301 未開の森の先……
精霊化したフォレノワールの背に跨り、飛行艇の上部へと移動する。
『まだ見えないし、竜の魔力も感じないわ。それにしても竜種相手だと全く怯まないのは何故なのかしら?』
「たぶん称号の恩恵なんだと思う。実際、戦っていると相手の攻撃が少しだけ遅く見えて、こちらも素早く動ける感じがするんだ」
『精霊には称号がないから分からないけど、面白そうね』
……フォレノワールだったら、直ぐに竜殺しになれると思う。
その言葉はちゃんと言葉になる前に飲み込んだ。
「まぁ竜種と戦うのはいいけど、出来れば森が切れたところで戦いたいところだな。じゃないと森に入って回収することになりそうだからな」
『そうね。この森はエルフ族が住んでいるみたいだけど、魔物もほとんど手つかずの状態の筈だから、竜種より強くなくても、竜種より厄介な魔物がいるかも知れないわね』
純粋な戦闘力なら何とかなるけど、そうじゃなければ色々苦労するだろうし、時間を取られそうだからな。
「先行するして索敵するか?」
俺のスキルでは届かなくても、フォレノワールの索敵能力はとても広いからな。
『この森を越えるか、竜種を補足した時でいいと思うわ。先行したとしてもしなくても、私達以外は飛行出来ないんだから、そこまでは変わらないわ』
「いや、飛行艇に近づけさせなくすることは出来るだろ? 無いとは思うけど、副砲の脅威をあるし……」
『戦闘に絶対はないけど、空中戦で私と戦えるのは龍種だけよ』
……竜ではなく、龍なんだろうな。
「そうか。じゃあ索敵に引っ掛かったら頼むよ相棒」
『任せて……って、早速引っ掛かったわ。リディアには念話を送ったから、このまま行けるわよ』
「ははっ準備がいいな。じゃあ行きますか」
俺は幻想剣ではなく聖龍の槍を取り出してから、軽くフォレノワールの腹を蹴ると、飛行艇の上を一気に駆けて空へと舞い上がった。
フォレノワールは撃ち出された弾丸のように、グングンと勢いを増していき、あっという間に飛行艇を置き去りにしてしまう。
『ルシエル、見えたわ』
「えっと、ああ見えたな。そして森の終着もな」
俺は一度目を瞑り深呼吸をして心を落ち着けてから目を開けると、既にフォレノワールが五つの魔法陣を紡いでいた。
標的は未開の森の終着地点におり、こちらへ寄って来ようとはしていないので、もしかするとこちらに来れない理由でもあるのかもしれないな。
そんなことを考えたところで、フォレノワールさらに加速して、五つの魔法陣からレーザービーム光線を発動させた。
綺麗に伸びていく光の筋を見つめながら、どれくらいの竜と戦うことになるのか気を引き締めていく。
フォレノワールのレーザー光線は一度だけでなく、何度も放出され翼竜を次々に撃ち落としていく。
これは楽勝かもしれないと思ったところで、レーザー光線で撃ち落とせない個体が数匹現れ始めたのだった。
『人に飼われて弱体化した翼竜とは違うってことかしら? 面白いわ』
そんなフォレノワールの声が聞こえて間もなく、俺達はついに未開の森の上空から抜け出したのだった……しかしそれを待っていたかのように、下方から炎、氷、雷、石のブレスがこちらへ向けて飛んできた。
フォレノワールはその待ち伏せを読んでいたようで、全てのブレスを躱していくけど、念のためにエリアバリアを張って様子を見ることした。
『想定よりも数が多いわね。ルシエル、下の竜種って、一人で倒せるかしら?』
「……あの蠢くような大小入り混じった竜種をですか?」
下を見れば赤、青、黄、灰色の大型の竜種から、大蛇やコモドドラゴン、リザードマン等の小型魔物か群れていた。
さすがに無理をしてまであれに突っ込みたくなかった。
『ええ、私はあの一回の攻撃を防ぎきっただけで、勝ち誇った顔をしている竜達と少し激し闘いになると思うから』
完全にスイッチが入っちゃってるけど……あれらと戦うには全力を出す必要があるし、万が一がある。
「悪いけど無理だ。戦えるかどうかなら戦えるけど、きっと一人で戦うと直ぐに魔力切れになるだろう。万が一もあるしな」
『そう。それなら仕方ないわね』
フォレノワールは拍子抜けするほど、あっさりと俺の意見を了承した。
「いいのか?」
『ええ、でも悪いけど、しっかり捕まっていないと振り落としてしまうかもしれないから注意してね』
「……了解」
どうやらフォレノワールなりに気を使ってくれていたらしい。
その後、空を駆けるように竜達の上空までくると、追って来ようとした竜種へ、フォレノワールはバラバラに紡いでいた魔法陣を重ねていき、まるで飛行艇の主砲と見紛うレーザー光線を放った。
先程まで勝ち誇っていた特殊個体達は翼や顔を撃ち抜かれると、なすすべもなく力を失い自由落下し始めていく。
それでもまだまだ数の多い翼竜や空を飛ぶタイプの小さい竜からも攻撃は次々と飛んできて、さすがのフォレノワールでもいくつか被弾してしまう。
当然のように衝撃が走るが、ダメージはヒールでも十分治療可能なものだった。
そしてフォレノワールは強力な個体を全て地に落としたところで、話し掛けてきた。
『ルシエル、これで後は翼竜と小さい竜だけだから、任せていいかしら?』
「ああ、それよりも俺からの魔力供給をそんなに受けていないけど、大丈夫なのか?」
『ええ、精霊結晶の中にいたからね。でも、さすがにここからは魔力をもらわないと駄目かも……それで提案があるんだけど?』
「何?」
『これからは魔物の間を通過するから、攻撃は全て任せてもいいかしら?』
魔物の間を通り抜けるのは今までと変わらないはずだけど、きっとさらに近づいたところを倒せって言っていることが直ぐに分かった。
「……分かった。フォレノワールは今まで通り駆け抜けてくれ」
『お願いね』
「ああ」
フォレノワールはそれから滑るように魔物と魔物の間を通り抜け、俺は聖龍の槍に魔力を込めて、魔物へ一突き一突き丁寧に入れていく。
ただフォレノワールのあまりの速さに、聖龍の槍を突くのが間に合わないと感じても、相手が竜種だからなのか、一度も外すことなく攻撃を当てることは出来ていた。
下からこちらを見てブレスを吐こうとしている竜もいたけど、結局放つことはせずに雄叫びを上げるだけに留まっていた。
そして大半の翼竜を叩き落としたところで、飛行艇が森を抜けて低空飛行に入った。
フォレノワールが派手に動き回っていたので、飛行艇は竜達からは狙われることなく、少し離れた魔物がいないところで減速して、師匠達が地上へ下りたことを確認した。
「よし、じゃあ俺達も降りるか」
『翼竜達はどうするの?』
「魔力供給するから、撃ち落としてもらってもいいかな?」
『まぁこれだけ数を減らせば、そっちの方が早いかしら』
フォレノワールから納得した声が届くと、魔力が少しずつフォレノワールへと流れていく。
そして魔法陣を形成すると、レーザー光線を放ち、全ての翼竜を落下させることに成功した。
『合流するの?』
「ああ。師匠達がいるから問題はないと思うけど、さすがに数が数だからな」
『分かったわ』
フォレノワールは翼をはためかせて下降していくと、飛行艇に突っ込もうとしていた魔物へ再びのレーザー光線を浴びせたところで、大地へ降り立った。
「助かったよ。ここからは任せてくれ」
『ええ、少し疲れたから精霊結晶へ戻るわ』
「分かった、ありがとう」
『ふふっ』
フォレノワールはそう言って精霊結晶の中へと吸い込まれるように消えていく。
師匠達との距離は既に五十メートルもないので、ここで戦っておけば合流は出来るだろう。
未開の森の直ぐ側でブレスをしていた竜達が固まっていたことが唯一の救いだよな……。
そんなことを思いながら、魔法袋に聖龍の槍をしまって、代わりに幻想剣と盾を出した。
「じゃあ行きますかね」
俺は身体強化を発動させて、幻想剣へ魔力を流すと、近場にいる魔物へと斬り掛かるのだった。
お読みいただきありがとう御座います。
ついにこの日を迎えました。
是非、手に取っていただければ幸いです。