330 再び時空龍の元へ
初日だけはあまり熟練度を稼ぐことは出来なかった。
それでも転生龍に殲滅を任せる作戦を思いついてからは、急激に熟練度が増加していき、十日を過ぎた頃から五千以上の熟練度を稼げるまでになっていた。
おかげで時空間属性のスキルレベルもⅤとなり、漸く折り返しを迎えることになる。
スキルレベルがⅣに上がった時に中距離転移を覚えたので、時空龍の元へと転移出来ると思ったけど、それから何度試行錯誤を繰り返しても転移することは出来なかった。
それどころか転移しようと場所を思い描いても、直ぐにイメージが消えてしまって転移することが出来なかったのだ。
中距離転移からは自分のイメージ出来る範囲だったことから、転移するには距離があったからだと自分を納得させたけど、もしかしたら……そんなことを思うのだった。
その後スキルレベルがⅤになったことで、集団転移を唱えられるようになったけど、これは集団で転移することが出来る魔法で、今の俺には必要のない魔法だった。
俺は一度だけ溜息を吐き、熟練度を上げに没頭する日々が続けていく。
最初は苦手だった短距離転移も繰り返すことで漸く酔いや違和感が無くなり、転移してからの行動もスムーズになってきた。
そこで現在出来る最大のパフォーマンスを実行するべく、俺は身体強化とスピードアップ、短距離転移を組み合わせた動きをなるべく継続する訓練を開始した。
雷龍の力を使った時のように景色が流れ、魔物の動きが遅く感じるようになる。
思い付きの行動だっただけに、俺の脳がちゃんと情報処理出来るかは不安だったけど、こちらもレベルアップの影響なのか、頭が痛くなったり酔ったりすることはなかった。
そうこうしているうちに時空間属性のレベルが上がり、今度は亜空間を作成出来るようになった。
「おお。この黒い渦が亜空間なのか。まぁこの段階でインベントリだと思ってしまったレインスター卿は悪くないよな」
インベントリにするには一緒に覚えた空間拡張と次のレベルで覚える空間固定と時間停止が必要なのだ。
だから今のままじゃ亜空間は色々入るただのゴミ箱に過ぎない。
それでもポーラやリシアンが知ったら、どんなリアクションをするだろうか? そんなことを考えてしまうぐらい、俺は皆に会いたいと思ってしまっている。
試練の迷宮ではこんなことはなかったんだけどな……考える余裕が出来てしまうぐらい慣れてしまったってことなのかもな。
「……さっさと戻らないとな」
そんなことを思いながら戦闘を継続していく。
それからも特に何かが変わることなく時空間属性のスキルレベルを上げていき、レベルⅦで空間固定と時間停止を覚えることが出来たことで、ようやくインベントリを作成することが出来た。
空間拡張や空間固定は空間の大きさによって消費魔力が違うこと、時間停止は対象の時を止める時間に応じて魔力を消費することを確認した。
そして自分で
「まさか対象であった俺ではなく、俺の周囲を固定していたなんて……」
試しで魔物にも同じ魔法を発動してみたけど、完全に動きを封じることは出来なかった。
これはかなりの練習が必要なのだと思い知らされながら、再び幻想剣に魔力を込めて駆けだした。
そしてスキルレベルがⅧになった時、ようやく長距離転移と指定転移を唱えられることになった。
「これでようやく戻れるな。でもぶっつけ本番よりは、ちゃんとイメージして転移出来るように練習してからにしよう」
中距離転移ではイメージ出来なかった封印門までのルートが頭にハッキリと浮かぶ。
これで転移すれば封印門の前には出れるだろうけど、たぶん長距離転移でそれ以上先へと進むことは出来ないだろう。
何故ならここでもイメージがかき消されてしまっているからだ。
「やっぱりか。あの空間は特殊な感じがしたからな。じゃあ指定転移は……いけるな」
長距離転移は見たことや行ったことのある場所をイメージして転移する魔法だけど、指定転移は相手や物を特定して、その場へと転移することが出来る魔法だ。
たぶん念話の届く相手の場所へなら転移することも容易だろう。
そこでふと本音が零れる。
「これってフォレノワールとかに念話出来るなら、あの場所へ戻れるんだろうか?」
本気で帰りたいと願うなら帰れそうだよな。
ただそれだと俺がここに来た意味が全くなくなるんだけど……。
一度連絡を取って転移出来ることを確認したら、今日はしっかりと休むことにしよう。
そこで時空龍の現在の機嫌を聞こうと精霊女王に念話を送ろうとして気がつく。
「俺、精霊女王から加護もらってなかった……」
加護を受けていないから念話することが出来ない。
これだと練習も何もないで、ぶっつけ本番になりそうだ。
せめて今日だけは贅沢をしようと、聖域結界の中で蜂蜜酒や料理に舌鼓を打って、天使の枕を使用して眠り就いた。
そして翌日、目が覚めて軽くストレッチをして身体を起こし、念話してみる。
「時空龍様、ルシエルですが聞こえますか?」
『へぇ~もしかして加護を辿って僕のところに念話してきたのかい』
どうやら機嫌は悪くないみたいだ。
「はい。精霊に教えてもらったんですが、龍種で試したことがなかったので、成功して良かったです」
『なるほど。それで念話までしてきて何かな? もう諦めたくなったのかな?』
もしこれで諦めたと言ったらどうなるんだろうか? まぁさすがにそんなことは怖すぎて話すことは出来ないけどな。
「いえ、ただそちらへと帰還する期限を聞いていませんでしたので、それをお伺いしようかと思いまして」
『なるほど。それで油断させておいて、僕の元へと転移してくる予定だったんだね』
どうやら完全にバレているらしい。
でもこちらも時空龍の魔力を完璧に捉えることが出来たぞ。
「……はい。バレていましたか」
『アハハハ。加護を与えた相手の行動は、注意していればだいたい分かるんだよ』
あ、確かに誰からかそんな話を聞いたことがあった気がする。
「なら今から行きます」
『失敗して壁の中に転移しないようにね』
恐ろしいことを言ってくれる。
俺はしっかりと時空龍と魔力が繋がるようにイメージしながら、転移する場所を決めたところで、一気に魔力を高めて、指定転移を発動させた。
一瞬だけ視界がぶれると、俺は転移が成功したことを確信した――。
だけど無事に転移することが出来た俺が喜ぶことはなかった。
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