いていたことにより各国で少なくない被害が出ていたこと。

 しかし実際のところ……裏の理由は違うらしい。

 少人数で帝国に攻め入って前皇帝を退位を迫り、イルマシア帝国とルーブルク王国の戦争を終結させたルシエル商会が動いているかららしい。

 しかも既にルシエル商会は聖シュルール恊和国とイエニスの中枢の実権を握っているからだと、少し前にガルバさんから話を聞いたというグルガーさんが笑いながら教えてくれた。

「何ですかその噂話。完全に悪意に満ちてますよ」

「そうでもないだろ? イエニスはルシエル商会が舵取りしているし、教会本部に獣人の兄貴がいるのもルシエルが繋がりだから否定出来ないだろ」

 何故か知らないうちに外堀を埋められている事案が多いよな。

「それにしても何だかルシエル商会が武闘派組織のように聞こえるんですけど……」

「まぁ各国の街や村を守る為に魔族と戦っているルシエルの姿を見たら誰でもそう思うだろ」

「何だか理不尽ですよ」

「人生そんなもんだ」

「それで物体Xの解析と料理への活用術なんですけど、少しは進みましたか?」

「転生者のアリスっていったか? あれは危険だぞ。何だか知らないけど物体モドキを作り始めてるんだよ。元は丸薬だからなんたらって」

「締め落としてでもいいので止めて下さい。確かに物体Xは元々丸薬だったと書かれていましたけど、そんなの飲んだらいくら毒耐性スキルが最高のⅩでも耐えきれそうにないです」

「まぁ物体Xモドキは物体Xをこよなく愛しているルシエル様にって言ってたから、そのうちだ」

「……今日は帰ります」

「おう」

 どうにかして逃げる方法を探さなければ……そして俺は謀略の迷宮へと戻ってきた。  

 こういう時は身体を動かすのが一番だもんな。


 最近レベルが七百の壁を越えて上がり出したけど、レベル五百の壁を越えた師匠とライオネル。

 二人と模擬戦をすると、二百レベルもの差があるのに三回に一度は負けるようになってしまった。

 もちろん魔族に放つような魔法は使っていないけど、それでもレインスター卿に学んだ戦闘技術は用いているのにだ。

 こればっかりはセンスなんだと諦めているけど、師匠とライオネル自身も全盛期が再び訪れたと喜んでいる。

 ちなみに師匠達の武具はドランとグランドさんが武器を作り、トレットさんとポーラ、リシアンが防具を担当して作り上げたけど、その性能が異常過ぎて、もはやランダムに出て来る魔物達が可哀想に思える程だ。

 まぁバザックと魔法戦をする時は負けたことはないけど、それも今後どうなるか分からないから、どうしても密度の濃い修行をしている自分がいる。

 そのことに対して何かおかしいのではないかと思うこともあるけど、きっとこれが平和だってことなんだろう。

「ルシエル様、戻られましたか」

「ああ。でもライオネルは良かったのか? ナーニアと赤ちゃんに会わなくて?」

「これは自らに課した戒めです。旋風などによもや二連敗するなど、気が緩んでしました」

「そんなことだろナーニアとコミュニケーション取れていないんじゃないか?」

「いえ、既に魔通玉で連敗したことを伝えました」

「……それで?」

「連勝したら帰ることにしました」

「そしたら一生無理だろ」

 ライオネルの言葉に背後から師匠の言葉が掛けられた。

 師匠は二連勝しているから、とっても機嫌がいい。

「ふん、来たか。勝ち誇っていられるのも今だけだ。ルシエル様が戻られたのだから模擬戦の続きをするぞ」

「ふん、まずは連勝を三に延ばさせてもらう」

 それから俺を含めて三人でランダムボスを開いた。


 現れたのは……「邪魔だ」「燃え尽きろ」二人に瞬殺されたのは、巨大な頭部だけの魔物だった。

 しかしその強さを知る前に師匠達に消されてしまった。

「二人とも戦うのはいいですけど、即死攻撃だけは本当になりですからね」

「ルシエル、毎回それを言うよな? 今まで二人とも死んでないだろう」

「ギリギリは見極めていますよ」

「こっちが判断してエクストラヒールを発動していなかったら死んでいたケースが何度あったと思うんですか! 少しは自重してください」

「はぁ~わかった。じゃあさっさと始めてくれ」

「ルシエル様、お願いします」

「じゃあ始め」

 こうして二人の模擬戦が始まって直ぐのことだった。

 頭に直接声が響いたのは……。

『ルシエル、直ぐにブランジュへ向かって。急がないとブランジュが飲み込まれるわ』

「今の声は精霊女王か。一体何があった?」

『邪神が暗黒大陸とブランジュの召喚魔法陣を繋ごうとしているの。このままだとブランジュ全域が瘴気で覆われてしまう』

「分かった、直ぐに移動する。情報があればこのまま教えてほしい」

『……仲間を信じることが出来れば、絶望しか見えなくても一筋の光を掴むことが出来るから、自分を信じて』

「何かの暗示か?」

『世界樹は任せて』

「全然答えになってないぞ」

 だけど精霊女王からの返答はもうなかった。


「師匠、ライオネル、残念ですが本番が来てしまいまいした。今一度死地へ付き合ってください」

「おう。今度こそちゃんと守ってやる」

「全員で生きて帰りましょう」

「ああ」

 こうして俺達は迷宮から脱出して、冒険者ギルド本部へと転移した。

お読みいただきありがとうございます。

本日聖者無双二巻の発売となりました。

是非お買い求めくださいませ。


そして昨日、水曜日のシリウスで聖者無双のコミカライズが始まりました。

詳細は活動報告に載っていますので、見ていただければ幸いです。


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