「――と、報告はこんなところだ。同席した者には退屈な話だったろうが、齟齬はなかったかな?」
竜王との会見結果について、連絡する。
百年ごとに現れるプレイヤー、法国の予測戦力、エリュエンティウといった情報は特に重大だ。
アルベド、ラナー、イビルアイに目を向ける。
それぞれに態度は異なるが、頷いて見せた。
己の理解に問題がなかった様子に、モモンガは内心で安堵する。
ツアーが腹を探り合うような人物でなくて、本当によかったと。
「私は竜王との衝突を望まん。勝てぬ相手ではなかろうが、相応の犠牲が出るだろう。スレイン法国を操り、ぶつければ消耗は最低限に抑えられるかもしれんが……そこまでするメリットは薄い。多くの種族を内包する評議国のシステムは、我々の今後の国家運営においても、大いに参考となるだろう」
デミウルゴスに目を向ける。
「では、現状では友邦として接するという形で……?」
「ああ。誠意として、最低限の諜報活動にせよ。まずは法国だ。我らが法国を相手取る間に、手を出して来るようなら、大義名分も得られるだろう。そうでなければ、友邦として扱う」
悪魔は深く頷き、一礼した。
恐怖公がその後ろに従う。
彼らは既に、法国に対する諜報活動を始めているのだ。
「法国を抑えた後、最終的にはエリュエンティウを攻めたい。都市守護者とやらは、間違いなくNPCだろう。主を失った奴らの財を、放置しておく意味はあるまい」
「無論でございます」
「全ては栄光あるナザリック維持に」
デミウルゴスとアルベドが、共に笑みを浮かべる。
有限とは言え、維持費の当てができたなら、これに勝る喜びはない。
何としても手に入れねばならない。
ナザリックの資産を、なるべく消費せずに。
「パンドラズ・アクターよ。帝国について新たな発見はあったか?」
「ハッ、現状で~は、母上のお眼鏡にかなうもの、わずかな人材のみッ! 国力こそ王国より上ながらァ、根本的な技術水準、変わりッ、ありまーせんッ! ただ、独自の呪文開発が盛んに行われ、我々の知らぬ呪文やアイテム活用が多々見られますッ! ……残念ながら、換金時は同位階呪文と扱われますが」
モモンガは少し思案する。
「ラナー殿、貴女から見て、帝国には特別な国歌運営の知恵があるか?」
「いえ、基本的には腐敗貴族や腐敗官僚がいない状態での、健全な国家運営の結果です。優等生ではありますが、特殊な運営を行っているわけではないかと」
ラナー王女が微笑み、断言する。
「……では、パンドラズ・アクター。お前は帝国にて人材、呪文、アイテムの収集を続けよ。王国との戦争を抑える以外、政治的介入は不要だ。適当に現地協力者に任せ、竜王国や聖王国に足を伸ばせ」
「
勢いよく敬礼する己の子に、モモンガは苦笑する。
クライムや蒼の薔薇が、呆気にとられた顔をしていた。
クレマンティーヌやヒルマ、ニグンなどもだ。
さすがに外部の者の前では、我が子ながら少しばかり恥ずかしい。
「対外活動は基本的にデミウルゴスの指揮に任せる。人員は、ナザリックの者を消費せぬ範囲で用いよ。スレイン法国が
「御身を失望させぬ働きを、必ずや!」
甲殻に覆われた尻尾が揺れる。
「では、人員の配置となるが……ラナー殿、貴女に地上部の執政官となってもらいたい。カルネ村を含め独立宣言する。人員配置は、私が配置した者以外、好きにしてくれていい。移民募集も随意に行ってくれ」
「承知いたしました。及ばぬ身と思いますが、どうかよろしくお願いします」
嘘である。
裏でラナーは名のみの執政官となり、実際の統治はほぼアルベドとデミウルゴスが行う。
そのさらに裏で、ラナーは監禁という名目でクライムと二人誰にも邪魔されない時間を、仕事もせず過ごすのだ。
また、クライムを説得なり言いくるめるなりすれば、二人セットで種族変更する約束も為された。
そのためなら、クライムに対しモモンガやナザリックをどれだけ悪役扱いしてもよい、としている。
結果、ラナーが少年に何を求め、いかなる関係に至るか……既に絵図面はできているのだろう。
「何、ラナーならばきっとできる」
「がんばります!」
「ああ、私もがんばらねばな」
ふんすと、気力を込める仕草は微笑ましくも見えるが。
モモンガと交える視線は、唯一無二の信頼を込めたもの。
二人が何をがんばるか気づいたのは、ナザリックですらわずかである。
(出会ってはいけない二人を、会わせてしまった気がするわ……)
(これほど盤石の信頼関係を築けるとは、さすがモモンガ様!)
(我輩も紹介した甲斐があったというもの。お連れして正解だった)
(欲に溺れェる他に友人ができましたか、母上ッ!)
二人の視線が熱く交わり、離れた。
「さて、蒼の薔薇の方々は、ここに残ってもらっても、王都に帰ってもらってもかまわん。今回は妙な場に立ち会わせて、すまなかったな」
「一応、王国貴族ですし、しばらく様子を見たら王国に帰うかと――」
「私は、ここに永住したい」
「ショタがいれば、私も考えた」
「メシが美味くて、手合わせの相手にも困らねーからな」
「バカなこと言ってないで帰るぞ!」
普通に王都へ帰る次第となった。
イビルアイにとってみれば、“ぷれいやー”の拠点に住むなど正気の沙汰ではないのだ。
相手を貶める言葉を吐かないのは、周囲にいるNPCらが心底恐ろしいからだ。
「訊ねて来れば客として歓迎しよう。定住を望むなら、それもありがたい」
そんな彼女らを、モモンガは特に引き留めもしない。
ティアには事前に、引退後の住居にでも考えておくよう言ってあるし。
彼女も、その気は十分にありそうだった。
さらに、ニグンに軍司令官、カジットに宮廷魔術師の職を与える。
ニグンには元六腕、ハムスケの指揮権も預けられ。
カジットらは独自呪文開発とスクロール作成を命題とされた。
そして、もう一つ……地上部に大きな変更がもたらされる。
「かつて王国で奴隷扱いされた女性らを、地上部に配置する。併せて彼女らの統括および、別地に構えた保護施設の管理は、ヒルマに任せる」
「えっ……大丈夫かい?」
驚きよりも、むしろ心配そうにヒルマが言う。
己ではなく、モモンガを心配しているのだ。
「……まあ、お互い問題があれば連絡するということで」
「はいはい。管理自体は了解したよ。客は取らせるのかい?」
このやり取りに、蒼の薔薇から剣呑な視線が向けられた。
保護した娼婦にまた、身を売らせるのかと。
二人は気にも留めず、ラナーも落ち着いたものだ。
「ヒルマ自身も含め、当人の希望次第だな。無理はさせるな。戦闘を望めばニグンの配下に配置してもいいし、人間への忌避感が強ければ、ナザリック内配置としてもいい。まだ増えるだろうから、振り分けは自由にしろ」
「はいよ。モモンガ“様”こそ、しっかりね」
ヒルマなりの激励に、モモンガは黙って頷く。
なお、ラナーも蒼の薔薇も、ヒルマが元六本指とも、元人間とも知らない。
「さて……ナザリック内についてだが。ソリュシャン、お前は引き続き私付のメイドとなれ。浴室の世話は任せる。私の部屋に限り、一般メイドらの指揮権も与えよう」
「全てはモモンガ様の御意志のままに」
あくまでメイドとして、ソリュシャンが頭を下げる。
今までより、少し距離を置くという意思表示。
仕方あるまいと、モモンガは頷き返す。
「ルプスレギナ、クレマンティーヌ。お前たちは第九階層に引き続き詰めよ。私の個人的護衛として、ナザリック内や地上を視察する折、付き従ってもらう」
二人がチラ、と目を合わせる。
目を細め……狼と猫、相は違えど似た嗜虐の笑みを浮かべた。
そして深々と礼をする。
「「承知いたしました」」
その表情に、少し濡れた目で微笑み、頷くモモンガ。
寝室以外ではいつも通りということだ。
むしろ、モモンガが二人の部屋に来るなら……おねだりという意味。
二人としては、切り替えやすい望ましい形でもある。
ヒルマから遊び相手――
「シズはナザリック地上部とカルネ村の防衛構築を引き続き行え。マーレの仕事はほぼ終わった以上、お前がナザリック地上部に出向する最高責任者だ。アンデッドとゴーレムの指揮も任せる。私は地上に出ぬことに決めたからな。せめてもの支援として、明日……いや、これからでも〈
「……」
シズが小さく頷く。
「よろしい。築いた要塞は地上部の人員で随意に使わせよ。私に気遣う必用はない。軍事面での防衛性も重要だが、生活の利便性も忘れぬようにな。このあたりは、ラナーとユリ、ヒルマの意見を取り入れるのだぞ。彼女らの言葉を決して軽んじるな。それから、ハムスケをあまり乱暴に扱ってはならん。エクレアに対してもそうだが、少し力加減を考えろ。あくまで優しく扱うのだぞ」
「……了解」
一人だけ、やたら細かい指示を受ける。
モモンガとしては、彼女が失敗などしないよう、精一杯の支援でもある。
ラナーたちにも、フォローを頼んでいる。
外見が子供らしく、実直で、かつ同じセンスのかわいいもの好きとして、モモンガはシズをかなり贔屓していた。
先日のシャルティアとは、随分な違いである。
いや……先日のシャルティアの失敗ゆえ、随分と細かく言っているのだが。
そんな妙に丁寧な扱いに、他の守護者やプレアデスから、いくばくかの嫉妬が浴びせられるが。
シズは胸を張り、誇らしく己の任務を受け入れた。
いつもの彼女との違いに気づいたのは、姉妹たるプレアデスの面々のみだったが。
セバスは王国駐留から、状況により竜王国へ。
ユリはその後も、カルネ村の守護。
ペストーニャは地上部で人間の回復役。
また、資産節約のため、料理長と副料理長には地上の食材使用への順次切り替えが義務付けられた。
「――以上となる。他の者は本来の持ち場に待機しつつ、デミウルゴスの要請に従え」
「あ、あの、モモンガ様」
おずおずと発言する声がある。
「どうした、シャルティアよ」
「私はその、どのように……」
すがりつくように言うが。
「お前は本来の階層守護者に戻れ。他の者にも言えるが、デミウルゴスの第七階層はほぼ留守となっている。また、他の階層も留守となる可能性は高い。そうした際には、残った階層守護者で分担し、全階層をカバーせよ」
モモンガの返答は無情である。
「承知イタシマシタ」
「はい! わかりました!」
「が、がんばります」
さらに、他の守護者の言葉が続く。
「……りょ、了解でありんす」
魂の抜けた顔で、シャルティアは頷いた。
「いずれにせよ、ここにいる全員のおかげで、我らは新たな一歩を踏み出せる。お前たち全員に感謝しよう!」
高らかにモモンガが宣言した。
魂の抜けた約一名を除き、ナザリックのNPC全員、ニグン、カジットらが喝采する。
その熱気に、残る人間や元人間は戸惑っていたのだが。
(私も感謝します! 感謝っ……! 圧倒的感謝っ……!)
ただ一人、微笑みの中で、NPCらにも負けぬ熱い感謝を送る王女もいた。
その後、一同で地上に出て。
モモンガはMPの半分程度を常時維持に割く形で〈
漆黒の城塞と、それを囲む三本の巨塔を築いた。
現地の人間らは第10位階魔法に驚嘆し。
ニグンやカジットは忠誠を新たにし。
イビルアイは絶叫する中。
扉がモモンガ以外に開けないというハプニングもあったが、扉を破壊して新たな門を急造し、何とか形を整える。
シズは城塞と塔を中心に、堀や城壁を築くと意気込んだ。
デミウルゴスの施設から多数の
新たな地上部――ナザリック魔導国と命名された地の独立宣言は、即日で為された。
そして各国へと、
王国と帝国はこれを黙認し。
法国は警戒を強め。
聖王国は悪魔の使役に敵意を見せた。
返答には、およそ一週間程度がかかったものの。
シャルティアの抜けた魂は、まだ戻っていなかった。
またオチ要員に使っちゃってごめんよ、シャルティア……。
あと、アルベドさんが空気。
最終目標はエリュエンティウ略奪。
他のプレイヤーの痕跡やアイテムもガンガン奪ってくつもりでいます。
100年後にも拠点ごと来たら、それも襲うつもり満々です。
なんだかんだで50レベルオーバーになったクレマンティーヌは、ルプーと普通に仲良くなってます。
性格けっこう似てますしね。
立場的にはルプーの後輩。
シャルティアとも、そこそこ仲良し。
他のプレアデスとは、さほど仲良しでもないです。
エクレアとハムスケを通じて、シズはかなり特別扱いされてます。
原作アインズさんが、アウラやマーレに向けてた保護欲が、主にシズへ。
理由は、モモンガさんがろくに外に出ずいて、一部の姉と肉体関係を持ってるせいです……。
ギルメンへの執着を失ったので、アインズ・ウール・ゴウンの名前はほとんど出してません。
他プレイヤー引き寄せたいわけでもないので、魔導国の名前はナザリック。
名目上はラナーが女王。
とはいえ、モモンガさんの心の友になったラナーは、統治しません。
君臨すれど統治せず、代理はドッペルゲンガーに任せます。
ナザリック内に幽閉されたというシナリオで、第六階層辺りでひたすらクライムといちゃいちゃして暮らすつもりです。幽閉されたら慰めが必要だから……!