324 世界樹を切り落とした者
まさか世界樹を破壊していたとは……。
そして私達と言っている時点で、それが龍神達、もしくはレインスター卿のことを言っていることは明白だった。
「世界樹を破壊したということですが、それはどうして破壊されたのでしょう?」
「邪神との戦った時にレインが全力を出し過ぎて、邪神もとろも世界樹まで切り落としてしまったの」
またか……。まぁ世界樹を破壊出来る存在がそこまで多いとは思わなかったけど、色々やり残しが多すぎませんかね? それにしても気になるのは、目の前にいる精霊女王のことだ。
「何で主神がこの迷宮を創り、貴女を封印したんでしょう? レインスター卿と貴女だけの責任ではないはずです」
「精霊はこの世界を守るのが役割なのです。そして世界樹はこの世界の生命の源なのです。世界樹が失われてしまえば、世界樹が浄化していた瘴気があふれ出してしまうのですから」
自己犠牲……いや、それが役割と言ったけど、どうしてもそれだけではない気がする。
何となく答えをはぐらかされたような気がする。
「レインスター卿はネルダールで世界樹を作っているようでしたけど、それでは駄目だったんですか?」
「ええ。レインは死ぬ間際まで頑張ってくれていた。それでも世界樹を元に戻すことは出来なかったのです。だからレインは瘴気が漏れないように暗黒大陸を封印したのです」
それはそれで普通の人は出来ないと思うけど、少しだけレインスター卿が言っていた話と食い違う部分があるな。
「世界樹がないといけないことは分かりました。ですが、それでも主神が貴女を封印した説明にはなっていません」
「世界樹を復活させるには、精霊女王である私の魔力が必要だったのです」
「それは主神が?」
「いいえ。私はレインスターが創った結界を信じ切れなかったの。だから少しでも早く世界樹を復活させようとしたのよ」
完全なる自己犠牲ですか。
だけどそれでも、フォレノワールや龍神達の行動や言動を思い返すと、それだけではない気がする。
「主神クライヤの仮の姿である時空龍なら、対象の時を戻すことぐらい出来たのでは?」
「残念ながら神は直接世界への介入は許されていないのです」
まぁここで何かを言ったところで過去が変わる訳ではないし、まずはこの迷宮から出てから話すことにしよう。
「分かりました。まだ聞きたいことがありますけど、それよりもまずは迷宮から出る方が先です。まず世界樹を倒す場合のメリットとデメリットをお願いします」
「あの属性龍を倒すって簡単に言っているようだけど……既に倒しているのね」
一瞬だけ驚いた表情をした精霊女王は、考える素振りを見せる。
「最良の選択をしたいので、お願いします」
「メリットは上手くいけば世界樹を倒せば直ぐに迷宮の外へ向かえること。デメリットは迷宮の瘴気が濃くなってしまい、魔物が強くなることです」
……魔物が強くなるって言っても迷宮だけなら問題ない気がするんだけど……。
まぁデメリットとし、属性龍達とも戦うことになるということが抜けているけど。
「この迷宮主である主神クライヤと会うメリットとデメリットは何でしょう?」
「メリット、デメリットはありません。会って話が出来れば迷宮から抜け出せますし、そうでなければ戦闘になるでしょう」
運任せ……か。
それならいっそのこと天運でも取得するか? まぁそんなことはどうでもいいか。
「そうですか。正直なところあれ以上、属性龍達を本当に倒していいのか迷っています。魔物は世界樹を狙っているようですし……主神がどういうつもりでこの迷宮を作ったか説明していただければ嬉しいのですが」
「この迷宮が世界樹のあった場所にあることは聞きましたか?」
「ええ」
「なら世界樹がこの世界の記憶を有しているのも知っていますね?」
「聞いています」
だからこそ色々な魔物が出てくる。
「実は今見ている光景は実際に起こったことなのです。魔物を操った魔族と邪神が世界樹を破壊しようと目論んだ時の」
「魔族や邪神がいないのは?」
「世界樹があることで、魔族や邪神を生み出すことが出来ないのでしょう」
……そもそも魔族や邪神が迷宮で生まれるのか? 世界樹の迷宮だからなのだろうか?
「じゃあ魔物を倒し続けたら、瘴気が失われていくということですか?」
「いいえ、世界樹を成長させるために多くの魔力を取り込んでいるから、世界から瘴気が無くならない限りは無理でしょう」
それなら属性龍達を今まで通り……。
そこまで考えて、あることに気づく。
「あの、何故精霊がいないか聞いても?」
「……精霊は私が磔にされていたせいで、どこにもいません。たぶんいたとしても、姿を消しているのでしょう」
……精霊女王は色々隠している気がするけど、まぁ信じるしかないか。
「そうですか。それなら主神クライヤに会いたいと思うのですが、どうすれば会えるんでしょう?」
「私が磔にされていた場所に穴が開いているでしょ? そこから世界樹の中を通って下へ向かえばいいわ」
嘘か本当か分からないけど、どうやら行くしか道はなさそうだ。
しかし精霊女王を開放した後では、属性龍達はもう我を忘れたかのように攻撃的になっている。
まるでプログラムされていたかのような感じだ。
「精霊女王、少し試してみたいことがあるんですが、いいでしょうか?」
「ええ。どうぞ」
俺は精霊女王に聖域円環、浄化魔法を発動した。
精霊化はしていないので、魔族や人化出来る魔物ではないことを確認したかったのだ。
「申し訳ありませんが、試させていただきました」
「用心されるのは当然です。それで疑いは晴れましたね?」
洗脳や恨みがある場合が分からないからなんとも言えないけど、とりあえず信頼は出来ないけど、頷いておくことにした。
「ええ。それでついて来ていただけるんですよね?」
「地上に戻らないといけないみたいですし、精霊化してついていきます」
色々気になることはあるけど、俺と精霊女王は再び世界樹へ向け飛行を開始した。
開放されたばかりで病み上がりにも見えた精霊女王は、光龍、雷龍、闇龍、毒龍、聖龍のブレスや魔法を放たれても、精霊化しているため、全ての攻撃がすり抜けていく。
そして俺への攻撃は特になかったのだけど、世界樹へと進行した途端、世界樹に遠慮することなくブレスを吐き出し、このままでは世界樹までも破壊されそうな感じた。
だけどそれでも何とか精霊女王が磔にされていた窪みへと入る。
すると世界樹の中は魔石が散りばめられていて、とても神秘的に見えた。
「落下します」
精霊女王に従い高度を下げていく。
罠などはなくただずっと落下していく。
そして落下していた途中で、転生龍達がいた封印門が姿を現すのだった。
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