戸田恵梨香「スカーレットはいい意味で泥臭い。それを愛おしく思ってもらえたら」
Lmaga.jp 関西のニュース2019年09月29日05時00分
NHK連続テレビ小説『スカーレット』がいよいよ9月30日よりスタートする。ヒロインの川原喜美子を演じているのが、女優の戸田恵梨香。戦後まもなく大阪から滋賀・信楽に移り住み、長女として一家を支え、やがて男性ばかりの陶芸の世界で女性陶芸家の草分けとなる喜美子の人生を通して、戸田自身が感じたこととは? 撮影現場の様子や見どころも含めて、話を聞いた。
取材・文/井口啓子 写真/一井りょう スタイリング/影山蓉子(eight peace)ヘアメイク/田崎未来
「主要スタッフは女性。女の力でやってるぞ!という感じも見て欲しい」(戸田)
──戸田さんは女優として、すでに多くのドラマや映画でキャリアを積んでらっしゃいますが、今回初めて「朝ドラ」のヒロインを演じるにあたり、どのような思いで臨まれたのでしょう?
通常のドラマだとワンクール3カ月ぐらいで撮影するところを、「朝ドラ」は11カ月かけて、ひとりの女性の人生を演じていくので、めったにできない経験ですし、それを経たときに自分がどう変化しているのか。私自身、知りたくてやらせていただいたところがあるんですが、ロケで信楽を訪れたときに、陶工の方や地元の方々とお会いして、いろんなお話をきいて・・・。私は信楽のみなさんの心を背負ってるんだな、「朝ドラ」のヒロインをやるってこういうことか!と身が引き締まりました。
──今回演じられる喜美子は、戦後の貧しい時代を明るく生き、女性陶芸家の草分けとなるエネルギッシュな女性です。戸田さん自身との共通点はありますか?
喜美子は深い愛情とパワーを持っていて、それを周りの人にも与えられる女性。役を演じるときに自分との共通点を考えることはあまりないんですが、そこは私も見習いたいなと思いました。あと、なにか答えが見つかるまでは徹底的に考える、仕事でも対人関係でも決して妥協しない懸命さも喜美子の魅力で、そこは自分も少し似たところがあるかもしれません。
──喜美子を演じるにあたり、陶芸の猛特訓をされたそうですね。
やはり陶芸家ですから最低限、土に慣れてないといけないということで、撮影前に約3カ月、陶芸家の先生に教えていただいたんですが、難しかったですね。土を練るという作業ひとつとってもいろんなやり方があって、指の力の入れ方ひとつで表情が変わるし、その時の体調や感情でも変わる。わずか3カ月ですが、実際に自分でやってみることで、その難しさと奥の深さを改めて感じました。同じものは絶対にできないというなかで、自分を見つめて、自分を俯瞰で見て、心を統一させて、自分なりのやり方を見つけていかなきゃいけない。そういう自分との見つめ合いという意味では、お芝居も共通するところがあるのかなと思いました。
──今でこそ女性陶芸家はめずらしくありませんが、喜美子の時代には陶芸は男ばかりの世界でもあったんですよね。
陶芸は男の世界で女性は少ないという話をうかがって、なぜなんだろうと思っていたんですが、実際にやってみると陶芸って本当に体力仕事で。先生が練られている土の固さだと私は力が足りなくて、まったく練れなかったんです。これは悔しいけど男の世界になるよな・・・と実感しましたし、女性が陶芸家としてやっていくことの壁も高さも改めて感じて。喜美子の勇気に驚きつつ、私も負けないでやらなきゃ! と決意を新たにしました。
──「朝ドラ」では、これまでにもさまざまな形で「自身の手で道を切り開いてゆく女の生きざま」が描かれてきましたが、『スカーレット』はそういった観点からも共感を呼ぶものになりそうですね。
子どもの頃の喜美子のセリフで「女にも、意地と誇りはあるんじゃあ!」って言葉があるんですが、私はこれが本当に大好きで。(役柄で)20代になった今もたまに言ってるんですが、女性がものを言いにくかった時代にこういう言葉を屈託なく言える喜美子の無敵さがいいなあって。この時代にこういう女性がいたからこそ、今の私たちもこんなふうに働いていられるんだと実感できますし、彼女たちに対しての敬意を持ちながら私も喜美子として胸を張って生きて行きたいなと思います。
実は『スカーレット』はチーフプロデューサーの内田ゆきさんや脚本の水橋文美江さんをはじめ、主要スタッフに女性が多いのです。なので「女の力でやってるぞ!」というのも感じながら見てもらえたらうれしいです。
「3人の写真を撮ったら、喜美子と照子と信作になってて、作品の力強さを感じた」(戸田)
──戸田さんの登場は第2週の後半からとなりますが、15歳の女子高生を演じるという経験も「朝ドラ」ならではですよね。
10代の持ってるエネルギッシュな無敵さを31歳の体で表現しなきゃいけないって、すごいですよね。15歳だから見た目にも丸みを出したくて、もともと太りにくい体質なので、当時は一食でお米1.5合とか食べてました(笑)。
あと、15歳の喜美子が「わーい」って言うシーンがあって、これはどうやって演じよう・・・と自問自答しちゃいましたが、意地でも「わーい」って言ってやる! と思って、実際やったんですけど、カットがかかった瞬間、息切れしました(笑)。 今は20代を演じてるんですが、体力的にずいぶんラクになって、同じ人物でも年齢によってやっぱり違うなって。これからまだまだ30代、40代の喜美子を演じていくわけですが、細かな変化はありつつ、喜美子の根っこにある明るさや意志の強さはブレないと思うので、そこは大事に演じていきたいですね。
──北村一輝さん演じるお父ちゃんをはじめ、川原家のみんなや幼なじみの照子と信作との、関西弁ならではのトボけた掛け合いも楽しく、朝から元気がもらえそうです。
楽天家のお父ちゃんとやさしいお母ちゃんと、わがまま言いたい放題の上の妹の直子と、甘えん坊でかわいらしい末っ子がいて・・・。貧乏なので喜美子は一家の大黒柱として川原家を養っていかなきゃいけないんですが、あまり悲壮感がない。むしろ、働くのが好きで、お金大好きです! みたいな屈託のなさが私は好きで。照子と信作との関係も、自分に足りない部分を補いあって支え合ってて、このうえない宝物だなって。1カ月ぐらい前に、3人でのシーンはこれで終わりかもねって、照子役の大島優子さんと信作役の林遣都さんと写真を撮ったんですが、その写真がとんでもなく親友で、戸田恵梨香と大島優子と林遣都でなく、喜美子と照子と信作だったので、なんでこんなことができちゃうんだろうって、作品の力強さを感じました。
──現場のテンションの高さが伝わってきますね。
喜美子に出会いと別れがあるように、撮影のなかにも別れと出会いがあって、うれしくなったり、さびしくなったり、たくさんの共演者の方達とのコミュニケーションがすごく楽しくて、よく「朝ドラはキャストもスタッフも家族みたいになるよ」とは聞くんですが、本当にみんなで支え合っていて、膨大なセリフに追いつめられたときも、みなさんの顔を思い出しただけでがんばれる自分がいる。人の力ってすごいなあって日々感じながら撮影してます。
──まさに朝ドラ・マジックですね。
101作目の朝ドラということで、チーフプロデューサーの内田さんは「朝ドラの原点を大切にしたい」とおっしゃってて。最近の「朝ドラ」は「ヒロインの女性が国民のみなさんに元気と力を与える」という基本テーマは踏襲しつつも、さわやかなイメージが強かったんですが、『スカーレット』はいい意味で泥臭い。その泥臭さを愛おしく思ってもらえるように、これから半年、喜美子として力強く生きていきたいです。