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【社説】

木村一基新王位 「おじさん」はがんばった

 将棋の王位戦七番勝負の第七局で、木村一基九段が豊島将之王位(29)=名人=に勝ち、自身初のタイトルを獲得した。今年四十六歳の自称「おじさん」棋士が、七度目の挑戦でついに得た栄冠だ。

 有吉道夫九段(84)が持っていた初タイトル獲得の最年長記録(三十七歳)を大幅に更新した木村新王位。相手の攻めを粘り強く受ける戦いが身上だ。東京の将棋会館の住所にちなむ「千駄ケ谷の受け師」の異名で人気を集める。

 これまでタイトル戦の挑戦手合には六回出たが、いずれも一歩及ばない。特に王位戦では二〇〇九年、第一局から三連勝で初タイトルへあと一勝としながら、深浦康市王位(当時)に四連敗で屈した。

 棋士の序列を決める「順位戦」でも一一年、最高のA級からB級1組に降級。十歳も二十歳も若い世代が次々にタイトルを獲得する中で、厳しい戦いが続いた。

 だが「千駄ケ谷の受け師」は、簡単には土俵を割らない。

 今年はA級へ復帰し、王位戦では新鋭や第一人者の羽生善治九段(49)らを破って挑戦者となる。さらに王位戦七番勝負と同時進行の竜王戦挑戦者決定戦(三番勝負)にも進出した。どちらも相手は若手トップの豊島前王位。二つを合わせてファンが「夏の十番勝負」と注目する連戦に臨んだのだ。

 対戦前の予想は「豊島有利」。実際に、七月から始まった王位戦で木村新王位は第一局、第二局と連敗する。八月からの竜王戦の挑戦者決定戦も、一勝二敗で挑戦権を逃した。だが王位戦では第三、第四局を連勝して盛り返した。

 三勝三敗で迎えた二十五日からの第七局では、豊島前王位の鋭い攻めをしのいで勝利。苦境を克服した「おじさん」のがんばりは、ファンに大きな感銘を与えた。

 囲碁界でも八月、四十三歳の羽根直樹九段が二十一歳の許家元碁聖から碁聖位を奪取。八年ぶりに七大タイトルの保持者となった。二人に、そして自分自身にも「まだやれるよ」と言いたくなった人は、同世代にも、より年配の世代にもきっといるだろう。

 タイトルは取るのも難しいが、守るのも至難となる。木村新王位と羽根新碁聖には、ぜひ来年の防衛を目指してほしい。また惜しくも失冠した豊島前王位をはじめ、高校生プロの藤井聡太七段(17)や羽根新碁聖の三女の彩夏初段(17)ら将棋界・囲碁界の若手たちは二人の戦いにしっかり学び「打倒!おじさん」を果たしてほしい。

 

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