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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

13章 人類最強クラス集結

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292 それぞれの一年間

 食堂に用意された食事は、グルガーさんが作ってくれる美味しい料理と比べても遜色ないように思えた。

 だからこそ安心して食べられる分、こちらで用意してもらった方が美味しく感じた。


「一年前よりとても美味しいと思う」

「ありがとう御座います。でもそれは何もかもルシエル様のおかげです。ルシエル様が環境を整えてくださったから、私達の今があるのですから」

 俺は本当に基礎だけにしか関わっていないから、ナーリア達が凄いのだ。


「皆が努力してくれたからだと思うよ。やらない人は環境が整っていてもやらないから……」

「ルシエル君、この家ではいつもこれだけの料理が出るの?」

「えっと?」

 キャッシーさんの問いに、この屋敷に住んでいない俺は答えられないので、視線をナーリアへと向けた。


「はい。ルシエル様が置いていって下さった魔道具で料理がしやすく、また工場内で新鮮な野菜や果物も集荷されてきますので、料理に掛かる費用は私達の人件費ぐらいでしょうか?」

 まぁ肉以外は確かにこの地下にある工場で育てられる環境もあるしな。

 それは後で見てもらえば分かるか……それにしても見た目おっとりのキャッシーさんが一番食への食いつきが強いとは……。


「ルシエル商会の人件費とは如何ほどなんですの?」

 エリザベスさんが窺うように聞いてきたが、残念ながら俺は知らない。


 そこでナーリアさんが代わって答えてくれた。

「……ルシエル商会の会計は全て狐獣人のフォレンスさんがされていますが、月の最低賃金が銀貨十枚前後だったはずです」


「安ッ!? ルシエル君、どうなっているの?」

 マルルカさんの表情は少しだけ怒っているようにも思えたが、銀貨十枚前後というのは確か一般的には普通の賃金だと思ったのだけど……。

 きっと開発費は一人頭ウン百倍の資金を投じているだろうし……。

 ただずっと名誉会長みたいなポジションにいるから何とも言えないな。

 全てが終わったら一度チェックしないと、教皇様のことを言えなくなってしまう。


「俺は本当にノータッチだけど、フォレンスさんはいるかな?」

「もちろんですとも! ルシエル様、お久しぶりで御座います。様々な武勇でルシエル商会を宣伝していただきありがとう御座います」

 いきなり出てくるとは……かなり驚いたが、メイド達の後ろに隠れていたんだろう。


「……宣伝しているつもりはないが、それよりも雇用賃金についての説明をお願いしても?」

「畏まりました。ルシエル商会で働く全ての従業員は住居、衣服、食事の全てが無料で提供されています」

「なっ!? そんなことをしてルシエル商会は商いが続けられるんか!?」

 ガネットさんが驚きと声を上げた。


「また怪我を負った場合も治療特区での治療費も商会持ちになっており、週休二日制を導入しております。それと休日に冒険者をしていただいても全く構いません」

 フォレントさんはそのまま説明を続けた。


「そうなると月の三分の一が休みで、月に銀貨十枚が丸々貯まっていくけど……それって結構凄くない?」

「はい。ルシエル商会は去るものは追わず、来るものについてもしっかりと面談させていただきますが、福利厚生はしっかりと魅力的ものにさせていただいており、不満が出たことは一度もありません」

 フォレンスさんのドヤ顔が見え隠れしているように思えた。

 説明を聞いたマルルカさんは何処か納得している様子だった。


「フォレンスさん、これから俺達はイエニス学校を視察してきます。それが終わったら工場の案内をお願いしても?」

「畏まりました。それでは準備をさせていただきます」

 何の準備だろう? そう思ったけど、フォレンスさんに任せることにした。


 その後、俺達はナーリアの案内のもと、イエニス学校へと向かったのだが、俺はここにも転生者がいたことをスッカリと忘れていた……。



 現在イエニス学校では五歳~十歳、十一歳~十五歳までの二クラスで文字の読み書き、四則計算、地理、武術訓練、魔法訓練、それ以上の高等教育が出来るようになっていた。

 まだ小さい子達は落ち着きなさそうだったけど、成人に近い年齢程しっかりと授業を受けているようだった。


「皆がルシエル商会に入るか、冒険者として大成したいと思っていますから、遊ぼうとする子はいませんね」

 ナーリアはそう言いながら授業風景を案内してくれていた。


 ナーリアは子供達から人気があるようだったけど、何故か俺の顔も知られていた。

「一度だけしか挨拶をしていなかったと思うけど?」

「ふふっ、ルシエル様の石像が各場所に固定化されていますからね」

「せ、石像? 何で俺の石像が?」

 そんなことを頼んでいないし、そもそも色々したことは覚えているけど、恨みだって相当数買っているだろう。


「はい、ルシエル様はイエニスの平和の象徴ですから」

「いや、結構引っ掻き回してしまったと思うんだけど?」

「確かに奴隷になった獣人族は多くいましたが、明日の食事を心配することもなく、家族揃って明日を迎えられることに感謝している者達が多いのです」

 そうなんだろうか? だけどそれは奴隷にならなかった家族達だけなのではないだろうか? 

 ナーリアの説明を受けながら、本当にそれだけの理由で……そんなことが頭に残っていた。


 そこへ……女の子が駆け寄ってくるのが見えた。

「治癒士のお兄ちゃ~ん」

 中々のスピードで抱きついてきたのはシーラちゃんだった。

 彼女の父であるオルガさんも確かガルバさんの奴隷になっていた筈だ。


「やぁシーラちゃん。元気だったかな?」

「うん、元気だったよ。お兄ちゃんは?」

「う~ん、今は元気だよ」

 シーラちゃんは前と同じく笑顔のままだったけど、オルガさんのことがあるから、すっかり嫌われていると思っていたんだけど……。


「そっかぁ~。イエニスに帰ってきたの?」

「いや、今回は立ち寄っただけだよ。それより学校は楽しいかな?」

「うん。皆と一緒に勉強したり、遊べたりするから好き」

 どうやら学校は受け入れられているみたいだ。


「そっかぁ~。シーラちゃん、お父さんのことだけど……」

「パパ? また何か悪いことしたの?」

 シーラちゃんの笑顔が一瞬で曇ってしまった。


「いや、していないけど、結構な人が奴隷にされちゃったから、俺のことを恨んでいるんじゃないかと思ってね」

「ううん。お兄ちゃんが悪いことをしたんじゃないって知っているから、きっと誰も恨んでいないと思う。私も違うよ」

 俺がした質問にホッとした感じのシーラちゃんはそう答えてくれた。


「どうしてだい?」

「お兄ちゃんがイエニスに来てから皆に笑顔が増えたもん。ご飯もお腹いっぱい食べられるし、服やお家だって作ってくれた。それに学校にも通えるし……それにパパが言っていたの」

「なんてだい?」

「もしあの時にお兄ちゃんがイエニスへ来ていなかったら、もっともっと大変なことになっていたし、イエニスも無くなっていただろうって……」

 帝国との関係があったから、それも間違ってはいないけど……今だったらもっとうまく出来たと思うのは俺のエゴなんだろうな。


「そっか、ありがとうシーラちゃん」

「ううん。お兄ちゃんはいつも皆の為に戦ってくれているんでしょう? だからありがとう」

 俺はシーラちゃんの頭を優しく撫でるのだった。

 それからナーリアやシーラちゃんを交えながら、イエニス学校の視察が終わろうとしていた。

 師匠を始め戦乙女聖騎士隊も満足している様子だった。

 中でもルーシィーがナーリアに色々質問していて、楽しそうにしていた。



 そしてこの時、帝国で飛行艇に乗ってからひと言も喋らなかったバザック氏が口を開いた。

「ルシエル様、奴隷契約していただいても構いません。私も貴方の従者、それが駄目ならルシエル商会で働かせていただけないでしょうか?」

「えっと、どうしてでしょうか?」

 俺は出来ればバザック氏にイエニス学校で魔法を教える教員にしたかったので、渡りに船だった。

 だが、ちゃんと最後まで理由を聞くことにした。


「正直、私は貴方がただ治癒士として特異な才能があり、賢者に成れただけの人物だと思っていました。私の方が賢者に相応しいとも……ですが、それは大きな誤りだった」

「実際、俺は運と少しの努力しかしていませんよ?」

「いえ、貴方の行く先々では常に笑顔があり、未来へ生きる力強さと絆がある。どれも私が求め、得られなかったものです」

 バザック氏には哀愁が漂っていた。

 一応師匠とライオネルの確認を取ってからにしよう。


「バザックさんの気持ちは分かりました。ですがその件はまた後で……夕食後に話をしましょう」

 そして見学を終えようとした時だった。


「ルシエル様、助けてください」

 イエニスでは聞かないと思っていた助けを呼ぶ声が聞こえてきた。

「待たれよクレシア殿、おおっ! そこに居られるのは賢者ルシエル殿ではないか、待たれよ、いや待ってください」

 そう叫んでハーフエルフのクレシアを追いながら、こっちに駆けてくる黒装束を視界に捉えてしまった……。


お読みいただきありがとう御座います。

聖者無双の一巻発売まで十日……部屋のエアコンが……。

今年は電化製品が壊れる年のようです。

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