石川県七尾市に本社を置くスギヨは、戦後の食品三大発明かにかまを開発した練り製品メーカー。農林水産祭天皇杯を受賞した「香り箱」は、その見た目や食感、味が本物のかにを超えたと評価され、食べる楽しさを提供し話題を集めてきた。近年は練り製品に限らず、農業事業に参入。能登の食文化を足掛かりに日本全国、世界へと目を向ける。杉野哲也社長に近況を聞いた。
――練り製品原料のすり身が高騰していますが、業界に与える影響は大きいですか。対応策は。
杉野 主原料のスケトウダラを中心に他の魚種もつられて高騰している。10年前に比べて仕入れ値は3割上昇した。原因は世界的な魚食文化の広がりによる需要増。東南アジアや川魚文化が強い中国ですり身を使うようになり、畜肉食の欧米が魚を食べるようになった。また捕鯨が減った影響でクジラが増えて、人間以上に魚を消費している。相場は在庫次第で落ち着くこともあるが、将来的に下がる要素はなく右肩上がりが続く。そのうち魚は高級品になるかもしれない。
魚が枯渇する前に、価格が高過ぎて使えなくなる場合もある。練り製品類は一般的には大衆食品の部類に入り、販売価格に限界がある。需要と品質を維持しながら、すり身を効率よく使うにはどうすれば良いか考えなくてはいけない。
商品の集中と選択をしながら、揚げかまぼこのように野菜などと混ぜてすり身比率を下げ、なおかつ消費者に満足してもらえる商品を増やさざるを得ない。決してでんぷんや水で伸ばして、クオリティを落としてはいけない。
過去にそういう事が業界であり、客離れにつながった経験がある。間違った方向に向かわないように、業界全体が努めていきたい。
――事業分野が広がりますが目指す方向性は。
杉野 農業生産法人スギヨファームは2007年に立ち上げた。その根本には「本物を作りたい」という思いがあり一次産業から携わった。また担い手が少ない地域農業の振興を図り、地域活性化に寄与したい気持ちも強かった。始めた当初は地域からも続くと思われてなかったようだが、生産した野菜を活用して商品幅を広げ、農業事業が軌道に乗った。
われわれのステージは能登というローカルな場所だが、この地域の豊かな伝統食をアレンジして国内に限らず世界へ発信し、お客さまの健康に貢献する。地域力を生かした「グローカル」で差別化を図りたい。