【181】日本は空襲をハーグ陸戦条約違反ではないことを示してしまっている。
「アメリカ軍は沖縄を攻略する前に、三月に東京大空襲を行なっている。これはアメリカが日本の戦意を挫くために、一般市民の大量虐殺を狙って行なわれたものだった。」(P401~P402)
私もこのように思わないわけではありません。基本的に百田氏とは同じ思いです。
マリアナ諸島攻略後、アメリカはただちに基地の建設をおこない、サイパン、グアム、テニアンの基地にB29爆撃機を44年10月には配備し、アーノルド大将指揮下に第21爆撃兵団を置き、さらに中国大陸の成都にあった第20爆撃兵団を吸収しました。
11月1日、高高度1万メートル上空から東京偵察をおこない、24日中島飛行機武蔵野工場を爆撃しました。
以後、東京・名古屋・大阪・神戸などの航空機工場に対する高高度爆撃を実施しています。
高高度攻撃をおこなったのは、日本の防空戦闘機、鍾馗や飛燕の攻撃を避けるためで、実際これらはB29の来襲を阻止できませんでした。
しかし、高高度爆撃では思った以上の戦果があげられませんでした。そこで45年1月に精密爆撃に評価が高かったルメイ少将を第21爆撃兵団の司令官に任命し、アーノルドは焼夷弾による市街地攻撃を優先させる指令を発します。
「二〇〇〇メートルという低空から東京都民に爆弾の雨を降らせた」という低空爆撃、それから「爆弾を積めるだけ積んで出撃し(そのために機銃までおろしていた)」たということ、防空戦闘機の出撃が難しい夜間を選んだこと、命中精度を高めて単機縦列による爆撃で、点ではなく面で大火災を発生させる、という作戦はこのルメイ少将が立案・実行させたものでした。
この作戦の成功を受けて、次々に日本の主要都市を爆撃します。
「大阪、名古屋、札幌、福岡など、日本の主要都市は軒並み焦土にされ、全国の道府県、四三十の市町村が空襲にあった。」(P402)
と説明されているのですが、おそらく、いろんなネット上の説明に「五大都市」と説明されているので、「現代の五大都市」と勘違いされて、東京・名古屋・大阪・札幌・福岡と安易に考えられてしまったのだと思いますが、札幌は「焦土」とはなっておらず、「東京以下五大都市」を爆撃した、とは当時は、東京・大阪・名古屋・福岡・神戸のことなのです。(ちなみに川崎も大きな被害を受けています。)
航空機工場は、組み立てが主目的で、主要部品は住宅地にまぎれていた町工場に分散していました。この空襲によって、一般市民に甚大な犠牲が出たことはもちろん、航空機生産はいっきに空襲前の40パーセントに落ち込むことになりました。
「その結果、一夜にして老人、女性、子供などの非戦闘員が十万人以上殺された。これはハーグ陸戦条約に違反した明白な戦争犯罪行為だった。」(P402)
と説明されています。私も同意したいところなのですが…
実はハーグ陸戦条約違反では現在ではないと判断されてしまいました。
2007年、「東京空襲犠牲者遺族会」の被災者・犠牲者が東京地方裁判所に集団提訴をおこなっています。無差別爆撃は、ハーグ陸戦条約第3条違反という主張がなされました。また、軍人には補償がなされたが国家総動員法によって動員された国民の犠牲に対しては十分な補償がされていない、ということも主張しています。
しかし敗訴、控訴後さら敗訴、そして最高裁では原告側の全面敗訴が決まっています。
また、政府も、空襲を戦争犯罪とは認めないかのような行動をとってしまいました。低空爆撃、火災拡大をねらった爆撃の作戦立案・実行したルメイに、戦後(1964年)、佐藤栄作内閣が勲章をあたえているのです。勲一等旭日章です。
なぜ?と驚くところですが、航空自衛隊育成の協力・功績に対するものでした。国会でも問題となりましたが、佐藤栄作は「今はアメリカとは友好関係にあり、功績があるならば過去は過去として功に報いるのが当然」と回答し、防衛庁長官の小泉純也も「功績と戦時の事情は別個」と説明しました。
(「昭和39年12月7日47回衆議院予算委員会」)
それはそうなのですが、「空襲が戦争犯罪である」と主張しようとしても、ではなぜそれを実行した者に勲章を授与したのだ、と言われてしまうと説得力に欠けてしまいます。(ちなみに勲一等旭日章は、天皇から授けられるのが通例ですが、異例にも、ルメイには昭和天皇は授与しておられない、ということを付け加えておきたいと思います。)
また、後年、NHKの取材で「東京大空襲の戦争責任は?」という問いに、ルメイは授与された勲一等旭日章を見せつけています。(『NHK特集東京大空襲』)
個人的な感想ですが、釈然としませんでした。
現在でも政府はハーグ陸戦条約違反という立場には立っていません。
2013年、第2次安倍内閣は東京大空襲に関することを閣議決定しています。
「国際法の根底にある人道主義に合致しない。」
「当時の国際法に違反して行われたとは言い切れない。」
百田氏は「これはハーグ陸戦条約に違反した明白な戦争犯罪行為だった。」と断言されていますが、あくまでも百田氏の感想にすぎず、司法も行政も「ハーグ陸戦条約に違反していない」あるいは「違反しているとは言い切れない」と説明しています。
(2013年「東京大空襲に関する答弁書))