342 瘴気の中の魔法陣
転移した先の空間では既に瘴気が満ちていて、まるで黒紫色の世界のように思えた。
そしてどうやらこの世界を作り出した犯人達がまだこの空間にいるようだったけど、いきなり転移して現れた俺に驚いていて、攻撃を仕掛けてくる気配は感じられなかった。
そのことに対してどうしてだろうと思いつつ、相手が止まっているのを好機と判断して、瘴気を浄化することにした。
この濃度の瘴気を短時間でも吸い込むのは、さすがに俺でも少しは不味い気がしたためだ。
さらに犯人達がまだこの空間にいることは捉えていたので、戦闘することになると判断し、浄化波と同時に聖域鎧も発動した。
その時俺はぼんやりと何故あれだけ瘴気が立ち上っていたのに、俺は瘴気が満ちている可能性を考えて事前に聖域鎧を発動しなかったんだろう? そんな自分の取った行動にあきれていた。
自分の視界が青白い炎で埋め尽くされるまでは。
一瞬意味が分からなかったけど、直ぐに警戒レベルをさらに上げ、時空間属性魔法のスピードアップを発動して、少しでも考える時間を引き延ばして現状を確認するとそこには驚くべき光景が広がっていた。
なんと青白く燃え出したのは大量のエビルプラントだったのだ。
しかしどういう訳なのか、帝国で感じたような気配や魔力を一切感じることが出来なかった。
それこそ瘴気を生み出す本物の機械のようにも思えた。
そのエビルプラントが燃えているのにも関わらず、瘴気の生産を止める気配がないため、俺は先程の三倍魔力を込めた浄化波を発動しようとした……。
しかしその時、とてつもない魔力が込められた攻撃がこちらへと飛んで来るのが見えた。
俺は直ぐに短距離転移で空中へ逃げると、俺がいた場所をそのとてつもない魔力が込められた砲撃が通過してエビルプラントを消滅させ、そのまま壁にぶち当たり、またこのネルダールが揺れた。
威力としては俺が昔初めて放った龍剣程だったけど、大きさが違うために抉り方は凄まじいものがあった。
「あの攻撃で天井をぶち抜き、ここに溜まった瘴気を外へ出したのか。もしかして魔族が作った魔道具か?」
あれだけ大きな瘴気を凝縮させたような砲撃を放つなんて洒落にならないぞ。
もしあんな兵器が大量に開発されたら、それこそこの世界が終わってしまう可能性があるぞ。
まずはここにいるエビルプラントと魔族、魔族化した者達を片づける。
そう思い、この空間全てを浄化しようとしたところで、空間の中心に描かれた魔法陣を見つけた。
そこで俺は浄化波ではなく、聖龍剣を発動させた。
俺の魔力を過分に吸った聖龍がエビルプラントを飲み込むと、その瞬間に消滅していく。
そして逃げようとした魔族や魔族化した人達も聖龍に飲み込まれ、八人中六人が人族へ戻り、二人がエビルプラントと同じように消滅した。
「一応これでこのネルダールが瘴気まみれになることは防げた、か。それにしても風の大精霊に精霊女王を会わせに来ただけで巻き込まれたのか……」
前にライオネルから言われた争いの渦中にいるのが転生者ではなく、俺という話はあながち間違っていないのかもしれないな……。
ここまで巻き込まれると厄払いをお願いしたくなる。
いっそお寺を龍脈にあるところに築くか……。
でもこれが本当は災いではなく、何かに導かれて何かが起こる瀬戸際で未然に防いでいるのだとしたら……何故俺なのかは大いに気になるところだけど。
そう考えれば今回のことも、ネルダールへ来るのが一日でも遅れていれば、もしかするとネルダールが落ちていた可能性もあるし、魔族がネルダールを拠点として転移魔法陣から各国へなだれ込むという状況に陥いっていたかもしれない。
「魔族化したこの人達がどこの国の人なのかは分からないけど、もしかすると想像以上に邪神の動きが活発なのか……」
普通の人族が風の精霊に気付かれないで、ネルダールの心臓部である水龍と風龍がいた場所へ潜り込み、あれだけ多くのエビルプラントを準備したり、これだけの魔法陣を描いたりすることが出来るだろうか?
前に水龍達と戦った時に風の精霊がここに来ることは久しぶりのようなこと言っていたけど、それでも間違いなくここがネルダールの心臓部なのだから、いくらなんでも人が出入りすれば風の精霊は気付くだろう。
それならば邪神が関わっていると考えることが自然だ。
それにこの魔法陣、見ているだけで嫌な予感がしてくる。
魔法陣を見ても何の魔法陣か判断することが難しいため、俺は精霊女王達に念話を送りこちらへと来てもらうことにした。
順番に念話すると加護の影響もあるからか、こちらへ指定転移させることが出来た。
もちろんリディアのことを指定転移させることは無理だったので、先に転移した大精霊達に魔族化していた者達の見張りを任せて、リディアを迎えに行った。
転移した側でリディアは待っていた。
「リディア、ネルダールが揺れた後の街の様子はどうだった?」
「皆さん混乱されていました。今までこのようなことが起きたことはなかったと」
まぁ長命種がいれば風龍、水龍が邪神と戦った時に、今回以上の騒ぎがあったことを記憶しているかもしれないけどな。
「怪我人は?」
「すみません。まだ全ての家屋を回れた訳ではなくて……でも今までに怪我をされたり、苦しんだりされた方はいらっしゃいませんでした」
「ありがとう。それと仕事を放り出した俺に謝る必要はないよ。リディアはちゃんと行動出来ているよ」
「ありがとうございます」
「それでなんだけど、少し確認したいことがあるから、一緒に来てくれるか?」
「はい」
こうして俺とリディアは精霊女王達と合流した。
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