人間昆虫記

著者: 手塚 治虫

人間昆虫記

出版社:講談社

発行年:2012

Reader StoreブックパスAmazon

評価5 最高!

未来にも残すべシA 個人的には超好ミA 初心者でも読めルC

コピー人間

主人公の十枝子(としこ)は人の能力をコピーすることに長けている。
舞台女優の演技、舞台演出家の演出、小説家、画家の作品、作風を全て自分のものにしてしまう。
それも、彼女のものとするのではなく、その作家、画家のもののままで、よりよい作品を生み出し、相手よりも早く世間に発表してしまう。
彼女の模倣に気づくのは、模倣された人間だけ。
世間では彼女のものとして認知されてしまう。

物語の最初で首吊り自殺をしてしまった小説家は、彼女に自分の作風を盗られ絶望して自殺した。
それ以前に十枝子は、デザイナーの水野と恋愛関係だったが、やはり、彼女は彼の作風を全て吸収し、彼が出そうとしていたコンクールに先に出してしまう。
激怒する水野に対し彼女は、新たなにコンクール用の作品を描けばいいと事もなげに言う。
コンクール間近で時間がないのに、だ。
彼女の中には、罪の意識はない。

二人は別れ、それぞれの別の人間と結婚する。
十枝子より上の立場でいたと思っていた結婚相手は十枝子の手中に落ち破滅する。
十枝子は、自分と付き合った人の才能を全て吸い取り、それ以上のものにして自身能力として身につけ、その度に変身を繰り返す。

彼女が唯一、心を許せるのは母親。
実家でその母親に甘える十枝子は、ただの女の子に戻る。
それ以外は非情で、利用できる男はとことん利用する。
女も男も。
男は、自分は大丈夫と思っていても、十枝子に惚れてしまい、気がつけば彼女の計算どおりに破滅していく。
その破滅する姿をみても、十枝子が心を痛めることはなく、彼女は高らかと笑い、海外に行き、人生を満喫する。

相手の才能をコピー、トレスして、付き合う人が変わるごとに変化していく十枝子。
彼女は読者の期待を裏切って、鮮やかに人生を謳歌していく。
母親に甘える姿、水野に拘る姿に、少しだけ彼女の弱さを垣間見るが、それ以上に彼女は世間を欺いて、強く、人の才能を養分にして生きていく。
十枝子は水野だけは本気で愛したように思う時もあるが、それは、彼女の計算の中に彼が入らなかったからではないか?と思ってしまう。
他の人達とは違い別れた後も水野に固執した十枝子、だが、本当に彼女は水野を愛していたのだろうか。
十枝子の良心が見えず、彼女を見ていると、自由に勝手に生きているのが不気味に見えてくるのだが、それ以上に、痛快さを与えてくれる。
これは、女性が主役のピカレスクロマンだ。

手塚キャラクターで、ピカレスクロマンを演じたのは、有名なキャラクター間久部録郎ことロックが『バンパイヤ』(1966年)で、『MW』(1976年)美知夫がいるが、彼らよりも、十枝子のほうがもっと、悪役としては上という印象を持った。
ロックは、幼馴染に対して人間的な感情を見せた甘さがあった。
美知夫も非道ではあったが、彼自身の持つ子どもの頃の経験がわずかな同情を読む側に持たせた。
十枝子も母親に甘える姿が出てくるが、そこで、同情をした後で、読者の同情を裏切るので、一体、彼女は何なんだ?という疑問が生まれてしまう。
最後の言葉も、それまでの彼女を見ていると、額面通りに受け取ることすら躊躇う。

十枝子は女性の私から見ても、この強さと強かさに憧れを持つ反面、得体の知れない恐怖ももたらす、手塚漫画史上最悪の悪女だと思う。
また、虫が幼虫から蛹、成虫へと変化していくように、変化していく十枝子は、手塚治虫先生が好んだ「虫」と「変化」を体現していったヒロインにも思える。
そして、その彼女の生き方に背徳を感じなら、やみつきになる。
それが、この漫画に私が感じる魅力、十枝子に惹かれてしまう理由だ。


いいね! (6)

未ログインでも大丈夫!匿名で書き手さんに「いいね通知」を送れます。みんなで良い書き手さんを応援しよう!

※ランクアップや総いいね!数には反映されません。


コメント(0)

ログインするとコメントを投稿できます

ログイン or 新規登録

通報する

【09/09】ライブプレビュー機能搭載

【09/15】新記事公開