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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

14章 転生龍と精霊からの依頼

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327 奇策

 身体強化を発動し、幻想剣を構えても、時空龍は変わらずこちらを見下ろしたままだった。

 そんな時空龍に対して、俺は攻めあぐねていた。


 今までの俺であれば、これだけ巨大な敵と戦う時には、牽制として飛ぶ斬撃か龍剣で攻撃を仕掛けるのがセオリーだった。

 だけど残念なことに、今回は空間を操る時空龍が相手となると、牽制で放った攻撃が自らに返ってくる可能性が高いのだ。  


「さぁいつでも掛かってくるといいよ。それとも怖気付いたのかい?」

 安い挑発だ。でも何か行動を起こさないと状況が変化しないのも、その通りだろう。

 俺は一度深呼吸をしてから、行動を開始する。


 地面を蹴って後方に飛んで時空龍から距離をとりながら、幻想剣を幻想杖に変形させて杖を地面に突いて魔力を流していく。

「【来い、ルシエルンゴレーム】」

 そして詠唱破棄で魔法を発動させると、地面に魔法陣が浮かび上がり、地面から十メートル級のルシエルンが出現した。


 レインスター卿に鍛えてもらって、何とかポーラが創る“ルシエルン”の劣化版は創れるようになっていたのだ。

 しかも半自立型であるため、時空龍の動きを見るにはちょうどいい作戦に思えた。

 そう。思えたのだけど、やはり現実は厳しい。


「へぇ~ゴーレムかぁ。自分の姿を真似るとか、ナルシストなのかな。えいっ」

 そんな楽しむような声が聞こえたところで、ルシエルンの頭部のみが消えた。

 どうやらノータイムで時空間属性魔法が発動され、頭部のみを消失させたらしい。

 本当に勘弁してほしい。何故こんな規格外と二度も戦わなくてはいけないんだろう。


「……今のは?」

「ただ頭部だけを転移させたんだよ。ほら」

 すると天井付近の何も無かった空間からルシエルンの頭部が現れては消えていく。

 見間違いで無ければ、その速度はどんどんと速くなっていく。


「あれを私に当てる気ですか?」

「さぁ? でも転生者君なら破壊くらい出来るだろ? それとも攻撃が自分に牙を剥くのが怖いのかな」

 もし龍剣や魔法で破壊しようと攻撃を放ったら、その瞬間に俺の死角から俺の攻撃が俺を襲うんだろうな。

 そんなことを思いつつも、時空龍の挑発に乗ることにした。


「そうですね。【エレメンタルフォースドラゴン】」

「さすがに浅はかだ……ああ、こっちが本命か」

 ルシエルンの頭部を破壊するために俺が魔法を放つと同時に、頭部を失ったルシエルンが時空龍へと突進して抱きついた。

「よしっ!?」


 しかし時空龍はルシエルンを無視するかのように、エレメンタルフォースドラゴンを空間転移させて、容赦なく俺の死角から出現させた。

 それに気づいた俺は、エレメンタルフォースドラゴンを止めようとしたけど、そこへルシエルンの頭がすごい勢いで天井か振ってくるのが見えた。

 次の瞬間、轟音とともに俺は壁際まで吹き飛ばされるのだった。 


「あ~あ、つまらないな。ゴーレムが消えたってことは終わりだよね。ここまで来れたんだから少しは楽しませてくれることを期待してたんだけどな。まずはラフィルーナの時を動かすか」  

 そんな時空龍の声が聞こえてきたけど、今は尋常ない程に傷ついた身体を治すことを優先させる。

【エクストラヒール】を念じて身体の回復に努めながら、今の攻撃を受けて生きていることと、攻撃が当たる寸前で、咄嗟にドラゴニックシールドを発動した自分を心の中で褒めていた。 


「あ、まだ生きてたんだ。でも正直期待外れだったよ」

 もう関心がないような言動に、俺のテンションは上がっていく。

 きっと俺は今、笑っているだろう。


「そうですか? じゃあ少しは挽回しますね【龍剣九陣】」

 俺は幻想剣に変形させて、一気に魔力を注ぎ、全力の攻撃に転じた。


「はぁ~。何度やっても同じだよ……えっ、嘘!?」

 龍剣によって九体の龍が時空龍へと飛んでいく。

 直ぐに時空龍の魔力が急激に高まった……だけど、それだけだった。

 時空龍は空間を操ることが出来ずに、その身体を九体の龍に飲み込まれ、爆発したところで後方へと吹き飛ばされていく。

 俺はそれを見て、さらに追撃を加えようとしたところで、視界に精霊女王が入り込んできた。


 どうやら動けるようになったらしい。時空龍の魔法が解けたのだろうか? それにしても何故邪魔をするんだろう?

「あの邪魔です」

「お待ちなさい。もう時空龍には戦う力が残っていません」

 精霊女王の言ったその言葉を、俺は理解することが出来なかった。

 先程までは倒せと言っていたのに、今度は攻撃するなとか、一貫性が無さ過ぎる。


 もちろん戦わなくてもいいのなら、それが一番だ。

 だけどそれを決められるのは、納得がいかなかった。

 それに成り行きで助けることになって今に至るけど、実は精霊女王から一度も感謝されていないのだ。

 そこまて仰るならば、今後の戦闘は精霊女王が自らお願いします……と、言ってやりたい。


「精霊女王、それでは今から貴女の考える最善の方法を精霊らしく示してください」

「分かりました」

 封印されていた影響なのか、精霊化していても時を止められてしまう精霊女王……。

 そんな力を失くした存在が、時空龍へと向かっていく。

 時空龍は傷ついているけど、致命傷には程遠いだろう。

 俺は警戒しながら、様子を見守ることにした……のだが。


「いや~びっくりした。転生者君、何で僕の魔法は使えなくなったのかな」

 そんな陽気な声が聞こえてきたのだ。  

 精霊女王の出オチ感が酷いな。

「ゴーレムを抱き着かせた時に、封魔結界という魔法が使用出来なくなる魔法を発動させました」

 ここで嘘を吐いても意味がないので、正直に話すことにした。


「そうなるとゴーレムが自壊したのは……」

「はい。封魔結界を発動する魔法陣を形成するためです。もしゴーレムの突進を避けられていたら、他の手を考えないといけないところでした」

 ただ死ななかったのは奇跡に近かったと思うけど。


「うん、面白いね。最初は期待外れだと思っていたけど、ちゃんと考えられているよ。しかしそんな仕掛けを良く思いつくね」

「レインスター卿に魔法の手解きを受けましたから、そのおかげだと思います」

 少しでもそう思われるとすれば、レインスター卿と対峙したことがあるからだろう。  


「本当に謙虚だね。まぁハンデはあったけど中々いい攻撃だったし、仕方ないから鍛えて上げよう。僕が納得したらこの迷宮から出してあげよう」

「本当ですか!!」

 鍛えることが前提条件としてあるみたいだけど、それでも地上へ帰還することが出来る手形を得たようなものだ。

 皆のところへ帰る事が出来る、それだけでとても嬉しくなる。


「うん。僕もさすがにそろそろ依代を変えないといけないしね」

「あ、一応回復魔法をかけましょうか?」

「いや、いいさ。それよりもまずは加護をあげよう。そして転生者君の覚悟を見せてもらうよ」

 時空龍の目が光ると突如、あのアナウンスが脳内に響く。

 ピロン【称号 主神の加護及び時空龍の加護を獲得しました】 


「もしかして……」

「さぁ張り切って時空間魔法の修行もしていこう」

「……お願いします」

 嬉しそうな声に俺は逆らうことが出来ないだろうと、修行を受け入れることにした。

 こうして『時空龍は戦えない』と断言していた精霊女王が空気になったまま、俺の新たな修行が始まろうとしている。




お読みいただきありがとうございます。



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