313 レインスター卿の魔法訓練
転生してから持っていた魔力、転生龍の加護で得た龍の魔力、精霊の加護で得た精霊の魔力が今、目の前で三種類の魔力となって視認出来るようになっていた。
だけどそれは今の俺には些細な問題にしか過ぎなかった。
魔力枯渇で頭痛や吐き気が酷く、直ぐに俺は地面に膝を突いた。
それでも俺が自分の魔力を吸収するのをレインスター卿はじっと笑顔を浮かべたままで見ていた。
俺はとにかく自分の魔力を身体に入れてこの苦しみから解放されたいと思い、魔力感知と魔力操作を意識して引っ張り返そうとするけど、魔力はピクリともしなかった。
それどころか、いつもなら少し経てば回復する魔力が、一切回復する感じもしなかった。
どうやらこれもレインスター卿の仕業なのだろう。
優しい顔をしていても、スパルタ……いや、本人はスパルタで鍛えている感じは一切ないのかもしれない。
これが普通よりも優しく指導しているのだとすると、スパルタコースは一体どうなるんだ? そんな思考だけが頭を支配していく。
魔力、俺の魔力、俺の魔力を返してくれ。
強い念と魔力が身体に戻るイメージを固めていくと、少しずつだけだけど、魔力が揺らぎ始めた。
「その調子だよ。さぁもっと自分の本来持っている魔力だけを、身体に戻す強いイメージを持って引っ張り返して」
言うのは簡単、されど実行することはこの上なく難しい。
魔力が少しだけ戻ってきたとしても、頭痛や吐き気が無くなる訳ではない。
一瞬でも気を緩めれば、魔力は直ぐにレインスター卿の元へと戻っていくだろう。
やるしかない。
大丈夫。
魔力が視認出来ている分、終わりが見えているじゃないか。
俺はレイススター卿の頭の上に浮かんだ、純粋な俺の魔力だけをかき集めていった。
そしてようやく、本来の魔力だけを戻すことが出来たところで、レインスター卿は信じられないことを口にする。
「う~ん、ルシエル君は今まで何となく魔力操作と魔力制御をやってきたみたいだから、全部最初からやり直すことにしようね」
「……今のままじゃダメですか?」
やり直しということはきっとそんな簡単ではないのだろう。
「邪神と戦って退けるだけで、自分の命を落とす可能性があってもいいなら、それでもいいよ」
「……お願いします」
俺はレインスター卿の脅しに直ぐ屈した。
たぶん楽な道を選んだ瞬間、現実では酷い状況が待っていそうだからだ。
「楽な道を選んでいい時と、そうではない時の見極めもしっかりと出来るみたいだね。ここで苦しむ分には死ぬことはないし、ここでの修業はルシエル君の財産になるはずだから頑張るんだよ」
「はい」
「じゃあ今度は龍の加護で得た魔力のみを身体に取り込んでみようか」
「ウッ!?」
折角集めた魔力を引っ張られ、また魔力枯渇状態に戻されてしまう。
「こういうのは極限状態で慣れて覚える方が、理解して覚えるよりも早いからね」
そう言って俺は龍の魔力、精霊の魔力、本来持っている魔力を延々と出し入れされていくのだった。
そんな中で気づいたことがある。
「ここはお腹も空かないし、眠くなることもないんですか?」
「食事を用意することも睡眠を取ることも出来るよ。まぁ実際には必要かどうかを問われると必要ないけどね」
そこでどうやら休憩に関しては自己申告が求められるということを知った。
それから休憩したい時はレインスター卿に申告して、脳と気持ちのリフレッシュを図ることにした。
レインスター卿からは休憩の度、色々な話を聞いたり、魔法を見せてもらったりするのだった。
正直どれぐらいの時間がたったのかは分からない。
延々と魔力の引っ張り合いをしていたと気もするけど、ようやくコツを掴み始めたところで、レインスター卿が口を開いた。
「まずは第一段階はこれでいいかな」
「第一段階……ですか」
「同じ訓練ばかりしたら飽きるだろうし、効率も悪いからね」
散々やってきた後で今更感があるけど、レインスター卿の目は真剣そのものだった。
ある意味師匠よりも恐ろしいことに気づいてしまった。
「じゃあ次は一体何を?」
「今度は今引っ張り合いをした各魔力について、ちゃんと理解してもらおうと思ってね」
「各魔力ですか?」
「ああ。龍の魔力は身体強化や魔力を纏うのに向いているし、精霊の魔力は大気にある魔力に干渉して事象を起こす。そして本来持っている魔力はその両方を兼ね備えているんだよ」
「近距離なら龍、中長距離なら精霊を自分の魔力と合わせて使うってことでしょうか?」
ナディアとリディア、それぞれの魔力の使い方をイメージすればいいんだろうか?
「龍の魔力はそうだけど、精霊の魔力は精霊達にこうしたい、という事象を強くイメージして魔力を精霊達にあげるんだ。そうすることで精霊達が事象を起こしてくれるから」
「それは魔力を体外に垂れ流すようなものですか?」
「そうだよ。それがスムーズに出来ればこういうことも出来る」
フワッとレインスター卿がその場に浮いた。
「……ここは精霊もいるんですか? 精神体を引っ張って来たんですよね?」
「詳しくは創造神との約束で教えられないけど、この空間は僕がいた世界を時空間魔法で固定して切り取った……ある種の動画のような世界なんだよ」
「それで転生者が現れると再生されると?」
「そういうことだね」
……何かもう存在自体が神様みたいなものだな。
「それで俺はこれからどうすればいいんでしょう?」
「じゃあ今度は本来の魔力と龍の加護で得た魔力、本来の魔力と精霊の加護で得た魔力を交わらせる特訓をした後で、両方の魔力を使った魔法訓練を始めようか」
「本当にあれで一段階目だったんですね」
「案外簡単に終わるだろ? さぁどんどんいこう」
なるほど。自重を知らない人だったんだな。
俺はここである種の諦めがついた。
それからは魔力を交わらせる訓練では、身体が焼けるように熱くなり、本当に今まで俺の身体の中に、この魔力があったのかと疑いたくなることが何度もあった。
それでも終始笑顔のレインスター卿は、訓練の説明をする時は淡々として、補助と的確な助言をしてくれた。
そんな拷問のような時間が続き、訓練から早く解放されたいと脳が判断してくれたのか、自分の本来の魔力、龍の加護で得た魔力、精霊の加護で得た魔力をようやく自分の意思でコントロール出来るようになっていった。
本当に自分の魔力を知ることがこれだけ大変なものだったとは思わなかった。
それでも俺はそれを全てやり遂げることが出来た。
しかし訓練は続いていく。
「よく頑張ったね。これで第二段階はクリアだね。次は混ぜ合わせた魔力を使って、実際に魔法を使ってみよう」
何度も暴発をしてはレインスター卿に助けてもらって、ようやく属性魔法、精霊魔法、龍魔法を使い分けることが出来た。
「じゃあ四段階目の訓練内容は、実際に補助なしで、自分の身体の中で魔力を自分の力だけで分離させて使ってみよう」
正直な話、これは本当に危なかった。
何度も身体が自然発火したり、身体が裂けたり、気絶してしまったりと、命がいくつあっても習得出来るとは思えなかった。
「よしこれで最後、五段階目は属性魔法、精霊魔法、龍魔法を同時に使ってみようか」
「同時って、精霊魔法と龍魔法は反発するのではなかったのですか?」
「おさらいだよ。反発するのは制御が甘いだけだよ。しっかりと制御を意識してあげれば、龍神と精霊女王みたいな関係が築けるさ」
「……今、聞いてはいけない事実を聞いたような気がしますけど、大丈夫なんですか?」
「僕はもう死んでいるからね」
「本当に勘弁してくださいよ」
「誰にも話さなければ大丈夫だよ」
「はぁ~」
こうして魔法操れるように補助してもらいながら、ようやく俺は各魔法が使えるようになり、レインスター卿の魔法の授業が本格的に開始された。
驚いたことに、精霊魔法は魔力を与えて事象を起こせるものだったので、各属性魔法のレベルが低いと普通では使えない魔法も使うことが出来た。
その為、魔法熟練度はずっと上昇し続けた。
しかもこの世界は固定されているため、魔法が消滅すると同時に、魔力が身体の中へ戻ってくるという仕組みだった。
その為、レインスター卿の魔法をコピーするのが楽しくて、魔法をずっと打ち続けることも可能で、こうして魔法の訓練
お読みいただきありがとう御座います。