「笑ってんだけど! 超ムカつく!」
「いらないの、そんな子は!」
「どういう教育受けてんだよお前は全く」
【虐待音声公開】「泣けばいいと思ってんじゃねーよ、この野郎」
取材班が入手した音声に記録されていたのは、女性の怒号と幼児が泣き叫ぶ声。この音声が録音されたのは、東京・足立区の竹ノ塚駅東口から徒歩13分ほどの場所にある24時間営業の認可外保育施設(ベビーホテル)「X」だ(本稿の最後に実際の録音データを公開中)。約100平米のワンフロアで、園庭はない。保育資格を保有している職員は4名、それ以外の職員が10名。時間帯にもよるが、2~3名で平均10名程度の子供を保育している。

足立区にある24時間営業のベビーホテル「X」 ©文藝春秋
「ここでは、保育士による幼児虐待が日常的に繰り返されているんです」と告発をするのは、臨時職員として働くR子さんだ。
虐待をしているのは社員の2人
「園児たちに虐待をしているのは園長のAさん(28・女性)と、社員保育士のBさん(27・女性)です。このままでは園児たちの心に一生消えない傷が残ってしまいますし、最悪死亡事故が起きる可能性だってあります。今回お話ししようと思ったのは、一刻も早く園児を救わなければいけないと思ったからです」
R子さんが「X」で働き始めたのは昨年11月。R子さんは保育士資格を持っていないため、資格を持った保育士とペアになって、週2~3回勤務することが多いという。
「元々子供が好きだったので、保育園で働けることになり、とてもうれしかったんです。だからこそショックが大きくて……。
ネットなどで調べてみたら、児童相談所などに通報するにしても、写真や録音があったほうがいいと知りました。それから虐待の様子を記録してきたんです」
ベビーホテル「X」が開園したのは2001年6月のこと。当時は子供好きの夫婦が営んでおり、約15年間にわたって、地域に根付き親しまれてきた。
ほとんど園に現れない新しい社長
しかし2016年に夫婦が体調不良などの理由から現場を離れることになり、現社長C氏(50代・男性)が経営を引き継いだ。C氏は「X」の経営以外にも、足立区内でマンションのモデルルームの新設や解体工事を行う会社や、飲食店を経営している。R子さんによると、C氏が園に姿を見せることはほとんどなく、園の様子は防犯カメラで事務所からチェックしているという。
「たまに園の防犯カメラが動いていると『あ、今見ているんだな』と分かりますが、子供たちと関わることは殆どない。ゴルフ好きで、テレビ番組にアマチュアゴルファーとして出演しているのを見かけたことがあります」(同前)
「X」の経営者がC氏に代わったことで、C氏の知人でもあったAが入社し、園長になった。
「Aさんは元々保育士資格を持っていたのですが、前職はアパレル関係だったそうで、保育士として働くのは『X』が初めてです。事務仕事が得意で、提出書類や園の飾り付けなどは完璧にこなすタイプ。小柄でぽっちゃりとしていて、保護者への対応はすごく物腰が柔らかい。そのため最初のうちは保育士の間でも『いい園長で良かったね』と好評だったようです」(同前)
しかし、A園長の専門学校時代の友人であるBが社員として働き始めた頃から、二人による虐待行為が始まったという。
おむつかぶれを半日放置
「私が働き始めた昨年11月頃には、すでに子供たちへの激しい叱責や、腕を無理に引っ張る、小突くなどの行為は当たり前に行われていました。それだけではなく、当たり前の養護もしていないことさえありました。よく覚えているのは8月16日のことです」(同前)
その日、R子さんはA園長と入れ替わりで15時から勤務する予定になっていた。勤務時間の少し前に「X」に着き、子供を抱き上げたときに異変に気が付いたという。
「ハルナちゃん(仮名・1歳前後)を抱き上げると、おしっこがおむつから漏れてびしょびしょになっていたんです。おむつを脱がせたら、おむつかぶれでおしりの皮がベロベロにめくれ、真っ赤になっていました。あまりに酷いのでAさんに確認したら、『そういえばお母さんからおむつかぶれの薬を1日2回つけてるって聞いた。でも園では塗らなくていいって』と事も無げに言うんです。朝からおむつを一度も替えていないとも言っていました。おむつかぶれの様子を確かめることもなく、こんなになるまで放置するなんて。信じられませんでした」
おやつを嫌がる子は頭を押さえて……
A園長によるハルナちゃんへの不適切な保育は他にもある。次の写真に写っているのはハルナちゃんだ。A園長に頭を掴まれ、苦しそうな表情をしている。
「この日のおやつはスイカだったのですが、Aさんは『食べるの!』などと言いながら無理やり食べさせていました。フォークが歯に当たる『ガリッ』という音が聞こえて……。ハルナちゃんは苦しそうにえずいていました。左の男の子はハルナちゃんのお兄ちゃんなのですが、妹を見て静かに泣いていました」(同前)
しかし、R子さんが「園長よりも悪質」だと言うのが保育士Bの所業だ。
「Bさんは二面性があるタイプで、保護者の前では愛想がいいのですが、朝に子供を預かってドアを閉めた途端、態度が一変するんです。言葉遣いも乱暴になり、気に入らないことがあるとすぐに手が出ます」
暗闇の食堂で給食を食べる1歳児
保育士Bはヨウコちゃん(仮名・1歳半前後)への当たりが特にキツいという。
「給食が進まないヨウコちゃんを、Bさんが『食べ終わるまでここで食べろ』と、暗い部屋で一人にしたことがあったんです。園の食事は大人用のお弁当を切り分けているので、誤嚥の可能性も高い。私が介助しようとすると、Bさんから『やらなくていいから。別の仕事をやって!』と高圧的に指示されました。こっそり様子を見ていましたが、気が気じゃありませんでした」(同前)
本稿の最後に公開している録音データに記録されているのも保育士Bの声だ。ほとんどがヨウコちゃんに向けられたものだという。8月10日、ほかの幼児に向かっておもちゃを投げたヨウコちゃんに「どういう教育受けてんだよお前は全く」「泣けばいいと思ってんじゃねーよ、この野郎」などと激しく叱責している。
「Bさんが『おめめ見てごめんなさいって頭下げんの!』と怒鳴りながら、ヨウコちゃんの頭を押さえ込んでいました。私も恐怖を感じるほどの剣幕でした」(同前)
音声には事態を収めようとしたR子さんがヨウコちゃんに対し、「いい子いい子~って。ごめんね~って」と呼びかける声も記録されている。R子さんの声は優しげだが、少し震えてもいた。音声の後半には、保育士Bがヨウコちゃんをある女性芸人の名前で呼ぶ声も録音されていた。女性芸人の個性的な顔立ちとふくよかな体型が似ていることから、Bはヨウコちゃんをそう呼んでいるという。
昼寝から早く起きた子をバインダーで叩く
「Bさんはヨウコちゃんを●●(女性芸人の名前)と呼び捨てて笑っていました。そこには侮蔑的なニュアンスが含まれています。しかし、何もわからないヨウコちゃんはBさんが笑ってくれたと思ったらしく、Bさんに対して笑顔を見せたんです。それをBさんがまた『笑ってんだけど!』と馬鹿にしていて……。守ってあげられなくてごめんねという気持ちでいっぱいです」(同前)
9月7日の音声には、Bがヨウコちゃんの頭を厚紙製のバインダーで叩く音も記録されている。
「ヨウコちゃんだけ早くお昼寝から起きてしまったときがあったんです。大人しくお布団の上に座っていたのですが、Bさんは気に入らなかったようです。手に持っていた新品のバインダーのビニール袋を取りながら近づいてきて、そのバインダーでヨウコちゃんの頭を叩いたんです。『バン!』という大きな音がして、ヨウコちゃんは何が起きたのかわからず、びっくりしていました」(同前)
子供が泣き叫ぶ“お叱りベッド”
さらにR子さんは園内で「お叱りベッド」と呼ばれている、ベビーベッドの存在についても明かす。
「Bさんは『反省ベッド』とも呼んでいます。園には3つのベビーベッドがあるのですが、すべて“お仕置き用”なんです。泣き止まない子やいたずらをした子を、年齢問わず、このベビーベッドに入れて長時間放置するのです。ひどい時は1時間ほどして、Bさんが『あ、〇〇のこと忘れてた』と思い出したようにベッドから出すなんてこともありました」
音声にも「ほら、ベッド行け!」というBの声と、そう言われて泣く幼児の声が録音されている。
「子供の視界を遮るためにベッドの縁には布団を被せます。Bさんは『ほかの子が遊んでいるところを見られないようにするため』と言っていました。今年1月頃にはベッド全体に布団を被せたこともありました。子供たちは恐怖で泣き叫びますが、やめることはありません。布団で保育者の目も遮られるので、本当に危険なんです。『ベッドにいれるよ』と言われるだけで泣いてしまう子もたくさんいます」(同前)
虐待音声公開「泣けばいいと思ってんじゃねーよ、この野郎」
これらの行為について、「重大な悪影響を及ぼしうる虐待です」と断じるのは保育カウンセラーの井桁容子氏だ。東京家政大学ナースリールームで40年以上保育士として勤務した後、現在は「すくすく子育て」(Eテレ)に出演するなど、子育て・保育カウンセラーとして活動している。
「例えば嫌いな食べ物を無理やり口に押し込まれたとき、脳のどこが反応するかというと、殴られたときと同じ場所なんです。それはされた本人だけではなく、周りで見ている子供たちにも同様の影響があります。
精神を安定させ、人間関係ホルモンとも呼ばれる、オキシトシンと受容体の数は 1 歳前後で決定すると 言われていますので、その時期に不安や抑圧された環境で過ごすことは生涯に渡って悪影響を及ぼしうる。また、幼少期に親に限らず特定の大人との愛着関係を結べないと、基本的な信頼感がはぐくまれないんです。そうなると自己肯定感を持ちにくく、成長してから周囲の人と上手く関係を築けなくなってしまう。幼い頃ににどれだけ安心できる環境 で育つかは、その後の“心身の成長や生きやすさ”を左右するんです」
しかし、こういった行為が行われている保育施設は「X」だけに限ったことではないという。
「悲しいことに、このような保育や子どもとの関わりを『しつけだ』『教育だ』 と捉え違いをしている保育士は少なくないかもしれません。1 歳の子どもに『ごはんを残 さず食べなさい』『お友達に謝りなさい』とその行為だけを強いることは保育でも教育でもないし、専門家としての子どもへの理解が不十分。叱責を受けたら、ただただ恐怖を感じる だけです。保育のプロである保育士が、それを知らなかったでは済まされない」(同前)
悲惨な状況をみかねたR子さんは今年6月11日に足立区児童相談所に通報した。2日後には東京都福祉保健局の保育施設検査担当職員が立ち入り調査に来たが、その後も虐待が改善されることはなかったという――。
後編では立ち入り調査後にA園長と保育士Bの居直った様子や、A園長と社長Cへの直撃取材の模様を報じる。
《虐待保育施設》立ち入り調査後に“犯人探し”「○○ちゃんのパパが怪しい」 園長は直撃に開き直り へ続く
(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)