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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

13章 人類最強クラス集結

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310 全てはあの男から始まった

 まさか巨大な門の先に人化した龍達がいるとは思わなかったけど、念話じゃなく普通に話が出来るみたいだ。


 師匠達はどこか拍子抜けしたように見えるけど、戦闘が続き過ぎていたから、こちらとしてはありがたい。


 玉座で一人座る中年の男性が龍神様で、その玉座を挟むように左右に分かれた美男美女が属性龍なのだろう。

 一通り考察を終えて俺が話そうとしたところで、後方から白と黒のドレスを着た見たこともない女性が声を上げた。


「わざわざ人化させるなんて、なんて悪趣味なのかしら? ねぇ龍神?」

「全くです。お姉様の姿をまやかしで作り出すなんて、万死に値します」

 その言葉を聞いて、この二人がフォレノワールと闇の精霊だということに気づいた。

 エスティアも自身から出た闇の精霊を初めて見たのか、とても驚いた表情をしている。


「くっくっっく、人の姿も存外似合っているぞ? 光の精霊と闇の精霊よ。のぅ賢者よ」

 やはりこの玉座に座って、こちらをニヤニヤとしている者が龍神様なのだろう。


「……ええ、フォレノワールと闇の精霊が人化すると、とても麗しい女性であることは分かりました。そしてこの空間が疑似空間であることも……」

「ほぅ。存外頭は回るものだな。それで此度(こたび)はどのような要件で参ったのだ」

 全てを知っている上でこの対応なのだから、こちらもそれなりの対応をすることにしよう。


「私が関わっている全ての件で、でしょうか。そちらにいる聖龍を開放した時から始まった転生龍開放の件、公国ブランジュに召喚されたと思われる光龍の件、そして邪神の件です」

「その口調は気に入らんぞ賢者よ。平穏な暮らしを送ったまま老衰するのが目標の賢者なら、もっと気軽に接するのだ」

「では、こちらの質疑に答えていただけるのなら、その様に致しましょう」

 俺はにっこりと微笑みながら、対応することにした。


「……存外食えない男よ」

 からかったつもりだろうけど、それについては言ってくることが分かっていたので、冷静に対応することは出来た。

 龍神様はそのことがあまり面白くはないようだけど、今はこれでいい。


 こうした態度でいられるのも、この仏頂面には親近感が湧いて全く怖さを感じないからなのだろうな。 相手の雰囲気に呑まれることがなかったのは救いだった。

「褒め言葉として受け取らせていただきます」

「ふん、いいだろう。おい聖龍、聞かせてやれ」

 龍神様は俺から視線を切り、右を向いて話し掛けた。


「本当に龍神様は説明するのを嫌いますね。まぁいいでしょう。ルシエル、良く賢者となり、我らの依代を開放してくれましたね。本当にありがとう」

 すると聖龍と呼ばれて口を開いたのは、真っ白な髪を肩まで伸ばした女性だった。


 龍の時は女性だと想像もつかなかったけど、確かに雰囲気はあの聖龍で間違いないことが分かる。

 それにしてもいきなり感謝されるとむず痒くなるな。


「いえ、聖龍が残してくれた牙や鱗が無ければ、俺は生きていなかったと思います。こちらこそありがとう御座います」

「ふふっ、お役に立てたのなら良かったです。それと、もう少し口調を崩しても構いませんよ」

 正直、龍の時とは違って接しにくいが、口調を気にしなくていいのは助かる。


「分かった。それじゃあ早速で悪いけど、説明を頼めるかな?」

「ええ」

「ちょっと待て、何で聖龍相手だと直ぐに口調を崩すのだ」

「日頃からお世話になっておりますので、相手の思いに答えるのもまた誠意だとご理解ください」

 まぁ龍神の加護が称号としてある以上、龍神様にもお世話になっているんだろうけど……。


 そんなことを考えていると、直ぐに聖龍から援護射撃が入った。

「龍神様、話の腰を折らないでください。それともご自身でお話されますか?」

「くっ、頼んだ」

 どうやら龍神様は面倒なことが嫌いな性格のようだな。

 機嫌が悪そうな顔をしているけど、まぁ他の属性龍達はニコニコしているし問題ないだろう。


「はぁ~、では気を取り直して、まず我々転生龍のことからお話をしましょう。私達はこの世界に生まれてから、千年周期で依代を変えています」

「依代というのは、あの龍ですか?」

「ええ。ただ依代と言っても、我々は元々精神体なので、依代自体が生身の身体みたいなものなのですよ」

 ……元々精神体とか、精霊みたいな存在だということなんだろうか? それにしては依代があまりにも強力過ぎると思うが……。


「つまり……ここで皆さんが人化している姿も、皆さんが作り上げている姿ってことですか?」

「厳密に言うと違いますが、おおよその理解は正しいです。まぁ話が脱線してしまうので、その点は後でご説明しましょう」

「すみません。続きをお願いします」

「ええ。私達は千年周期で新しい依代へと身体を移す理由は、この世界の均衡と秩序を守るためなのです」

 すると黙って聞いていたフォレノワールが、口を挟んできた。


「ルシエル、私達精霊が自然界を守る存在なら、龍族は暴れることで世界を創ってきた、いわば対極の存在なのよ」

「まぁ龍と精霊は役割が違いますからね」

 聖龍は苦笑いを浮かべたということはどうやら本当のことらしいな。


 だけどようやく精霊と龍がどういう立場にあるのかが分かってきたから、何故巫女の押し付け合いをするのかの意味は分かったな。

 未だに俺とくっつけようとすることは分からないけど……。


「なるほど。でも確かその他にも転生龍を開放することで、次世代の勇者の使える属性が増えるようなことを聞いた覚えが……」

 確か聞いたのは、レインスター卿からだった気がする。


「ええ。人族は勇者が現れることで、魔族に滅ぼされずに均衡を保ってきましたから……ただ三百年程前にレインスターが現れてから、少しずつ邪神の介入が始まったのです」

「どういうことですか?」

「レインスターは少し稀な存在だったのです。その武によって魔族の脅威から世界を守り、知によって人々を助け、また便利な魔導具を開発し、そのカリスマによって誰もが怪我で死なないために、あらゆる施設を造りました」

 確かに魔王を魔王だと思わずに倒したみたいだし、井戸の手押しポンプの開発から魔法国家都市ネルダールの開発を行い、勇者となり治癒士教会を設立して、イエニスの基盤を築いたんだよな……。

 本当の偉人だ。


「何故それが邪神の介入に繋がったのです?」

「レインスターは人族が暗黒大陸と呼ぶ魔族の住む大陸を封印しました。その活躍によって、このガルダルディアを創造した神々にもよく知られた存在になりました。ただそれは邪神にもです」

 ……あの人も巻き込まれ体質だったんだろうか? いや、それならやっぱり早い段階で巻き込まれている俺が一番の巻き込まれ体質なのだろうか? でもそうなると、邪神の言っていた人族が弱くなったって、もしかしてレインスター卿と比べてだったのか? まさか……な。


「……もしかしてレインスター卿は邪神と戦ったことがあるんですか?」

「ええ。私達の属性だけでなく、時空間属性魔法を使って単独で退かせました」

 どうやら正解だったらしいが……邪神を一人で退かせるってどれだけ強かったんだろな?


「レインスターが死ぬまではこの世界も平和だったの。だけど邪神はレインスターと戦って、人族に……勇者という存在に興味を持ったの」

 要はやり過ぎてしまったんだろう。


「それで転生龍の封印を?」

「ええ。転生龍は全員が揃わないと新しい依代には転生出来ないの。本来であれば誰かが依代を捨てた時に転生龍は転生の準備に入るのだけど、呪いの影響で迷宮の最奥から出られなくなってしまったの」

「……もしかして、転生龍を解き放つ存在を待ってとか……そういうオチは……そうですか」

 どうやらそうだったらしい。

 完全にレインスター卿のとばっちりだった。

 俺はガックリと頭を垂れるのだった。


「まぁそういうことだから、たぶん邪神と戦うことになるだろう」

「そんなさも当然のことのように……」

 頑張って龍の谷の麓へ来ても、平穏とは程遠いぞ。


「安心しろ、ちゃんと対策は考えてある」

「それを先に言ってください。それでその対策は?」

「賢者ルシエルのもう一つのジョブである龍神騎士の真の能力を開放させる」

 いつの間に多龍騎士から龍神騎士にクラスチェンジしたんだろうか? だけどそんなことが出来るなら早くそうして欲しかった。

 何か手っ取り早く強くなる方法があるんだろうか?


「それでその方法は?」

「慌てるな。その前に光龍を呼び戻さねばなるまい」

 やばい、すっかり忘れていた。


「……そんなことが可能なのですか?」

「一応、龍達の神だからな」

 邪神の呪いを解けない癖に……何てことは思ってはいけないんだろうな。


「何を威張っているのよ。邪神の呪いを解けなかった癖に。さっさと光龍を呼ばないと精霊女王を私達がここへ召喚するわよ」

 そう思っていると、俺の気持ちを代弁するかのように、またもやフォレノワールが龍神の作った雰囲気を粉砕した。


「くっ、それだけは止めてくれ。光龍を呼び戻すぞ」

 何故これだけ龍神様に強気でいられるのだろう? 後で聞いたら教えてくれるだろうか?


 そう言って龍神の身体に魔力が帯びると、魔法陣が出来上がり、光が収束していくと、そこにはやはり竜人の美男が立っていた。


「あれ? ここは……あ、フォルちゃん会いたかったよ」

「私は会いたくなかったわ。それよりも精霊石を集めていたみたいだけど、何をしようとしていたのかしら?」

 光龍はフォレノワールに笑い掛けながら近寄ろうとするが、絶対零度のような凍てついた目で自分を見るフォレノワールの視線に気付き足を止め、精霊石のことを持ち出されると怯え始めた。


「な、な、何で知っているのさ」

「ルーブルク王国にいたブランジュの潜入者が丁寧に教えてくれたわ」

「……」

 口をパクパクして言葉を取り繕ろうとしているけど、それはフォレノワールを怒らせただけのようだ。


 フォレノワールは一度こちらを見て微笑むと、優しい声で光龍へ話掛ける。

「あら、そんなに口を開け閉めするなんて緊張でもしたの? それなら飲み物がいるわよね?」

「いら……やっぱりもらおうかな」

 何かを察して断ろうとしたけど、フォレノワールの微笑みに、光龍は震えながら意見を変えた。

 そんな姿に少しだけ親近感を覚えたのは何故だろう?


「ルシエル、あれをデカいジョッキでもらえるかしら」

「いいのか?」

「ええ。喉が渇いたらしいから、たくさん飲ませてあげたいの」

「……」

 俺は直ぐに魔法袋から物体Xの入った樽とピッチャージョッキを取り出し、それを注いでフォレノワールへ渡した。


「あ、君が皆を開放した賢者君か、僕の加護も欲しいでしょう? 欲しいよね? だったら分かるよね」

 額から滝のような汗を掻きながら助けを求めてくるが、残念ながら助けて上げることは出来ない。


「ルシエルに加護を与えるのは決まっていたことでなんでしょ?」

「はい……直ぐに」

 すると脳内にあの声が響く。

 ピロン【称号 光龍の加護を獲得しました】


「さぁ飲みましょうか」

「そ、それだけは許して~」

 光龍は逃げ出し、それをフォレノワールと闇の精霊が追っていった。


「あ~コホン。まぁそんな訳で、あれも邪神の呪いを受けていた筈なんだが、召喚されてからその呪いが無くなったみたいだから、あれの開放は既にされていたはずだ」

 フォレノワール達の暴挙は放っておくらしい。


「そうですか……あの重力と毒を操る龍もいると聞いていたのですが?」

「あ? 重力は闇属性だから闇龍の分野だろう。 そんなことより俺の属性である毒なんて誰から聞いたんだ?」

 まさかの毒龍がここにいた。


「そういう嘘か本当か分からない文献も残っているんですよ。それよりも龍神騎士の真の能力を開放させるとは、一体どういうことですか?」

「俺達と戦ってその身に俺達の力を刻め。そうすれば自ずと強くなれるぞ」

「それらは我らにも参加させてもらえるのだろうか?」

「出来ればルシエル様に付き従いたいです」

 師匠達は顔を伏せてお願いしているが、きっと笑っているに違いない。


「まぁ邪神と対抗するには、人数が多いに越したことはないだろうから認めてやる。だが基準を満たしていない者は死んでも知らん」

「ならば我らも参加させていただく」

 龍神様の脅しも何のその。ルミナさんが一歩前に出て頭を下げると、戦乙女聖騎士隊もそれに倣い、一斉に頭を下げた。


「私もルシエル様の従者ですから」

「「私達ももちろん参加します」」

 それにエスティアが続き、ナディアとリディアが続いた。


「そっちのドワーフはどうするんだ?」

「工房を作らせてほしい。俺達にはやることがあるからな」

「たまに“ルシエルン”でストレスの発散も頼みたい」

「くっくっく、いいだろう。おい土龍、工房へ案内してやれ」

「は~い」

 少し小さめの男の子が手を挙げるとドラン達技術班を連れていった。


「龍神騎士ルシエル、言っておくがお前にはスペシャルメニューもあるから、死に物狂いでやらないとどうなるか分からないぜ?」

 これのことだったんだな。

 水の精霊の助言はこのことを示唆していたのか。

 ……何だか昔に逆戻りしたような感じだけど、これに耐えきれば平穏に戻れると信じるか。だけど、ずっとここに留まる訳にもいかないよな。


「期間はどれぐらいを見込んでいるんですか?」

「それは自分達次第だ。本人のやる気なくして、平穏な暮らしが手に入ると思うなよ」

 いつかこのニヤけた顔を歪ますことだけを考えて必死に修行しよう。 

 俺はそう心に決めて、龍神様及び属性龍達との修行の日々がこうして始まりの時を迎えるのだった。


お読みいただきありがとう御座います。

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