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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

14章 転生龍と精霊からの依頼

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339 教皇様と大精霊達

 本来なら教皇の間へと直接転移しても良かったのだけど、戦乙女聖騎士隊長であるルミナさん以外は教皇様がハイハーフエルフであることを知らないので、直接転移することは止めて俺が使用していた部屋へと転移することにした。

 そして無事転移することは出来たのだけど、私物が一切なく面白味がないと戦乙女聖騎士隊の面々が言い始めたので、直ぐに教皇の間へ移動することにした。

 すると運が良かったのか、部屋を出たところまでは誰にも見られることはなかった。

 しかし幸運はいつまでも続いてくれなかったようで――。


「凄い見られているし、その数も多くなってますよね」

「それはそうだろう。ルシエル君は教会本部で何をするか分からない要注意人物だし、私達は一応そのルシエル君を監視するために同行するのが任務なのだ。それに明らかに教会関係者ではない者達もいるのだ」

 ルミナさんはそんな俺の言葉に苦笑しながら、なぜ見られているのかを簡潔に答えてくれた。

 それにしても要注意人物って……まぁ教会でしてきたことを考えてると間違ってはいないように思える。

 それでもやはり納得のいくものではない。


「はぁ~これでも頑張っているつもりですが、教会(ここ)では悪人みたいな扱いなんですね」

「君それは違うよ。ルシエル君は確かに要注意人物だけど、別に悪人として見ている訳ではないよ。遠目からこちらを見ている者達は皆、自分には出来ないことを次々と成し遂げていくルシエル君に対して、尊敬と畏怖の感情を抱いているのさ」

 悪意は感じていないし冗談のつもりだったけど、真剣な顔でフォローしてくれるルミナさんは変わらず実直な人だな。


「じゃあそう思っておきます。しかし教会本部もあれから数か月経っていますし、少しは落ち着いてるかな」

「どうだろうな。仕切っていた執行部が消滅してしまったから、新たに教会本部の指揮を執る者がいなければ、全体的に停滞してしまっている可能性もある」

 予想ではガルバさんが段取りをして、カトリーヌさんが動いていると思うけど……。


「その辺の情報をケフィン達は?」

「いや、ブランジュからイエニスへとやって来る者達の中に魔族が紛れ込んでいたらしく、ほとんどブランジュの情報と国境を警備に対して時間を割く形になっていたらしく、こちらの情報はなかった」

「そうですか」

 魔族の情報は気になるけど、たぶん各地に魔族や魔族化した者は潜伏しているだろうし、そればかりになってしまうと困るな。

 いっそ魔族や魔物が偽装したとしても街に入れない仕組みを構築する必要があるか……。 

 そんなことを考えていたら、もうすぐ教皇の間へ着くことを大精霊達に伝えようとした。そこで精霊達の機嫌が悪そうなことに気付く。

 人族から見世物状態で見られたからだろうか? しかし穏健そうな精霊女王までが機嫌を悪そうにしていたので、精霊の価値観も分からないで、聞いてみることにした。 


「何かあったのか?」

 一応冷静なはずのフォレノワールに聞いてみると、フォレノワールではなく、精霊女王が口を開く。


「フルーナにはお説教をしなくてはいけません。こんな空気の淀む場所をわざわざ造るなんて、レインや私達の好意を踏みにじる行為です」

 教会の増築の件だったか。

 レインスター卿だけで造ったと思っていたけど、精霊達の力も使って建設したのなら、怒っているのも分かるかな。

 でも封印されていた精霊女王はまだしも、他の精霊達が知らないのは何故だろう? レインスター卿が監視されないような仕掛けでも施していたんだろうか? プライベート過ぎて聞けないな。


「それについてはもう一戦交えているよ。教皇様は教皇の間から出ることがなかったから、狡猾な者の口車に乗せられて改築してしまったんだろう。教皇様も反省しているし、何とかしたいとは思っているだろうから、もし良ければ力を貸してあげて欲しい」

「はぁ~まずはフルーナちゃんと話してから決めましょう」

 そんな会話を最後に教皇の間へ到着した。


 扉を三度ノックして、ルミナさんが中へと声を掛ける。

「聖シュルール共和国騎士団、第四聖騎士隊隊長ルミナです。帰還の報告へ上がりました」

 すると扉が開かれ、開いたのはガルバさんとカトリーヌさんだった。


 そして俺は二人の顔を無意識に確認したところで、条件反射的に二人へハイヒールとピュリフィケイションを発動していた。

「おおっこれは! あ、ルシエル君も来てくれたんだね」

「ルミナ、帰還の報告は聞いたけど、この忙しい時に部外者なんて……」

 ハイヒールによって目の下のクマがなくなり、ピュリフィケイションで綺麗になった。

「全員俺の関係者ですが、入っても?」

「……どうぞ」

 一瞬間があったけど、許可が出たので入室しようとすると、俺よりも先に教皇の間へ入ったのは大精霊達だった。

 そして精霊女王がさらに一歩前に出てたところで、教皇の間の空気が変わった。

 ガルバさんやカトリーヌさん、侍女の方々も警戒体勢になった。

「フルーナちゃん、久しぶりね」

 しかし精霊女王が優し気な声で挨拶すると、警戒が溶けていく。

 しかし声を掛けられた教皇様だけは、何故かとても緊張している様子が感じられた。


 カトリーヌさんは精霊女王を怪訝な表情で見つめるものの、誰か分からないから対処出来ないでいるみたいだ。

「な、な、ゴホン。ガルバ殿とローザ、カトリーヌを除き退出するのじゃ」

「はっ」

 すると固まっていた教皇様がしっかりと声の主を確認して指示を出し始めた。


 カトリーヌさんは納得が言っていないようだったけど、侍女さん達は速やかに外へ出て行く。

 そんな教皇様を見ると、変装の魔道具でエルフ耳を人の耳へと変化させているってことは、まだハーフハイエルフだってことは隠しているんだろう。


 まぁ戦乙女聖騎士隊もいるからその判断は正しいんだろうけど、教皇様は何であんなに震えているんだろうか? このままじゃまたカトリーヌさんが暴走する可能性もあるぞ。

 はぁ~仕方ないから説明するかな。


「教皇様、お久しぶりです。色々ありまして精霊女王を助けることになりました。今は精霊女王を他の大精霊達と併せるべく行動しています。つきましてはネルダールへと赴きたいので、転移の魔法陣を貸していただけませんか?」

 大精霊の言葉が出たところで、ガルバさんとカトリーヌさんが息を呑むのが分かった。


「……良くやってくれたのじゃ。もちろん許可するのじゃ。だから、だからルシエルは妾の味方になって欲しいのじゃ」

 何で今にも泣きそうな顔して縋りつこうとするんだろうか? 昔精霊女王に怒られた経験があるんだろうか?


「それは構いませんが、精霊女王とは久しぶりの再会なのではないですか? それに風の大精霊以外はここにいますし、旧交を温めてはいかがですか?」

「そう……じゃな。ルナ会いたかったよ~」

 一瞬だけ躊躇したけど、精霊女王が微笑んで両手を広げると、教皇様は涙を浮かべながら、精霊女王へとダイブして抱き着いた。


「フルーナちゃん、今まで良く頑張りましたね」

 精霊女王は優しく教皇様の頭を撫で始めた。

 すると他の精霊達も教皇様へと近づいていき、教皇様が無邪気な子供に見えた。

 しかしそれとは対照的に、先程まで窺うような眼差しを向けていたカトリーヌさんは茫然自失となり、ガルバさんに支えられていた。

 そんなガルバさんと視線が合って苦笑されたけど、どうせこの後に戦乙女聖騎士隊の報告があるのだから、その間にガルバさんが持っている情報を聞くことにした。


「ガルバさん、聖都……教会本部はいかがですか?」

「えっと、それよりも戦乙女聖騎士隊はいいのかい? 少し困惑しているように見えるけど」

「大丈夫ですよ。龍神や大精霊達と面識あるんですから、直ぐになれますよ」

「……何だかスケールが大きくなったねルシエル君。もう今ある常識を全て吹っ切った感じがするよ」

「はっ、ははっ。まだまだですよ……」

 ガルバさんの言葉が何故か毒舌に聞こえて、少しだけ目から汗が零れそうになった。

 全ての常識って……否定出来ないのが自分でも怖い。


「ブロドもいたから苦労しているんだね。それで教会本部のことだったかな?」

 師匠はそんなに問題ではなかったんですが、何があったのか報告する必要はないだろうな。

 ただでさえいっぱいいっぱいみたいだしな。


「そうですね」

「正直厳しいね。執行部が無くなって資金はあるけど、労力となる人材がいないというか育っていないんだ。そういった伝手もないし、優秀な人材がいても良く調べると他国からの潜入者だしね……まぁ下手な横槍が入れないだけ恵まれていると思うけど」

 今さらっと、人材の中に潜伏者がいるっていったけど、そう簡単に見つかるものなのか? いやそれこそが隠遁なのかもしれないな。


「何か考えていることはあるんですか?」

「う~ん、聖シュルール教会を出来るだけ早く復権させるためには、分かりやすい功績や目印となる象徴が必要になるかな」

 ガルバさんの目からは、その象徴を俺にしてもらいたいというメッセージが込められていることが分かった。


「魔族や邪神と戦わなくてもいいなら、喜んで引き受けますけど?」

「ははっそうだろうね」

 それにもし俺が象徴になってしまえば、下手をすると俺に教皇をやれという輩が出てくる可能性がある。

 それだけは勘弁願いたい。 


「それで魔族の件はどうなんですか?」

「定かではないけど、ブランジュとグランドルで魔族の目撃が情報があるみたいだ。それに魔物の数も増えているらしいよ。見た訳ではないから、正確な情報ではないけどね」

「やっぱりそうですか。一度ネルダールへ言って風の大精霊と会ったら、各国の情報収集をしてみます」

「出来たらその情報を僕にもくれるかな?」

「はい」

 こちらの話がひと段落したところで、教皇様と精霊女王達も落ち着いたらしい。

 そこで戦乙女聖騎士隊の報告が始める前に、俺と精霊女王達は教皇の間の隣部屋にある魔法陣を借りて、魔法都市国家ネルダールへと転移してもらうことにした。


 その際、教皇様の魔力が必要になるらしいので魔力回復が出来るように、最高級蜂蜜と蜂蜜酒を渡した教皇様はとても嬉しそうな顔で受け取り、ネルダール行きの魔法陣を笑顔で起動するのだった。


お読みいただきありがとうございます。

i349488
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