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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

14章 転生龍と精霊からの依頼

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338 転生者達の今後

 イエニスへと戻ってきた俺達が屋敷に入ると、既に師匠達の姿はなく会議は終わっているみたいだった。

 近くにいたメイドさんに話を聞くと、師匠達は訓練場へ行き、戦乙女聖騎士隊は野菜や蜂蜜の生産工場にいると教えてくれた。

 礼を言って地下へと進むと、何故か生産工場で楽しそうに働く戦乙女聖騎士隊の姿を発見した。

 その中には人族至上主義で育ったルミナさんの姿もあり、もう他種族に対する偏見は完全に払拭されているように見えた。


 しかしこれは一体どういうことだろう? 疑問を浮かべてその光景を見ていると、こちらに気付いたハッチ族のハニールさんが笑顔で寄ってきた。

「ルシエル様、お待ちしていました」

「ああハニールさん。あの戦乙女聖騎士隊は何で働いているんですか?」


 ニコニコと笑顔が固まり、驚いた表情へと変わる。

「えっ? ルシエル様の指示ではないんですか?」


 普通に考えて教会所属の戦乙女聖騎士隊を私的に働かせるのはおかしいことだ。

 でもハニールさんはそうは思わなかったのだろうか? それに何故そんな勘違いをしたんだろう?

「全く知りませんでしたけど、どうして私の指示だと思ったんですか?」

「それが『ルシエル君が帰って来るまで、ルシエル商会で働いてみたいのだ。それに自由に行動してもいいと言われている』そう言われましたので」

 確かに自由行動とは言ったけど、まさか働くなんて考えもしなかった。

 何だか従業員達とも和気藹々(わきあいあい)とした感じだしな。


 まさかこのまま本当に騎士団を脱退するなんてことはないよな……。

 はぁ~色々と考えると気が滅入ってくるな。

 でもまぁ戦乙女聖騎士隊の皆は楽しそうに作業しているのはいいことかな。

 龍の谷ではストレスを溜め込んでいるように見えたし、確か何かを育てるってデトックス効果があったはずだしな。


「分かりました。彼女達には一人一つ小瓶の蜂蜜を提供しましょう。ただしお客様扱いとしてここへ来るのはこれで最後ですけどね」

 聖騎士として生活をしてきた彼女達が、何か他のことに興味を持つことはいい。

 でもあくまで職業体験という形にしなければ、下手をしたら問題になりそうだからな。


「大瓶でなくてもよろしいのですか?」

「はい。そうでなければ従業員に示しがつきませんし、とても貴重な食材だという認識が薄れてしまいそうですからね」

「嬉しいことを言ってくださいますね。分かりました小瓶で用意させていただきます」

 ハニールさんそう言い残して、蜂蜜倉庫へと飛んでいった。


 あれ? そういえば水の精霊がいるのに、眷属であるはずのハニールさんが何で気がつかないんだろう?

「水の精霊、ハッチ族は眷属だったよな? なんで声を掛けなかったん……だ?」

 しかし振り返ると水の精霊と土の精霊す姿が消えていた。


「ルシエル、あの二人ならあそこのエルフのところよ」

 話し掛けてきたフォレノワールの視線を追うと、工場を統括しているミルフィーネと何やら話をしていた。


 きっと精霊を信仰しているミルフィーネにとっては、至福の時だろう。

「いつの間に……でも何だかミルフィーネは幸せそうだし、このまま工房へ行くか」

「そうね」

 こうして俺達は地下三階にある工房を訪れた。

 そして俺は転生者達を呼びつけた。


「さて、それでは何か言い訳があれば聞こう」

「いきなり帰ってきて、何をそんなに怒っているでござる?」

「私達が何かしたような言い方ですけど……」

「……」

 ハットリとアリスは悪びれた様子もなく、それどころか何故呼ばれたのかも分からないといった表情をしていた。

 しかしリィナだけは、思い詰めた表情で俯いていた。


「リィナどうした?」

「喋るゴーレムを暴走させてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 どうやらしっかりと自分の立場を理解しているのはリィナだけだったらしい。


「暴走の原因は分かっているのか?」

「たぶんアリスさんが行動パターンを設定したからですけど、私はそれを止められなかったので……」

「そうか」

 俺がそう呟くと、ハットリとアリスの顔に緊張が走るのが分かる。


「分かった。じゃあそのゴーレムは破壊する「ルシエル閣下、待って欲しいでござる。」……前に、一度見せてくれ」

 さすがに実物を見ないで破壊する訳にはいかないし、そこまで情熱を傾けた作品を壊すにはそれなりの理由がいる。


「それって出来が良ければ壊さなくても言いってことですか」

「さすがルシエル閣下でござる。直ぐにつれて来るでござる」

 アリスとハットリは嬉しそうに共同の作業ブースへと向かった。

 しかしリィナは表情を硬くしたまま、ゴーレムを取りに行こうとはしない。


「リィナはゴーレムを取りに行かないでいいのか?」

「あの……ゴーレムを一体作るのに、かなりの魔石と素材を使用してしまいました。クビでしょうか?」

 身体を震わせながら質問してきたけど、地球だったら間違いなくクビだろう。

 転生者だから野放しにするのは危険だと判断したのに、悩ませてくれる。


「俺は旅立つ前に自重してくれと言ったはずだ。でも君達はそれを破った。だから約束を破った以上の価値がなければ、それぞれに罰則(ペナルティー)を与えるつもりだ」

 クビかどうかは告げない。

「罰則ですか?」

「減俸、部署移動、解雇等だ。転生者だからいつまでも甘やかすつもりはない。だからリィナも覚悟を持ってゴーレムを持ってくるといい」

「……はい」

 蒼い顔をしたリィナも自分専用の作業ブースへと歩いていく。


「それでルシエル、あの三人をどうするの?」

「どうしようかね」

「記憶操作なら手伝えるわよ」

 闇の精霊は本当にやりそうだから怖い。

 どうやらハットリが最初に戻ってきたみたいだけど、中々部屋に入って来る気配がない。

 聞き耳でも立てているんだろうか? まぁそれならそれでいいけど。


「まぁ今回は三人を一緒にしたから駄目だったんだと思う。だから会わないようにバラバラな部署へ振り分けるかな」

「それだけ?」

「ああ。転生者だから保護したけど、別に人権を無視して従属させるつもりはないからね。それにもう転生者だからと無理に保護してストレスを溜めぐらいなら、いっそ敵対してもらった方が楽だし」

 余計なストレスを抱えるのは勘弁して欲しいからな。

「そう。あら、来たみたいね」

「ああ」

 フォレノワールわざとっぽく、三人を迎い入れた。

 話を聞いていたハットリとアリスの表情はとても硬い。


 そんな三人が運んできたゴーレムは二体が男性タイプで、一体が女性タイプだった。

 目を閉じていれば三体とも普通の人族と変わらないクォリティーだったことから、ハットリの並々ならぬ努力と情熱が感じられた。

 これなら確かにハットリが壊したくないというのも頷ける。


「それが喋るゴーレムか……三体とも起動させてくれ」

「暴走の危険があるから起動は出来ないでござる」

「起動すれば危ない作品なら、破壊するから外で待っていればいい」

「分かったでござる。舞姫、今生の別れである」

 ハットリがゴーレムを起動させる。


「一週間だけ、再教育の期間をください」

「従業員を追い回して、変な言葉を子供達に聞かせようとした時点で、俺からの信用を完全に失ったことを理解しろ」

「シュバルツごめんね」

 アリスもゴーレムを起動させる。


「ルシエル様、評価をお願いします。起きてセバス」

 そしてリィナもゴーレムを起動させた……。

 三体のゴーレムは動き出したところで、ハットリのゴーレムはハットリの素晴らしさを話し始め、アリスのゴーレムはアリスの世界の理を話し出した。

 唯一リィナのセバスだけはリィナの後ろに控えたので、ハットリとアリスのゴーレムに時間停止を発動し止めた。


「あの二体の人形の思考を初期化することは出来るか?」

「う~ん、たぶん出来ると思うわ」

「じゃあ頼めるかな」

「分かったわ」

 さすがに人形だと分かっていても、記憶を消すことはしたくなかった。

 だけど破壊しないなら初期化するしか道はないので、仕方なく初期化してもらう。


「さてセバス殿、私はこの商会の会頭しておりますルシエルと申します。不躾ではありますが、質問しても構いませんか?」

「はい。ルシエル殿」

「貴方は何が出来ますか?」

「申し訳ありませんが、まだ出来ることは特にありません」

「他の二体と比べて問題を起こすタイプには見えませんが、なぜ暴走したのでしょうか?」

「思考が同調して混乱したと記憶しています」

「今ある記憶を失くすのと、主を守るならどちらを優先しますか?」

「無論、主のリィナ様です」

 セバスだけはかなりまともに思う。

 暴走さえ起きなければ、十分過ぎる成果だと思う。

「分かりました。では休んでください」

 リィナのゴーレムのセバスも時間停止を発動させた。


 それから闇の精霊が初期化したゴーレム二体とセバスを魔法袋へ回収し、三人の転生者を見る。

 怒っているオーラを出すために威圧スキルを使おうか迷ったけど、レベル差があり過ぎて酷いことになりそうだから止めておく。


「それで学校の先生をしているより、メイドをしているより、新たな飛行艇の図面を書くよりも、ゴーレムを造っている方が楽しかったですか?」

「「「……」」」 

「転生者なのですから、今の見た目よりも年齢は上ですよね? 私はこれから貴方達とどう接した方がいいですか? 他人、それとも敵でしょうか?」

「み、味方でござる。無論ルシエル様が主でござる」

「ハットリ先生の主はドルスターさんじゃないですか」

「もうこんな真似は誓ってしないでござる。ですからこれからもイエニスで先生をさせてください」

 これで駄目だったら、本当にもう知らん。


「なるほど。それでアリスさんはどうしますか? 今なら帝国の奴隷商に戻せますけど?」

「もうしないから本当に見捨てないで」

「いや、人の趣味をとやかく言ったり、縛ったりするつもりはありませんよ。何なら奴隷から解放して、どこかの街で好きに生きてくださって結構ですよ。人生は長いんですからここでは貴女の個性は活かせないと思いますし」

「こんなに安全な場所、この世界のどこを探してもないわ。これからは研究者としてちゃんと働くから、見捨てないでください」

「分かりました。ハットリ先生と同じくこれが最後の機会です。もし何かやらかしてしまいそうなら、本当にそれをしてもいいのか聞いてください。まぁそれぐらいの判断は転生者なんですから出来ると思いますけどね」

「はい」

 これで駄目なら、アリスは諦めよう。


「さてリィナさん、ゴーレムを作った経緯を聞かせてください」

「はい。実は――」

 簡潔にまとめるとナーニャがいなくなり、作業をサポートしてくれる存在が欲しくなった。

 そこで以前リィナのお店で見たゴーレムを改良しようとしたところへ、ハットリとアリスが現れた。

 ハットリはリィナの希望を聞いて外見を造り始めると、人にしか見えないセバスを作り上げた。

 そして合成獣や魔族化の研究をしていたアリスが、一方的にしか話せなかったゴーレムを対話出来るような仕組みをリィナへ教えた。

 その技術を組み上げているところで、最初から会話が出来た方が便利だと、アリスの思考パターンを魔石に転写したらしい。

 魔石は闇属性で、転写はそこまで難しくないと闇の精霊がフォローしてくれた。

 後日そのお礼ということで、二人のゴーレムを作ったらしい。


「なるほどね。分かったセバスはそのまま返そう。但しセバスが暴走したら、その時点で破壊するよ?」

「ありがとうございます」

 まぁナーニャを龍の谷へ置いて来てしまったのもあるしな。

「これからも頑張ってくれ」

「はい」 

 解雇されないことや、セバスが返ってくることが分かり、リィナはとても嬉しそうだな。

 その姿をハットリとアリスは羨ましそうに見ていた。


「二人のゴーレムだけど、魔法袋の中で保管しておくから、いくらか分からないけど正規の半額の値段で買い取れ」

「「ありがとうございます」」

 二人は喜んでいたけど、リィナが小さく呟いた言葉は俺にしか聞こえなかったようだ。

「それでも白銀貨五枚です」と


 こうして問題を解決した俺は、地下二階で働いている戦乙女聖騎士隊と合流して、聖都へと集団転移するのだった。



お読みいただきありがとうございます。

i349488
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