挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

13章 人類最強クラス集結

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
300/373

294 血を滾らせる戦闘狂達

 地下四階は一年前と同様に、整地された地面が広がっていた。

 ただ以前とは違い、四階をグルッと一周囲うように、三メートル程高さのある塀で囲われており、その上には観客席が設けてあったのだ。

 それは訓練を目的とした訓練場ではなく、戦うところを見せる為の謂わば闘技場の様相をしていた。


 俺は直ぐに事情を知っていそうなライオネルへと訊ねた。

「ライオネル、これは?」

「イエニスの街を守る警備隊から訓練を見て欲しいとの依頼を受け、また彼らも私達の訓練を見たいとの強い要望があったのです。そこで全体を見渡せるような環境をドラン殿に頼みました」

「なるほどな。それで皆の様子が分かるように闘技場のような観客席を設けたのか?」

 確かに指導するには全体が見えた方が指導しやすいだろうし、教会本部にある大訓練場も同じような作りだった。


「はい、現在では学校に通っている子供達も警護隊の訓練を見学に来たりしています。もちろん時間は事前に決めていますけどね」

「……」

 それはそうだろうな。訓練なら問題はないだろうけど、ライオネル達が本気で戦えば血だらけの姿を子供達が見せることになりかねない。

 そんなところを子供に見せるべきではないからな。


「観客席は大丈夫なのか?」

 観客席はあるものの、誤って魔法が飛んでいったら観客を守る為の防衛システムはなさそうだったのだ。


「はい。そこはドラン殿達がしっかりと物理攻撃、魔法攻撃を吸収させる特殊な魔法障壁を作ってくれました。もしよろしければ確認のために攻撃をしてもらっても構いませんよ」

 ライオネルがそこまで自信を持つならば、大丈夫なんだろう。

 でも、今回は少しだけ挑発に乗って、念の為にその防衛システムを試すことにした。


「ちょっと試すぞ」

 俺は幻想剣を取り出し、魔力を込めてから構えると、観客席へ向けて全力の炎龍剣を放った。


 すると馬並みの大きさとなった半透明の炎龍が発現し、唸るように大きな口を開け観客席へと喰らいついた……筈だった。


 しかし寸前で透明な壁のようなものが出現して、炎龍の行く手を阻み続け、炎龍は観客席に飛び込む前に消失していった。

 だけど壁の方もさすがに無傷とはいかなかったようで、透明な壁にはヒビを入れることが出来た。


「少しヒビが入ったけど、何度続けても平気なのか?」

「ええ、冒険者ギルドの訓練場にある結界を参考にして、それを強化したものらしく、魔力を供給することで、直ぐに傷は修復されるようです」

「それは凄いな」

 これだったら全力で戦闘が出来るだろう。

 幸いこの街には医療特区という場所があり、治癒士ギルドにはジョルドさんみたいな高レベルの治癒士がいるし、薬師ギルドも高性能ポーションを販売しているから、治療の問題はないしな。

 強くなるためにはいい環境だな。


「賢者ルシエル、私も試してみてもよいだろうか?」

 そう言って来たのはバザック氏だった。

 別に断る理由もないので、やらせてみることにした。


「ええ、どうぞ」

「それでは……【エレンメンタルフォースアロー】」

 バザック氏は俺からの了承を取ると、両腕を高々と上げて火、水、風、土の四属性の魔法玉を作り出した。


 それを魔力制御で一つの魔法へと収束させていき、弓を構えるような姿勢を取ると、魔法玉は矢の形に変形したところでバザック氏はそれを撃ち放った。

 魔法の矢は吸い込まれるように観客席へと飛んでいったが、やはり魔法障壁によって止められた。

 そこで魔法の矢は爆発したのだが、魔法障壁を越えることも、ヒビを入れることはなかった。


 凄い威力だったけど、改めて龍剣の凄さを思い知ることにもなった。あれは普通の人に向けていいものではないな。


「私の最強魔法でも傷一つ入らない訓練場を人の手で作り上げるなんて素晴らしい。ここでならいつでも全力で魔法の訓練が出来る」

 それにしてもバザック氏はとても嬉しそうだった。


 確かに魔法の訓練は強力な魔法であればあるほど場所を選ぶ。

 誰にも邪魔をされないような訓練場所は迷宮ぐらいだけど、それだって他の冒険者達の邪魔になることは十分に考えられることだ。

 ここなら三階へは響かないように防音効果もあるし、魔法の訓練には確かに最適な場所かもしれないな。


 そんなことを思いながら、何故か先程から嫌な感じがしてきているので、地上へ戻ることを提案した。

「これで見学会は終わりですね。じゃああとは明日に向けての準備もあるでしょうし、部屋の準備もありますから、夕食の時間までは好きに過ごしてください。ナーリア、皆の案内をお願いするよ」


「畏まりました。それでは皆様の案内をさせていただきます」

 ナーリアはそう言って階段へと向かい始めた。


 どうやら嫌な感じは気のせいだったみたいだ……そう思わせて欲しかった。


 師匠が俺の肩を掴みながら、ゆっくりと口を開いた。

「ルシエル、この訓練場というか、闘技場で戦鬼と模擬戦をしていたのだろう?」

 いきなり腕を切り落とされたりもしたけど、ここではメラトニとはまた違った訓練だったな。


「そうですね。イエニスへ来た時期はメラトニとは違って、本当に暗殺者から狙われたこともありましたから、鍛えることで、少しだけでも安心が欲しかったんでしょう。さぁ師匠、上で話しましょう」

「いや、今日はまだ身体を動かしていないからな。それにちょうど見学も終わったし、ちょっと付き合え」

 師匠は師匠だった。


「……昨日、あれだけ模擬戦しましたよね?」

「昨日は昨日だ。鍛錬は毎日しなくてはいけないってことは身に染みて分かっているだろ?」

 師匠の言っていることが間違っていないだけに反論は出来ない。

 それでも英気を養いたい日が俺にだってある。


 ここは断固拒否をしよう。そう思っていたのに、横からライオネルが口を挟んできた。


「それならば私も昨日は消化不良だったので、お付き合いしましょう。少し前に二対一で戦った時も私は見せ場を作れませんでしたから」

「いや、ライオネルはナーリアの傍にいた方がいいだろ」

 しかもまた一対二で戦おうとしているところがおかしい。


「ナーリアとは夜に時間を作ります。それよりもルシエル様は、徐々に龍の力を使いこなされていますから、ちょうどいい訓練相手になります」

「ルシエル様、ライオネル様のことをお願いします」

 ナーリアは振り返って頭を下げた。ライオネルに尽くし過ぎだよ。


「ルシエル君、それならば私達は今回見学をさせてもらう。どれほどの訓練をしているのか、見せてもらえるかな」

 ルミナさん達は武具が修理中だったから見学を選んだようだが、既に模擬戦をやる前提で話が進んでいた。

 もうこうなったら模擬戦は回避出来ないのだろうか?


「回復魔法があるから、心置きなく全力が出せるな」

 師匠は模擬戦をする流れに満足そうに頷く。

 しかしそっちがその気なら、俺にも考えがある。


「ルシエル様、私とリディアでは、皆様の足手まといになるので、見学をさせていただきます」

「ルシエル様、頑張ってください」

 二人が戦闘を回避するのはいいけど……そうなると、やはり師匠とライオネルとの模擬戦か。


「分かりました。それなら勝敗がつくごとに負けた方が物体Xを飲むことにしましょう」

 いつまでも師匠の掌で転がされている訳にはいかない。

 昨日で大体お互いの手の内は見せ合った。

 物体Xを飲ませていけば、師匠もそのうち諦めてくれるだろう……もちろんライオネルもだ。


「師匠と訓練する時はいつも飲んでいましたからね」

 俺が笑うと、既にケティやケフィンはナーリアと一緒に退避を始めていた。


「な、んだと!? 正気かルシエル」

 師匠は驚きのあまり目を見開いた。


「……まさか俺と戦鬼を相手に、それだけの自信があるとはな」

「えっ二人?」

 俺が問うと、師匠は目を逸らした。

 物体Xはどうやら飲みたくないらしい。


 そんなやりとりの中、ここでライオネルが耳を疑う発言をした。

「……まぁ確かにルシエル様が龍の力を使うのなら、我ら二人では足りませんか。それならば〝深淵”が入ればちょうどいいでしょうか」

「む、私か?」

 ライオネルの考えはおかしかった。

 そしてバザック氏も何故か乗り気になってしまう。


「いや、色々とおかしいですって。さっきまでは一対一の流れだったじゃないですか~」

「あ~もう、ごちゃごちゃ言うな。弟子が師匠に歯向かうなら、それ相応の覚悟を見せるべきだ。そういうことだから、早速始めるぞ」

「師匠、それは逆ギレって言うんですよ」

「ルシエル様。いざ尋常に」

「賢者の力、試させていただく」

 しかしライオネルとバザック氏……バザックは戦闘準備を既に整えていた。


 こうして色々と納得出来ないうちに、俺の絶対に負けられない戦いが幕を開けるのだった。


お読みいただきありがとうございます。

聖者無双の発売が一週間後に迫ってきましたが、どうやら聖者無双のお知らせが一つ増えそうです。

詳細はまた後日ですw

i349488
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。