302 助力
竜を含めた大蛇やリザードマン達は龍の眷属で間違いなかった。
身体強化の発動だけなのに、全ての攻撃が遅くなり、いつも以上に身体が動く。
ゆっくりと流れる時の中、一度盾で受ける攻撃、躱さないといけない攻撃、カウンターで斬る攻撃をそれぞれ判断していく。
ただそれでも瞬時に判断しないと、攻撃を受けたりもする。
「【聖なる治癒の御手よ、母なる大地の息吹よ、我願うは我が魔力を糧とし、天使に光翼で 全ての穢れから身を守る 聖域生み出す鎧を創り給う サンクチュアアーマー】」
聖域鎧を発動させると、攻撃を仕掛けた魔物や巻き付いて大蛇が痛がって距離を取ろうとする。
そこへ魔力を注いだ幻想剣を軽く振るうだけで、敵はその命を散らしていく。
しかし俺にそこまでの余裕はない。
バザックによる魔法攻撃が魔物の群れに当たりだし、師匠とライオネルが敵を倒し始めたのだが、そのペースが徐々に早くなっている印象なのだ。
同じく飛行艇を降りて闘い始めた戦乙女聖騎士隊を見ると、その差は歴然だ。
「……あの三人のレベルが上がると、きっと俺の平穏が奪われるということになるんだろうな。なんか凄い笑顔だし……」
俺は敵を一匹でも多く倒して、師匠達のレベルアップを阻止することにした。
しかし、それから間もなく戦場に大きな変化を訪れる。
赤、青、黄、灰色の竜達が師匠達へブレスを放ち出したのだ。
師匠達の周りには、まだ多くの魔物がいたけど、それらの魔物も巻き込む感じだった。
眷属……でもないのか? そうなると翼竜に攻撃していなかったのは、もしかすると上空から攻撃されたくなかったからなのか? そんな考えが頭を過ぎる。
「……師匠達なら問題ないと思うけど、サクっと合流していた方が良さそうだな」
俺は師匠達の方向へと移動しながら魔物を屠り、師匠達へブレスから身を守るための聖域結界を発動させようとすると、ブレスはバザックの生み出した風の結界で既に弾かれていた。
「そういえばバザックはレベル一じゃなかったんだっけ」
その光景を見た俺は、必要最低限のサポートとしてエリアバリアを発動させると、再び魔物達の後ろでブレスを吐く竜達目掛けて走り出した。
竜四体に勝てるのかどうか? 自問自答して出した答えはやってみなければ分からないだった。
イエニスの迷宮で赤竜を倒せたのは本当にラッキーだった。
あの時、物体Xの樽を飲ませることが出来なかったら、きっと詰んでいただろう。
あの時からレベルは百以上上がっているけど、竜相手に余裕で立ち向かえる程強くはなってない。
きっと称号の影響がなければ対峙することはもちろん、見ただけで身体が震えることになっていただろう。
俺はさらに接近したところで聖域結界を発動し、四竜からブレスが吐き出されるのを待った。
そして一番近くにいた黄竜が、雷をブレスにして吐き出してきた。
ブレスは聖域結界で勢いを弱めたものの、やはり貫通してきた。
「闇龍がブレスを放った時にあまり効果がないかもしれないと思っていたけど、どうやら試しておいて正解だったな」
ブレスに聖域結界や聖域鎧がそこまで効果がないと分かっていた俺には、既に残された道は一つしか残っていなかった。
フォレノワールが温存してくれた俺の魔力で、龍達の力を借りることにしたのだ。
「聖龍よ、我が身を守れ。風龍よ、全てから身を守る風の障壁を。雷龍よ、全てを置き去る力を」
四体とまともに斬り合っていたら、きついだろう。
そう判断した俺は一番近くにいた黄竜に向かって飛び掛かった。
まずは右前脚を斬りつけ、その勢いのまま右腹に幻想剣を突き刺すと左脇腹まで一気に駆け抜ける。
そして飛び上がって背に乗ると、こちらへ振り返ろうとする黄竜の後ろ首を斬りつけた。
そこで龍の力を一旦解除し、再び身体強化に発動させた瞬間、黄竜の断末魔が響き渡った。
完全に首を打ち落とせてなかったけど、黄竜の命はこれで直ぐに尽きるだろう。
俺は赤竜と灰竜の前に被るような位置取りをしていた青竜を次の標的にして駆ける。
もはや迷いはなかった。
師匠達が強くなるぐらいなら、俺が強くなる方がいいと信じて。
しかしここでまたもや誤算が起きた。
黄竜の断末魔を聞き、全ての竜とその眷属の視線が俺へと集中してしまったのだ。
その隙を見逃さずにバザックはエレンメンタルフォースランス? を赤竜と灰竜に発動させ、二竜の顔にヒットさせていた。
そして師匠やライオネルも、竜達が放ったブレスのおかげ? なのか、竜達の直線状に魔物がいないことを確認すると走って近づいて来る。
「……心を惑わされるな。今は青竜と向き合え」
吹雪を思わせるブレスを放ってくる青竜を見つめながら、俺は呟くと身体強化のみで戦うことを選択した。
青竜のブレスは確かに強力だけど、俺の装備は聖龍で出来ているため凍ってしまうことはない。
その判断で突っ込むと、かなり顔が冷たく息をするのもきつかった。
幸い数秒のことなので今度は何か対策をしようと思いながら、青竜との近接戦に挑む。
尻尾を除いた全長は七メートル程で、胴幅は三~四メートル程だろう。
攻撃は噛みつき、ブレス、引っ掻きに尻尾……昔はその尻尾でやられて、最悪の状況に陥る寸前だった。
そのことを思い出しながら右前脚を斬りつけると、昔よりも魔力量が上がっているからなのか、相当深く斬りつけることが出来た。
深く斬りつけることが出来たからなのか、それとも竜の性格なのか、青竜は尻尾での攻撃よりも噛みつくことを選択したようで、こちらへ噛みついてくるのが
青竜が噛みついてきたところを、俺は右前脚の内側を足裏で蹴ると、その反動で左前脚まで飛んだ。
さらに飛んだ先にある左前脚の内側を蹴って、今度は青竜の首へ向かって飛ぶと、炎龍の魔力をたっぷり注いだ炎龍剣を叩き込むことに成功した。
その次の瞬間、青竜の首に炎龍が食らいつき、青竜の首を焼き落としていった。
「二匹目!!」
直ぐに残りの竜へと視線を向けると、バザックの魔法で赤龍も灰竜も顔と喉元から煙を上げていて、ブレスを吐くことが出来ずにいた。
さらに赤竜と灰竜の眼をライオネルが神槍無突で突き刺していた。
師匠は中々斬っても深い傷はつけられていなかったけど、それでも傷をつけることには成功していた。
師匠と視線が合うと“早く倒せ”と言っているみたいで、師匠が己に課したミッションをやり遂げていることを知る。
強力な魔法が無くても、神槍なんて強力な武器が無くても、師匠の一つ一つの目的を完遂していく力が既に……。
師匠の弟子であることが誇らしいけど、模擬戦はしたくないなぁ。
そんなことを思いながら、俺は龍の力を使って灰竜、赤竜の順番倒していった。
魔力もだいぶ消耗してしまったけど、師匠とライオネルがレベルアップしたのを確認したところで、念のためにエクストラヒールを発動した。
「ルシエル、あの竜を全部一人で倒す気でいただろ? うん?」
「……気のせいですって。それよりレベルがまた少し戻りましたね」
何で人の心が読めるんですかね? 師匠のレベルが上がって来ると危機感が半端じゃないし……。
「ああ、これで少しは速く動けるようになったな」
「ルシエル様、竜の解体と回収はここでされますか?」
同じく身体に力が漲っているのだろうライオネルは、とてもいい笑顔で竜達の後処理について聞いてきた。
「う~ん、回収だけにしよう。竜達が未開の森へと侵入しなかったことも気になるし……」
「じゃあ俺の魔法袋にはほとんど何も入っていないから、こっちに入れるぞ」
「はい」
「賢者ルシエル、悠長にしているが、あの娘っ子達の助太刀はしないのか?」
バザックの言葉で竜の眷属達と戦っている戦乙女聖騎士隊とナディア、リディア、エスティアの姿が見えた。
「問題ないさ。強い魔物は既に全部倒したんだから。俺は翼竜の回収をするから、二人は魔物と戦っていてもいいし、自由にしてくれて構わない」
俺はそう告げて翼竜の回収へと向かって、回収し始めた時だった。
「グォオオオオオ」
そんな声を上げた黄竜が師匠に襲い掛かったのだ。
黄竜がまだ生きていたことにも驚いたけど、師匠は獰猛な笑みを浮かべ、黄竜の攻撃を奥義ですり抜けると、首に一太刀浴びせてこちらを向いて声を上げた。
「ルシエル、詰めが甘いぞ。おかげで竜殺しになってしまったぞ。はっはっは」
豪快に笑う後ろで黄竜が今度こそ、その生命を終えて倒れた。
「は、ははっ、」
本当に何をやっているんだよ……師匠が竜殺しになってさらに強化されてしまった。
それから全ての魔物を倒し終えた俺達は、全ての魔物を回収することは不可能だと判断して、それを魔通玉でドランに伝えると、ポーラとリシアンが飛行艇から出て来た。
ポーラゴーレムで深い穴を掘り、魔石を回収した数多の魔物をその穴へ落としていき、最後に俺が聖域円環で浄化して、ようやく落ち着いた頃には既に日が少し傾いていた。
「慌てても仕方ないので、遅くなりましたけど今から昼食にしましょう」
すると皆、この提案には賛成だったみたいで、久しぶりのバーベキューを楽しみながら、率先して動く戦乙女聖騎士隊を見て、懐かしさを感じるのだった。
お読みいただきありがとう御座います。
師匠への
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