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(太鼓の音と拍手)
(五りん)え~ 今日は師匠 もうあがりです。
読売巨人軍のパーティーに呼ばれたんですって。
いや まあ ああ見えてミーハーなもんでゆうべは眠れなかったそうなんですよもうね。
あっ こっちの方もだいぶいいらしいですからね。(笑い声)
(志ん生)余計なこと言うんじゃねえ。(笑い声)
(美津子)さあ お父ちゃん車が来ましたよ。
(今松)美津子ねえさん化粧 濃くないですか?
えっ?気乗りしねえよな~。
お前 代わりに出て「らくだ」でも やったらどうだ?
嫌ですよ。川上の赤バットで殴られますよ。
化粧 濃いな。
宴会だろ?落語なんか聞くやついないよ お前。
ちゃんと話ついてますよ。一席終わるまでは お料理出さないでって。
さあさあ 行きましょう。
五りん あと頼んだよ~。
あっ 長嶋のサインボールお願いしますよ!
(観客たち)俺も 俺も!(五りん)みんなの分も お願いしますよ!
(笑い声)ねえ もう…。
え~ 長嶋選手が生まれた頃オリンピックのお祭り騒ぎに異議を申し立てるひねくれ者がおりました。
河野一郎君。
(河野)一触即発の日中関係と平和の祭典。
国防費のためにと国民に 我慢と緊張を求める一方でオリンピックというお祭りを開催するという。
トウキョウ!(歓声)
この相反する2つに対して国民に説明できないのであればこの国でオリンピックを開催する資格はない!
(孝蔵)<1937年7月7日。北京 盧溝橋で起きた日本軍と中国軍の衝突をきっかけに日本と中国の全面戦争が始まります>
(牛塚)競技場なんか どこだっていいんだよ!
<戦争が始まっても オリンピック開催の準備は進められたのですが…>
(副島)なぜ神宮外苑ではいかんのです?
4万人しか入らんからだよ。
神宮を中心に プールも選手村も近くに設営すれば…。
(治五郎)そんなものは夢物語だ。
夢って… 神宮に こだわっておられたのはあなたでしょう!
ベルリンの統制力を見せつけられた今国民は 君の言うようなこぢんまりした大会なぞ望んではおらん!
紀元2600年の祭典 真剣にやらんと赤っ恥かくぞ!
(河野)陸軍次官や文部次官を組織委員に招いたのは嘉納さんだっていうじゃないか。どうしちゃったんだね? あの人は。
(田畑)ママ お酒。(マリー)はい。
オリンピックを利用しようとしているんじゃないかね?
ヒトラーが ベルリンでやったように。
そんなことは断じてない!
ヒトラーなどと比べて語るんじゃないよ嘉納さんを!
ちゃんと分かってるんだよ あの人は。
今 この日本で オリンピックやるには軍や政府を巻き込まなくちゃ駄目だって。
夢みるジジイじゃ駄目だって。
やけに肩持つじゃないか。
準備だってな 着々と進んでんだよ。
公認マークもポスターも4種類 ほら。
(マリー)えっ?マークとポスターしか出来てないならまだ引き返せる。マークとポスターだけじゃないよ。
嘉納さんはな聖火リレーの準備も始めたよ。
(四三)まだまだ~!
(勝の掛け声)
走るんだってよ 東京の町を。
ほれ… 韋駄天が!
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ…。
♪~
(電車のベル)おっ 来た 来た。
(子どもたち)お父ちゃ~ん!ほい!
大きゅうなったね~。 えっ?
(スヤ)すごかね。 何の騒ぎ?東京オリンピックの前祝いね?
いいや 支那事変の祝賀行進ばい。
そぎゃんね。
(一同)ばんざ~い!
<日本の勝利を信じて疑わない人々はトラックに乗せられ出征していく兵士を皆 万歳で送り出しました>
(一同)ばんざ~い! ばんざ~い!
<こん時は すぐに片がつくと誰もが思ってたんですな>
♪~
「よ~うっ!」(鼓の音)
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
「よ~うっ!」(拍子木の音)
<この年 辛作の妻 ちょうがこの世を去りました>
(辛作)金栗さんがいてくれて暗くならずに済んで助かったよ。
りくちゃん ほい だっこしてみ。(りく)はい!
ほれ…。ほれ いけるか?よいしょ。 うわ~。
それにしても たまがった~。
あの りくちゃんが…。
会ったことあります? 私。
あるばい。おっぱい飲ましたこともあるばい。
おっぱい…。(りく)それは…。
その節は お世話になりました。(スヤ)よか よか!
震災で バタバタしとったけん1人も2人も同じたい。
ばってん 6人も産むとは思わんかったアハハハハハ!
(笑い声)
もう笑うしかなか。
(笑い声)
勝君 ちゃんと やりおるね?
やっとります。
心配やね。
今日も上海で爆撃のあったつばい。
ばってん オリンピックには影響なかて。
小松 勝… りくちゃんに ほれとるばい。
ばっ! な~し…。
ばっ!?し~っ!
鈍感やね~ 四三さんは。小松 勝 デレデレしとったばい。小松 勝 盛りのついた肥後もっこすばい。
ちゃんと監督せんといかんばい。
出だしで飛ばす走り方は もう古か。
夏場は息が上がるけん。
(りく)でも お水飲んじゃいけないんでしょ?
それも 古か。水分補給は基本中の基本。
ばっ!
能書きたれても 金メダルは取れんばい。
フンッ。
行ってくるばい。
行ってらっしゃい。
何ばしよっとか! ぬしゃ こら。ほら 頑張れ 頑張れ!
ほう しゃんとせえ。はい。
おはようございます。おはようございます。
<8月になっても戦火は収束するどころか拡大する一方。ついに 副島さんは独断で近衛文麿首相にオリンピック開催の危機を訴えます>
政府が本気で大会を支持して下さるなら補助金として500万円を上乗せして頂きたい。
それが不可能なら 大会中止…。
すなわち 返上も やむをえません。
何てことしてくれたんだ 君は!
(東)体協宛てにも 各国の委員から問い合わせが殺到しています。「本当にオリンピックは開催されるのか」と。
(副島)無理なら無理と早期に判断し お返しする。せっぱ詰まって返上ということになればどの国でも開催は困難になり日本は 永久にオリンピックに参加できなくなる!
何の話をしとるんだね? 君は。
今こそ 名誉ある撤退を!
オリンピックは やるんだよ 何が何でも!
この東京で!
(練習する声)
♪~
よし… いくぞ~!どんどん 来い!
おいおい おいおいおい!
タイムが落ちてるじゃないか 野田君。
(野田)田畑さん… いや まあ しかし…まだ3年ありますから。
3年だよ 3年!
あと3年しかないんだよ カクさん!えっ!?
(小池)総監督!うん?少し よろしいでしょうか?
(松澤)どうした?勝手に出るんじゃないよ。…カクさん。
(宮崎)田畑さん僕たちは泳いでていいのでしょうか?
(小池)いとこが出征しました。
大して 年も変わらないのに。
それ以来…練習してても 何だか後ろめたくて。
それが不調の理由かね? えっ?
全種目制覇すんだよ!こんなことで…本当に この国にオリンピック来るんですか?
来るよ オリンピックは!
そのオリンピックで 全種目制覇してメダル取るんだよ お前たちが!
泳げ ほら!
ほらほら ぼうっとしてんじゃない…。はい 続けて 続けて!
次 いくぞ!はい 集中 集中!
(河野)万歳の声を背中に聞きながら中国へ 多くの若者が出征していく。一方において 派手なユニフォームを着て飛んで回っている青年がいる。
なにが精神総動員か!
(ラジオ・河野)「オリンピックなど一刻も早く返上すべきです!」。
(アナウンサー)「河野一郎議員による…」。(勝)どうしました?
「東京オリンピック返上の答弁は連日にわたり行われ大きな波紋を呼んでおります」。
失敬。(緒方)お~ 金栗さん。
河野君は おりますか? 河野一郎君です。
(緒方)河野は もう退社してるんです…。失敬 失敬…。金栗…。
河野! 河野君! 河野!いやいや… もう 河野はいないんです。
金栗さん!田畑さん…。
河野一郎君と話ばさせて下さい!
河野! 河野!
(緒方)もう ここにはいないと何度も言ったんだけどね。
どぎゃんつもりですか 彼は!
かの早稲田ん徒歩部で健脚ば誇り第1回 箱根駅伝ば共に立ち上げ雪の7区ば共に走ったと… 思えん!
な~し あぎゃん返上論ば ぶっとか!
落ち着いて下さい!河野は とっくに記者を辞めました。
(荒い息遣い)
田畑さん…東京オリンピックやらんとですか?
そういう声が国内外で出てるのは事実です。
だが 安心して下さい! 絶対やります!やりますとも!
返上など… 嘉納先生の目の黒いうちは…。
ストックホルムの次のベルリンの大会 1916年。
俺は絶好調でした。
世界記録ば出してメダルも期待されとったばってん…。
オリンピックは中止だ。欧州戦争の長期化により無期延期! 無念!
嫌~な予感のすっとです。
あん時と同じ…いや あれ以上に 嫌~な感じ…。
今度の戦争… 日本は当事者ばい。
ドンパチやっとる国で平和の祭典?
ハハッ…矛盾しとるばい。
矛盾… ええ…。
記者の私も矛盾を感じております。
ご覧下さい。 机の上も ぐっちゃぐちゃ。
頭の中も こんな感じです。
「返上」「反対」「絶望」!
大陸の地図を見て 中国へ何千何百の兵を送り込んだという記事を書くかたわら同じ地図を見て聖火リレーのコースを考えておる。
夢と現実が入り交ざってこれは もう… 矛盾!
認めたくはないが…河野の言うとおりなんです。
田畑さん…。
おるは 今若い選手の育成ば やっとります。
失敬!熊本から連れてきた有望株で調子も ぐんぐん上がっとる。
(一同)ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い!
こん真夏の東京で…真っ黒になって走っとる。
田畑さん…はしごば外される選手の気持ち…分かりますか? 田畑さん。
明日の目標ば失った選手の悲しみ…田畑さんなら分かるでしょう。
おるの聖火ランナー どぎゃんでもよか。
戦争になろうが 小松君ば走らせたか。
小松君ば走らせたか!
そぎゃ~ん考えるは矛盾でしょうか? 田畑さん。
矛盾じゃない!
いや 矛盾だ。
スポーツに矛盾は付き物だよ!
なぜ走る? なぜ泳ぐ?
なぜ走る!? なぜ泳ぐ!?
答えられん。
でも それしかないじゃんね!
あんたも 俺もオリンピックしかないじゃんね!
戦争で勝ちたいんじゃない。
マラソンで勝ちたい 水泳で勝ちたいんだよ。
(拍手と歓声)
ああっ やった 1着! 勝さん 1着!
どれ 見せて。
来た… 来た来た!
小松 勝~!
♪~
(スヤ)若か頃の四三さんたい。
韋駄天の生まれ変わりばい!
勝さ~ん!
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ。勝~!
こっちばい!先生! 金栗先生!
よ~し!
小松~!
よし 来~い! 小松~!
(歓声)がまだした!
がまだした!小松君 よう がまだしたばい!
先生…。ぬしゃ 世界に通用する韋駄天ばい!
ありがとうございます。うん… ようやった!
(りく)勝さ~ん!ようやった!
りくちゃ~ん!よ~し 胴上げばい!
(一同)ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い! ばんざ~い!
♪~
おい ラスト ラスト ラスト!
はい 来い 来い 来い…。
<12月 日本軍が南京を占領。更に戦争に突き進む日本は世界から非難を浴び孤立を深めていきます>
そろそろ アレは ナニするから。
アレも なかなか収まらん。
ナニがうるさくてアレしてる場合でもない。
さっさと アレをナニして ナニせんとアレにも ナニにも失礼だよ。
今日 アレをナニするつもりだが…君 どう思う?
(菊枝)いいんじゃないですか?
いいって 君… 分かっとるのかね?
分かってますよ。 ナニでしょ?
い… 冗談じゃない!
アレを東京でナニするために 俺は…。
ナニはなくとも ナニ第一主義で…。
ああっ? 大体 何だ これは。
きゅうりのぬか漬け きゅうりのみそ汁きゅうりの天ぷらきゅうりの炊き込みごはん!
俺は何だ? 河童か? 河童だよ!
河童に戻って下さい。河童のまーちゃんに。
近頃のあなたは 見ていられません。
<オリンピック東京開催を疑問視する声が世界中で高まる中嘉納治五郎はエジプトのカイロで開かれるIOC総会に出席します>
こうして見ると なかなか どうして…。
いいスタジアムだ。
副島さん また 熱を出して倒れたそうです。
どのみち やつとカイロに行くつもりはない。
追い詰められたら 簡単に「お返しします」と泣きつくのがオチだ。
嘉納さんは どうするおつもりですか?
そうだな… 競技場もいまだに決定せず報告すべき何物もない。
徒手空拳 フフッ… 手ぶらだ。
だが 日本は大国。
必ず開催できるという信念のもと正々堂々 押し切ってみせる!
君もどうだ? ついてこんかね? うん?
嘉納治五郎… 恐らく 最後の大舞台だ。
返上するなら ご同行します。
断固開催すると おっしゃるなら行きません。
このとおりです!
嘉納さん 返上して下さい。
駄目だ…。
こんな国で オリンピックやっちゃオリンピックに失礼です!
いや 分かります。 この期に及んでこれほど みっともないことはない。
しかし… それができるのは嘉納さん あなたしかいません!
♪~
オリンピックは…オリンピックは…やる!
今の日本はあなたが世界に見せたい日本ですか!?
また口先だけで大風呂敷を広げるというんですね。
何だと!?そんな嘉納治五郎は見たくない!
どうぞ… 一人で行って下さい。
後ろ向きなことは言わんのじゃなかったのか 田畑!
前向きですよ。 前向きに返上してくれと言ったんだ 俺は!
あんたがここで引き下がる潔さを見せれば戦争が収まったあともう一度 オリンピックを招致できる!
♪~
残念です。
(ドアの開閉音)
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ…。
♪~
<カイロ総会は「四面楚歌」針のむしろに座る思いでした。まず 中国代表王正廷が 開催地の変更を要求します。ベルリン総会では 東京を支持したが今や殺し合いをやっている敵国同士。満州国問題も俎上にあがった。「国際連盟が認めていない国を参加させるのか!?」「いつまで戦争を続けるんだ!」「競技場は どうなった?」「聖火は?」「補助金は?」何も答えられない治五郎。我らが日本代表 御年77歳。やおら立ち上がり並み居る委員を見据え…>
ビリーブ ミー。
順道制勝。
逆らわずして勝つ!
(一同)ばんざ~い!ばんざ~い!
<1938年 春。東京開催が 改めて承認されました>
オリンピック盛り上げていかないとなりませんな 皆さん!
(拍手と歓声)
(河野)お前だって 本心は そうだろう?違和感を覚えないはずがない。
そんなのは…ずっと前から感じてるじゃんね!
違和感なら 二・二六の時から…いや もっと前だよ。
五・一五の時から大きくなる一方だ!
日本は そういう国…。
政治とスポーツを別に考えられない。
もう軍事国家だよ。
本当のこと言おうか?
お国のためのオリンピックなど俺は要らん!
だから… 返上してくれと嘉納さんに言ったんだよ。
田畑さん…。そうなのか?
だが あの人は世界に承認させてしまった。
手ぶらで行って 持って帰ってくるってオリンピックを。
もう やるしか道はない。
どうする? 助けてくれよ 河野!
(五りん)<カイロからカナダを経由して帰国の途につく 嘉納さん>
あの… 嘉納先生ですよね?はい。
外務省に勤める 平沢です。ああ…。
あっ… 平沢和重と申します。
<あれ? この人 どっかで見た…>
え~… 誰でしたっけね?あっ 分かった! あの平沢さん!64年大会のスピーチを担当した…。
(東・英語で)
(拍手)
「看取った」ってことは…。
(汽笛)
♪~
お待たせしました。はい ありがとう。
平沢さんは 食が細いですな~。
食欲がなくて。
先生こそ お疲れでしょうによく そんなに召し上がりますね。
疲れるのは… 精力を善用せんからです。
私のように 精力善用を心がけてる者は疲れるということはない。
疲れたことなど 一度もない。
失礼いたしました。
<横浜まで13日間 嘉納さんのお供をすることになった平沢さん。初めの3日ほどは穏やかな航海で…>
嘉納さんは体調もよく食後1時間も話し続けたそうです。
しかし…。
<ひどいシケに出くわし 海が荒れ疲れ知らずの嘉納先生風邪をひいて 随分と弱ってしまった>
(せきこみ)
<数日後 少し体調を戻した嘉納先生はみんなの前に姿を現しました>
ようこそ 先生。
船長が お茶会にご招待して下さったんです。
あ~ 結構ですね~。
オ~!(拍手)
♪~
フォーティー アニバーサリー…。
♪~
じゃあ 平沢さんは?人生で一番面白かったことは?
私ですか?うん。
えっ… 弱ったな…。
え~っと… すいません え~っと…面白かったこと…。
面白かったこと… え~っと…。
あの… 今朝 私の大便が あの…偶然 平沢の「ひ」の字に…。
あっ… ふ~ん。
う~ん 私はね… そうだな…。
ハハハ… やはり 羽田の予選。
天狗倶楽部と 清国からの留学生とで羽田に競技場を造ってねそこに 韋駄天が…。
真っ赤な顔をして現れたんだ。
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ…。
ああ…。おお… ハハハ…。
君こそ 世界に通用する韋駄天だ!
しかし… 一番ではない。 ああ。
ストックホルムも面白かった。
「NIPPON」のプラカードを掲げて金栗君と三島君と歩いたのは生涯忘れられん。
…が う~ん これも一番ではない。
でも オリンピックがやはり思い出深いようですね。
あっ… ロサンゼルス大会。田畑っていうのがいてね…。
田畑?(治五郎)うん。
一種目も失うな!(一同)一種目も失うな!
よし行くぞ!
(治五郎)口は悪いが言っただけのことは必ずやる。
すごかったからね~ロサンゼルスの競泳は。
いけ~! いけ~!
ゴー ゴー ゴー ゴー ゴー!ゴー ゴー!
(拍手と歓声)
(一同)ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い!
毎日のように日の丸が揚がって…「君が代」が流れるんだよ。
鼻が高かった。「俺は日本人だ!」ってみんな 胸を張って高らかに叫んでね…。
うん… 現地の日系人に感謝されたのが一番うれしかった。
はっ! 一番が出ましたね!
うん…。
いやいや いやいや… 一番ではない。
田畑が一番だなんて そんなわけがない。
え~ ほかにあるはずだ…ちょっと待って… え~っとね…。
(せきこみ)あ~…。
これ 難しいね 一番となると。う~ん…。
(せきこみ)
一番は東京オリンピックじゃないですか?
すいません…私のような若輩者が知ったような口を。
そこだよ そこ!はい?
これから 一番面白いことをやるんだ。
東京で!
ヘヘヘヘヘ…。
「本当にできんのか?」って 眉をひそめてぬかしおった西洋人どもをあっと言わせるような…。
(せきこみ)
先生…。うんうん… 大丈夫。
(せきこみ)
みんなが驚く…みんなが面白い…そんなオリンピックを見事に やってのける。
うん! これこそ 一番!
ああ! ハハハ… うん…。
(せきこみ)先生 大丈夫ですか?
あ~ 大丈夫 大丈夫… うん。
あ~。(せきこみ)
楽しい時間をありがとう。
いえ…。(ドアが開く音)(治五郎)あ~ すまんね。
よいしょ…。
(ドアが閉まる音)
(せきこみ)
ああ…。(せきこみ)
はあ…。
(せきこみ)
♪~
スッスッ ハッハッ… そん調子ばい。はい!
(ひもが切れる音)あっ!
どぎゃんしました? 先生。
<昭和13年5月4日。嘉納治五郎先生は 太平洋沖で帰らぬ人となりました。享年77>
駄目だ… 笑いに持ってけないですね。
すいません。
(足音)
あっ…。
あっ… ああ…。
(はなをすする音)
あっ…。
あの… 田畑さんですよね?
ああ…。
嘉納先生が これを。
ストップウォッチ?
ヒー イズ?イエス プリーズ。
先生… 平沢です。
おお…。
上着?うん。上着ですか?
これを… 田畑に。
(秒針の音)
♪~
動いてるんです。
(秒針の音)
(平沢)いつ押したんでしょうね?
(治五郎)オリンピックは…オリンピックは… やる!
(泣き声)
嘉納さん…。
♪~
何がよかったのかな~?77… 77…。
(知恵)五りんちゃ~ん 大変 大変 大変!
あっ 今 思いついた!えっ?
治五郎先生が ストップウォッチを押したのは 何時ごろ?
何時ごろ… なんジゴロウ? なん治五郎!あっ… どうした?
師匠 倒れたって… 脳出血!
えっ!?
俺は諦めん。 オリンピックは やる。
必ず ここで!
(孝蔵)何を泣いてやがんだべらぼうめ!
そんなものは 俺がご破算にしてやる!
(勝)こん子は 体の弱かけん…3つになったら冷水浴ば させてあげて下さい。
<その日 神宮競技場には雨が降っていました>
カイロ総会から帰国の途につく嘉納治五郎。
この12日後 船上で帰らぬ人となりました。
治五郎の最後のパスポートが残されています。
(本橋)バンクーバーから 4月22日に出国した出国印は押されてるんですけどもう 帰国印が永遠に押されることのなかったパスポートです。
203連勝の記録を持つ山下泰裕さんは治五郎の影響力を改めて感じています。
(山下)当時の時代的背景 見ますとですね日本にオリンピックを持ってくるって…とても普通では考えられない。嘉納先生そのものが世界のIOC委員から非常に やっぱり信頼されていた。命を懸けて日本招致を成し遂げられたと思います。
治五郎の死から26年後 東京五輪で柔道が初めて正式種目に採用されました。
「柔道って あの嘉納がつくったんだよな」って。
その嘉納先生に対する思いが1964年の 柔道の 東京開催。今 日本オリンピック委員会の会長として嘉納先生の志を受け継ぐ後継者の一人でありたいと そう思っています。