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奄美大島の猫を3000匹殺処分する本当の理由は?

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「Getty Images」より

 奄美大島で、3000匹の猫を殺処分するという物騒な計画が持ち上がっている。

 奄美大島といえば、世界自然遺産の候補地となるほど豊かな自然に恵まれている。そこには希少種であるアマミノクロウサギやヤンバルクイナなども生息している。この自然豊かな島で何が起こっているのか。

 その表向きの理由は奄美大島の希少種であるアマミノクロウサギなどを守るために外来種である猫を駆逐する「ノネコ管理計画」というものだった。

奄美大島のノネコ管理計画とは何か

 2018年7月。環境省は奄美大島で野生化した猫を捕獲する「奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画」(以下、ノネコ管理計画)を開始した。プロジェクトの期間は2018年度~2027年度だ。

 この計画では、奄美大島の山林の至る所に猫を生け捕る罠をしかけ、捕獲した「ノネコ」を収容センターで飼育するというものだ。「ノネコ」という分類については後述するが、その飼育期間に注目したい。なんと、捕獲からわずか1週間である。その間に里親が見つからなければ殺処分される。

 そして、その捕獲目標数も注目しておこう。年間300匹を10年間続けるため、3000匹となっているのだ。それほどの猫が奄美大島にいるかどうかはかなり疑わしい。

 「ノネコ管理計画」の目的は、奄美大島に生息する希少種であるケナガネズミ、アマミノクロウサギなどがノネコに捕食されることで絶滅することを防ぐためだという。

 しかし「週刊文春」(文藝春秋/2019年4月18日号)の特集記事「奄美大島『世界遺産』ほしさに猫3000匹殺処分計画」は、この根拠を真っ向から否定している。

 保全生物学を専門とする川口短期大学の小島望教授がノネコ管理計画に取り組んでいる「奄美大島ねこ対策協議会」に聞き取り調査したところ、この計画は「殺処分が前提」と言われたという。小島教授は、まず島には人に依存していないノネコなる分類の猫はほとんど存在しないし、里親への譲渡を前提としているなら、飼育期間をもっと長く設定すべきだと指摘している。

 つまりこの計画は、「他の理由」で猫を3000匹殺す必要がある計画なのではないだろうかと疑われるのだ。

野良猫も飼い猫も「ノネコ」にすれば「有害鳥獣駆除」できるといういいかげんさ

 環境省が使用している「ノネコ」というワードだが、「ノネコ」とはいかなる猫か。

 この分類では、猫は3種類に分けられるという。「飼い猫」「野良猫」そして「ノネコ」だ。

 飼い猫は人がペットとして飼っている猫を示す。野良猫は、特定の飼い主はいないが、集落で人から餌をもらっている猫を示す。そしてノネコとは、飼い猫や野良猫が人の手を離れて、自然環境のなかで自立して生息している猫を示している。

 ところが前述「文春」記事において、小島教授は、奄美大島にはノネコなどいないと指摘している。

 となると、ノネコなる分類を設けたのは、「愛護動物」である猫をみだりに殺してはならない(2年以下の懲役か罰金)とする動物愛護法(後述)から逃れるためではないか。人手を離れて自然界で自立して生きているノネコという分類にすれば、猫を鳥獣保護法における「有害鳥獣駆除」の対象にできるというのだ。しかも野良猫とは異なり、ノネコは殺処分しても行政の「殺処分数」にはカウントされないため、殺処分を減らしているという環境省の方針とも矛盾しなくなる。

 そもそも、罠にはまった猫を見て、どうやって野良猫とノネコの区別をしているのか分からない。捕獲後の1週間以内に飼い主や里親が現れなければノネコ扱いにしているのではないだろうか。

ノネコがアマミノクロウサギを減らしているという嘘

 どうやらノネコなる猫が存在すること自体が怪しく、仮に存在したとしても、野良猫と区別することは困難であるということもわかってきた。しかし、百歩譲ってノネコなる猫が存在したとしても、そのノネコがアマミノクロウサギを捕食して減らしているという前提自体に疑問符が付いてくるのだ。

 数字で確認するまでもなく、地元では食害が出るほどアマミノクロウサギが「増えている」というが、これはマングースの駆除が影響しているようだ。

 これについて数字が明らかにされている。アマミノクロウサギは絶滅危惧種でもはや数千匹しか生息していないとされていたが、環境省がまとめた推定結果では、2015年時点で約1万5000~3万9000匹にまで回復しているという。

 環境省はそれまで、2003年のデータが最新で2000~4800匹としていたので、10倍以上に増加していたのだ。ということは、たとえノネコがアマミノクロウサギを捕食していた例があったとしても、減少させる原因になっていないことは明白ではないか。

 理由はともあれ、猫を3000匹殺処分しなければならない理由が別にあることが考えられる。もはやこの段階でアマミノクロウサギが減少していないことがわかっているのだから、ノネコを捕獲する理由はないのだが、アマミノクロウサギが仮に減少しているとしても、その原因は交通事故の可能性も高いのだ。

 環境省の奄美野生生物保護センターの調査でも、発見されているアマミノクロウサギの死体を調べた結果、死因のトップは交通事故だった。

そもそもノネコ捕獲の計画に矛盾がある

 すでにアマミノクロウサギは減少していないことが明らかになり、死因のトップも交通事故だ。したがって、本稿においてはすでにノネコを駆除する理由はなくなった。

 さて、分類の合理性が見つけられないノネコだが、「ノネコ管理計画」では、奄美大島にはノネコが600~1200匹いると推定していた。この前提を元に、年間300匹を捕獲する計画を立てているのだ。ところが、2018年度に実際に捕獲できたのはわずか43匹だった。しかもこれらがすべてノネコだと証明することはできない。

 また、同計画書では、1匹のノネコは1日に平均378.4グラムの餌を食べるため、ちょうどアマミノクロウサギとケナガネズミ1頭ずつを捕食していくという。

 これに対し、獣医師の齊藤朋子氏は、もしノネコが600~1200匹存在していたら、アマミノクロウサギはとっくに絶滅しているという。しかも実際に斎藤氏が引き取ったノネコは1日に90グラム前後のキャットフードしか食べない。

 ノネコはなぜわずか一週間の飼育期間で殺処分されなくてはならないのだろうか。しかも、譲渡先を見つかりにくくしているのではないかと思えるほどに譲渡の条件が厳しい。なにしろ譲渡希望者は納税証明書(なぜ必要?)、所得証明書(なぜ必要?)、家の見取り図(手続きを煩雑化?)、身分証明書などを提出しなければならない。(奄美大島における生態系保全のため捕獲したノネコ譲渡希望者の募集について/鹿児島県奄美市)

 猫を少しでも殺さずに保護したいと考えての「ノネコ管理計画」であれば、これほど譲渡のハードルを上げる必要はないだろう。しかも、捕獲したノネコについて、Webなどでの情報公開がなされていない。これでは一般ユーザーが捕獲された猫の情報を得られず、それが飼い猫かどうか、さくらねこ(不妊手術をした印として耳の先端がカットされている猫)かどうかなどの判別をよりやりづらくしている。

 捕獲した猫を人の手に渡し保護したいのであれば、せめて詳細な情報を公開すべきである。

世界遺産を勝ち取るために?

 奄美大島のノネコ管理計画が注目されるきっかけを作った前掲「週刊文春」の記事では、ノネコ管理計画は奄美大島の世界遺産欲しさが理由だと結論づけている。

 奄美大島は2020年に世界自然遺産に登録される可能性が出てきているためだ。そこでIUCN(国際自然保護連合)の監査が入った時に、外来種の猫を駆逐できていなければならないためではないかと同誌は疑っているのだ。

 同誌は環境省の担当者にも取材を行っており、以下の言質を取っている。下記で「そこまで」というのはノネコ管理計画を示す。

 “環境省としては、そこまでしてでも守らなければいけない自然が奄美大島にはあると考えている”

 “猫がクロウサギをはじめとした希少種を食べているのは事実”

 これに対して公益財団法人どうぶつ基金は、ノネコ管理計画はかえって世界自然遺産の登録を行っているユネスコの理念である「多様性の尊重」「非排他性」「人の心の中に平和のとりでを築く」に反していると主張している。

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