挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

13章 人類最強クラス集結

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
289/373

283 戦乙女聖騎士隊の使命

 聖シュルール協和国の中で一番力のある戦乙女聖騎士隊が何故、冒険者ギルドにいるのだろう?

「えっと、ルミナさん達が何故メラトニに? いや、それよりも冒険者ギルドにいるんですか?」


 ルミナさん達は食堂の入口で止まったまま、代表してルミナさんが口を開く。

「実は教皇様から、私達戦乙女聖騎士隊に“賢者ルシエルの師を無事にメラトニへ送り届けること、もし可能ならば、治癒士であれだけ強くなった秘密を探ること”という命令が出されたの」

 教皇様は一体どうしてそんな命令を出したんだ? 師匠の護衛は……百歩譲っても、俺の力のルーツがここだと知っているだろうに……。


「……そんな命令を出さなくても、師匠に丸二年鍛えてもらったからって、皆さん知っていますよね?」

「ええ。だからその他にも“戦乙女聖騎士隊は聖シュルール協和国だけでなく、魔族や魔王を打ち倒せる力を身に付けること”という命令も一緒に出たのよ」

 何て命令を出すんだろうか? しかも彼女達は聖シュルール協和国の最高戦力なのに、どうして自ら遠ざける真似をしたんだ? 


「戦乙女聖騎士隊が聖都から抜けて、聖シュルール教会本部は大丈夫何ですか?」

「ええ。足並みを揃えるためには、逆に我らがいると改革の邪魔になってしまうらしくて……。だからこの任が終われば、世界各地を回って治癒士支部がまともな運営をしているかどうか調査でもしようと思っていたところだったの」

 だった? ああ、だから同行したいってことか。

 それにしても師匠が説明を面倒臭がった理由も一応理解出来た。

 師匠は護衛されたという事実を隠したかったのだろう。

 ライオネルが師匠のことを面白そうに見ているしな。


「じゃあ地下の訓練場に人が集まっているっていうのは、ルミナさん達がいたからなんですね? いつもは師匠がポツンと一人でいるか、冒険者達を鍛える為に地下へ連れ込んでいるのだから、おかしいと思いましたよ……痛ッ」

 スパァーンと背中を師匠に叩かれた。

「好き勝手言いやがって」

「あ、師匠復活しましたか」

「……何とかな。俺はあれを平気で飲むようなぶっ飛んだ変態じゃないからな」

「まるで俺があれを飲んでも平気で、ぶっ飛んだ変態みたいじゃないですか。心外ですよ。不味いし、臭いし飲んで愉悦を浮かべている訳でもないのに」

「おい、それよりもこの臭いは何とかならないか?」

「えっ? あ、じゃあピュリフィケイション」

 師匠と念のため自分にもピュリフィケイションを発動させると、効果覿面(こうかてきめん)だったことは師匠の顔を見ていて分かった。


「さすがだ。あれを人が絶する年月飲んできただけはあるな」

「変なところで感動しないでくださいよ」

 すると戦乙女聖騎士隊がぞろぞろと食堂へと入ってきた……もしかして物体Xの臭いを気にしていたのか?


「師匠、彼女達は物体Xを臭いを嗅いだことがあるんですか? それとも飲んだんですか?」

「……俺の口からは何も言えない誓約をさせられた」

 師匠はそう遠い目をして語った。

 師匠に誓約させるとか、どんな迫り方をしたんだ? でも、これでルミナさん達が物体Xを正確に把握していることだけは分かった。


「それでルシエル君、私達も同行したいのだがいいだろうか?」

「う~ん、実力を見てからですね。確かにルミナさんを始めとした皆さんが強いことは知っています。でもこれから行くところは集団と個の力の両方が必要になります」

 そもそも現在の戦乙女聖騎士隊の実力自体を良く知らないのだ。

 まだ教会本部にいた時は良く訓練をしてもらっていたけど、あの時と比べてもそれほど強くなっていないなら連れていくことが出来ない。

 偉そうなことを言っていることも分かっているけど、戦おうとしている相手が竜種になるのだから仕方がない。


「それではどうすれば同行を認めてもらえるだろうか?」

「集団戦闘でもしてみましょうか。ジャッジはライオネルと師匠にお願いします。戦乙女聖騎士隊対俺、ケフィン、ケティ、ナディア、リディアでどうでしょう?」

「……それは私達の実力を侮っているのか?」

 まぁ人数が半分だからそう思うのは当然だろうな……。


「いえ、たぶんこの面子なら、戦乙女聖騎士団を除く聖都の騎士団を壊滅出来ると思います。ライオネルや師匠を入れないのは、正確に竜と戦う力があるかどうかを見極めてもらいたいからです」

 本当にそれだけの力があると思っている。

 ケフィン達には勝手に決めて悪いと思うけど、ケフィンやケティもレベルが上がってからは戦乙女聖騎士隊と戦っていなかったから、今の実力が分かるだろう。


「……分かった。だけど勝敗で判断してもらっても?」

「ええ。それが単純(シンプル)ですからね。久しぶりにルミナさんと戦うことになりますが、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 ルミナさんの目には炎が宿っているように感じた。


「ちぃ、今回は審判(ジャッジ)か」

 師匠はつまらなそうに舌打ちをしたけど、模擬戦は反対ではないみたいだ。


「ルシエル様、そうなるとメラトニで一泊することになるのですか?」

「う~ん、まぁそうなるかな。夜間飛行は危ない気もするし……」

「それなら仕方ありませね」

 そういえばいきなりイエニスから呼び出して半月にもなるんだな。


「ライオネルはナーリアのこともあるからイエニスに向かいたかっただろうけど……すまない」

「いえ、戦力として数を揃えられるならば致し方ないでしょう。それでは宿を取らないといけませんね」

 もう本当に従者の鏡だよ。

 何かで報いることを考えておこう。


「それなら俺が取ってきてやる。ルシエル達はまず先に食べておけ」

「師匠ありがとう御座います」

「当然、ルシエルは地下に泊まってもらうぞ」

 あ、この笑顔は満足がいくまで戦わせる気だ……。

 しかしその提案を断ることは俺には出来なかった。



「それでは私達は先に下で作戦を立てさせてもらう」

「ええ。小一時間で訓練場に向かいます」

「それではまたあとで……」

 ルミナさんはそう告げると、食堂入口へ向かったのだが、ルーシィーさんとエリザベスさんはまだ用があったのか、こちらへと近づいて来た。


「ルシエル……様、前に助けてくれた時にお礼を言えませんでした。あの時は救っていただきありがとう御座いました」

「ルシエル様、意識も身体も魔族となってしまうところを救っていただきありがとう御座いました」

 二人とも賢者になった俺との接し方に戸惑っているように見えた。


「一応聖シュルール教会本部からは離れている身ですので、二人より階級が上という事もないので、今まで通り接してくれるとありがたいです」

「そう? でも本当にありがとう」

「ルシエルさんは立場が変わっても、あまり態度は変わらないのですね」

「まだまだ若造ですからね」

 尊敬する師匠やライオネルだけじゃなく、本当に自分が気がついていないところを気づかせてくれて、教えてもらうことが多い。


「ルシエルらしいわ。でも、勝負は戦乙女聖騎士隊が勝つから」

「覚悟なさいませ」

「あ、じゃあルミナさんに伝言を一つ。これがただの模擬戦だと思っていたら、一瞬で終わります。それだけ伝えてください」

 少しだけ笑って威圧する。


「わ、わかったわ」

「で、では」

 二人は食堂から出て行った。



「ルシエル、それで連れて行くかどうかはもう決めているのか?」

「いや、まだです。一人でも竜と対峙した際に時間稼ぎか、逃げることが出来ないと判断したら連れていけません。だから伸び代も正確に計れる二人に審判をお願いしました」


「また面倒なことを……そういうことなら仕方ないな」

「任されました」

 ブロド師匠は渋々だけど、何故か笑うのを我慢しながら頷いてくれた。

 ライオネルは相変わらずだった。


「ルシエル、料理を運ぶのを手伝ってくれ」

 そこへグルガーさんから声が掛かり、普通の料理と蓋のしてある料理が二つあるようだった。

「これは物体Xを使った料理だ。悪いがこっちで食べてくれ」

「えっと、料理を運ぶのでは?」

「普通の料理は俺が運ぶけど、ルシエルはそれを自分の口に運んでくれ」

「なっ!? そうだ師匠……」

「ブロドなら声を掛けたら直ぐに出て行ったぞ」

 は、謀れた。

 こうして結局、逃げた師匠の分まで二人分の物体Xを使った料理を食べるはめになり、俺以外の皆が他の料理に舌鼓を打つのを横目見ながら、何とか食べきった。

 すると一部の冒険者達が俺を賞賛していたけど、誰も近づいてくる人はいなかった。


 物体Xが魔物だけではなく、人払いの効果も持ち合わせていることを再認識しながら、ピュリフィケイションを発動して、戦乙女聖騎士隊と戦う為の打ち合わせをするため、俺は皆のテーブルへと移動するのだった。



お読みいただきありがとうございます。


i349488
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。