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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

13章 人類最強クラス集結

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285 初勝利

 俺が合図を出すと、まずはリディアが精霊魔法で空中に氷柱を増やしていき、今まで中央だけを狙っていた攻撃から、ケティとケフィンを援護するように両サイドにも攻撃を仕掛けた。


 それを見てから俺とナディアは、身体強化を使ってマルルカさんとガネットさんへと迫る。しかし、そうはさせまいとキャッシーさん、クイーナさん、マイラさんの三人が中央の陣形を崩し、俺達の前に立ち立ちはだかった。

 しかも俺にキャッシーさんとクイーナさんは二人掛かりで対応し、ナディアに向かっていったのはマイラさんだけだった。


「俺相手に二人掛かりですか?」

「厄介な治癒魔法と防衛魔法を先に潰すのが、もっとも戦術的に重要」

「だから早めにリタイヤしてほしいの」

 キャッシーさんとクイーナさんはそう言葉を口にしたけど、無理に攻めてこようとはせずに、がっちりと守りを固め、カウンター狙いのような戦いを選択したようだ。

 攻めて来ないならばと、俺は一度全体を確認することにした。


 マイラさんとナディアは直ぐにぶつかると、激しい攻防が繰り広げていた。


 リディアの精霊魔法はマルルカさんとガネットさんの対処が遅れ、リプネアさん、ベアリーチェさん、エリザベスさん、サランさんに向け攻撃が飛んでいた。

 しかし精霊魔法が来ることを予め想定していたかのように、四人はそれぞれケフィンとケティに詰め寄り、ケフィンやケティを盾にするように精霊魔法を回避し、その勢いで、連携しながらの連撃でケフィンとケティへと襲い掛かかっていた。

 だが、ケフィンとケティはそこで全力の身体強化を発動させた。


 ケフィンは斬られたと見せかけて、久しぶりに忍術を使っていたようで、その姿を一瞬にして消した。その動きに双剣のリプネアさんは驚き、一瞬の隙を作ってしまった。ケフィンはその隙を見逃さずに、彼女立の連携を破るため、リプネアさんを精霊魔法の範囲まで蹴り飛ばし、ベアリーチェさんへとさらに間合いを詰めていった。

 槍ではもうケフィンの対処は不可能だろ。


 俺はケティへ視線を向けると、ケティが珍しく攻めあぐねていた。

 いや、エリザベスさんとサランさんがケティに何かを喋り掛けていて、それによってケティが集中出来ていないみたいだ。

 それにエリザベスさんの混合魔法の幻を何度も斬らされて、ケティはあまり冷静に戦えていないみたいだ。


 それでもケティはその場から後方に跳ぶと、地面を剣で抉り出すと土をエリザベスさんとサランに飛ばし当て、それと同時に最高速度でエリザベスさんを斬りつけに掛かった。しかしサランさんがその間に割って入り、ケティの攻撃を止めようとしたが、弾き飛ばされ、こちらも精霊魔法の範囲まで転がされた。


 マルルカさんとガネットさんは魔力量がそろそろ頭打ちらしく、弾き飛ばされてきた二人に合図を送ると、リディアに向かって走り出した――そこまで見て、俺も自分のことに集中する。

「攻めて来ないなら、こちらから行かせてもらいます」


 幻想剣を左手で握りしめ、キャッシーさんの影となる位置でクイーナさんへ接近すると、牽制で突き出してきたレイピアを弾きながら、聖龍の槍を魔法袋から右手に取り出し、がら空きとなっているクイーナさんの胴へ払いを入れる。

 当然キャッシーさんも俺に攻撃を仕掛けてきていたけど、幻想剣で致命傷を避けるように攻撃を受け流して、あとは力の限り聖龍の槍をフルスイングしてクイーナさんとキャッシーの二人を吹き飛ばした。


 その直後、後方にいるリディアを目掛けて駆け出していたマルルカさんとガネットさんが、ドォオォンという音とともにリディアの風魔法によって、凄い勢いで回転しながら訓練場の端まで飛んで行った。

 そして隣で戦っているナディアも、マイラさんの薙刀に何度も攻撃を打ち下ろしていき、マイラさんの握力を奪ってから、両足の膝上を切り裂いた。


 ケフィンを見れば、どこで短槍へ持ち替えたのか分からないベアリーチェさんを打ち倒していたし、ケティもエリザベスさんの幻をようやく捉えたようで、終わってみれば完勝しているようだった。

 これで残りはケフィンとケティが吹き飛ばした、リプネアさんとサランさん、無傷のルーシィーさんとそのルーシィーさんに回復をしてもらったルミナさんだけだろう。


「リディアは負傷者及び全体の牽制、ケフィン、ケティは自分が弾き飛ばした者の相手を、ナディアはルミナさんを治療した聖騎士ルーシィーを頼む」

「「「「はっ(はい)」」」」


 俺の指示通り、皆は自分の相手へと向かっていく。

 そしてゆっくりとルミナさんに近づくと、向こうも訓練場のほぼ中央にいる俺へと近づいてきた。


「……前も強いとは思っていた。だけどあの時のままであれば、まだ善戦出来ると思っていた……まさか本気を出さないで、これだけ一方的にやられるなんて……」

 ルミナさんは実力の差をしっかりと認識しているようだった。


「諦めますか?」

「ふふっ。私は恋も戦いも諦めるのがとても苦手なんだ。劣勢なら勝てる方法を模索する。だからルシエル君を討ち取り、この戦いにまずは勝たせてもらう」

 ……その話題を今持ち出さなくても、俺は苦笑いを浮かべながら、過去の対戦を思い返していた。


「思えばルミナさんには、個人で勝ったことがなかったので、今日こそは勝たせてもらいますね。話は戦いが終わった後でいいでしょう。そうでなければ周りが終わってしまいすから」

「わかった。聖シュルール教会騎士団、戦乙女聖騎士隊隊長ルミナ参る」

 名乗りを上げるのは珍しいと思いながらもルミナさんに倣うことにする。

「それではルシエル商会会長ルシエル、受けて立ちます」

 一瞬だけルミナさんが笑った気がしたけど、次の瞬間には俺の首元にまで剣を伸ばしてきていた。


 アクセルブーストを発動したルミナさんを、昔は全く捉えることが出来なかった。

 しかし今はもう違う。

 雷龍の力を借りて高速移動を経験した俺には、ルミアさんの動きが見える。


 首を狙ったルミナさんの剣を俺は下から幻想剣で上に弾き、その勢いを利用して回し蹴りを放つ。しかしそれは回避されてしまった。

「もうアクセルブーストだけだと勝てないのか……ルシエル君、今から全力でいくから死なないでほしい」

「……元よりどんなことがあっても死ぬことはないですよ」

 それよりも奥の手か……出来れば正面から打ち破りたい。


「そうか。これが私の全力だ」

 ルミナさんは再びアクセルブーストを使い、凄まじい勢いで動いていく。

 しかもあの速さで直線だけでなく、自由に動き回ることが出来るなんて、本当に俺とは違って戦うセンスに恵まれたんだろうな。

 そんなことを思いながら、今一度気合を入れた時だった。


「ハッ」っと、ルミナさんが強く息を吐き出すと、言葉通りルミナさんの全力が俺に放たれた。

 ルミナさんは師匠やライオネルがグランドルの迷宮で使っていた飛ぶ斬撃をマスターして、俺に放ってきたのだった。


 しかも一撃だけでなく、高速移動しながらなので、四方八方から撃ち込まれていく。

 俺はこの時初めて幻想剣に魔力を通して、飛来する全ての斬撃を幻想剣で斬りにいった。


 幻想剣に斬られて威力が落ちた斬撃は、俺の鎧やローブを掠めるけど、エリアバリアのおかげもある傷つくことはなかった。

 このまま耐えれば勝てるだろう。

 そんな時に、黙って見ていた師匠とライオネルから、全力を出すサインが送られた。


 だから今回はルミナさんの土俵で勝負することを決めた。


「聖龍よ、我が身を守れ。風龍よ、全てから身を守る風の障壁を。雷龍よ、全てを置き去る力を」

 全ての音が引き伸ばされて、消えていく。

 地面を蹴ると直ぐにルミナさんを捉える。


 今までは雷龍の力を使った移動は速すぎて、身体に負担の掛かる急な制動が出来ず、直線的な動きしか出来なった。

 しかし今回はアクセルブーストに倣って、風の障壁で動いた時に生じる負担を軽減した為、自分の動きが高速になったとしても、普段通りの動きが出来るようになっている。

 俺はルミナさんが驚いた顔をした後に飛ばした最後の斬撃を払うと、苦笑したルミナさんが後方に吹き飛んでいった。


 そして全ての音が戻ってきた時、戦乙女聖騎士隊で立っている者は一人もいなかった。

「勝者、ルシエル商会」


 判定を受け、何の勝負をしていたか分からないと思いながらも、共に戦った皆に労らいの言葉を掛けて、まずは戦った戦乙女聖騎士隊の皆さんを回復させていくことにした。

 ただ一番重傷であるルミナさんから治療しようと駆け寄った時に問題が起こった。


「ルミナさん、大丈夫ですか?」

 俺は念のためエクストラヒールを発動させながら聞いてみる。


「ああ。ついにルシエル君に負けてしまったこと以外は……」

 その時だった。

 ピキィィインと甲高い音が鳴るとルミナさんの鎧に亀裂が入っていく。

 そして鎧が砕け落ちる寸前に、テンパった俺は叫んでいた。

「闇龍よ、全てから覆い隠せ」


 その瞬間、漆黒の闇に包まれた()とルミナさんだったけど、思っていた通り、鎧が砕け落ちて、ルミナさんの柔肌が現れてしまう。

 きっと小説や漫画ならじっと見ていることも許されるだろうけど、俺は直ぐに魔法袋から聖銀のローブを取り出すとルミナさんに渡した。

「ルミナさん、これを直ぐに纏ってください」

「ありがとう。でも出来れば、こちらを見ないでもらえると助かるんだけど……」

「あ、すみません」


 俺はルミナさんに背を向けて、この闇が晴れた後のことを考えると、師匠達が暴走するのではないかと、少し頭痛がしてくるのだった。

 こうして最後にハプニングが起こりながらも、何とか戦乙女聖騎士隊との模擬戦が終了したのだった。


お読みいただきありがとう御座います。

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