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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

13章 人類最強クラス集結

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280 転生者アリス

 飛行艇に乗り込んだ俺達は、とりあえず空へと飛行艇を発進させ、高度が上がったところでこれからの行き先について話をすることにした。


「今日の最終目的地はイエニスだ。そして準備を整えたら直ぐに龍の谷の麓まで行くことになるけど、明日以降のことはイエニスに着いてから話し合うことにしよう」

 皆がこちらに注目していることを感じながら、俺は飛行艇の運転を続ける。


 ドランを含めた技術班は主砲を発射したり、長時間飛行したことによる不具合が出ていないか飛行艇の内部確認に行ってしまったので、ここにいるのは戦闘班だけだ。


「ルシエル様、何処か寄る必要があるんでしょうか?」

 一仕事終えたライオネルは、戦鬼将軍だった面影は既になく、いつものライオネルに戻っていた。


「まずは聖都だ。聖都へ向かって、教皇様に帝国との件を報告するかどうか、少しだけ迷ってはいるが……」

『それは待ってくれるかしら』

 しかし俺の意見にフォレノワールから待ったが掛かった。


「何かあるのか?」

『ええ。フルーナは自分の意思で少しずつ変わり始めているわ。だけどルシエルと話すと、焦ったり落ち込んでしまうから、もし話す必要があるなら、今回のことは私から話しておくわ』

「落ち込むって?」

『帝国の闇の部分を半月も経たずに解決して、ルーブルク王国との戦争まで止めてしまったのよ? それをフルーナが聞いたらどう思うかをよく考えなさい』

 ……あ~確かに不味い気がする。

 最終的には頼られる運命しか想像出来ない……この件はフォレノワールに委ねるのが一番いいかもな。

「……わかった。それじゃあ連絡はフォレノワールに任せるよ」

『ええ』

 フォレノワールはそれだけ言うと、ブリッジの隅にいるエスティアの元へと向かっていった。


「そうなると直接メラトニへ行くことになりそうだな」

「その理由は?」

「ブロド師匠だよ。ライオネルも龍の谷の麓に行くことを望んでいるように、師匠もきっとこの話を持っていけば飛びつく気がする。断るにしても一言言っておかないと後が怖い」

 もし大幅なレベルアップが望める環境に赴くとして、それに誘わなかったら間違いなく拗ねる師匠が頭に浮かび、迎えに行くと決めていたのだ。


「まぁ冒険者ギルドの支部長ですから、どうなるかは分かりませんが、旋風が一緒であれば退屈しなそうですね」

 ライオネルが不適に笑ったことで、未だライオネルの中には鬼が棲みついているのだと感じた。


「たぶんブロド師匠とガルバさんも既に教会本部にはいないだろう。あれから十日経っているし、いずれにせよ師匠はメラトニへと戻っているだろう」

「魔通玉で連絡を取りますか?」

「ああ、頼む」

 それからライオネルが魔通玉で連絡を取ろうとするのだが、どうやら出ないようだ。

 きっと訓練場で冒険者達を相手にしているんだろうな。

 サプライズという形になるけど、予定が合わなければ合わないで仕方がないだろう。


 それにメラトニの街へ行くのは、エスティアの件もあるのだ。

 もう一度メラトニへ行きたいと望んでいたエスティアは、自分の過去と向き合う決断をしていたし……。


 俺が視線をエスティアに向けると、彼女は闇の精霊と入れ換わっているのだと直ぐに分かった。

 フォレノワールと話をしている闇の精霊が険しい顔をしていることから、精霊同士の話し合いなのかもしれないな。


「それで今向かっているのは?」

「あ~、帝都へ着く前にフォレノワールが撃ち落とした翼竜部隊が生存しているのかを確認しようと思ってな。仮に魔族化していたら厄介だし、死んでいるのなら浄化しつつ、今回頑張ってくれたポーラとリシアンにやろうと思って」

「あ~、確かにあれは凄かったですからね」

「ところで……あそこでいじけているケフィンとそれを慰めているケティが、少し面倒なオーラを出しているんだけど?」

「クックック。それはそうですよ。まさかあのデストロイヤーと一緒に戦うどころか、飛行艇酔いで戦闘を見ることすら出来なかったのですから」

「あ~あ、それでも帝国では魔族化した兵と戦っただろうに……」

「こればかりは気持ちの部分ですからね」

「そうだな」


 それから暫くして、翼竜を撃ち落としたポイントへと到着したところ、ものの見事に翼竜部隊は全滅してしまっていた。

 唯一の救いは魔物や動物が翼竜や帝国兵を喰らっていなかったことだけだろう。


 まさか翼竜の弱点が翼だったとはな……。

 手加減をして翼竜の身体ではなく、翼をレーザー光線で貫通して焼いたのが問題だったらしい。


「翼竜は、翼に魔力を込めて風魔法で浮いているだけで、それを進行方向へ飛んでいるように見せかけているんですよ。だから翼が壊れれば落ちるだけ。高ければ高いほど地面への衝撃は強くなり、当然こうなりますね」

 ここで黒髪を風に(なび)かせながら、翼竜の生態について詳しく説明をしてくれる女性が一人。


「そうか……ところで身体の調子は?」

「おかげ様で絶好調です。本当奴隷から解放していただいて感謝します……ルシエルさん」

「鑑定したのか? “転生者”のアリスさん……で、良かったか?」

「……はい」

 さて、彼女をどう扱うか、俺は頭を悩ませていた。


 飛行艇の高度を下げていくと、例の如くいきなり隠者の棺の鍵が魔法袋から飛び出して、このアリスとバザック氏が出て来たのだ。

 それからバザック氏のことはライオネルが任せてほしいと言い出したため、そのまま任せることにした。


 そして不安気に辺りを見回すアリスには、エスティアに任せようと思ったのだが、フォレノワールと闇の精霊の話し合いは終わっておらず、了承してもらえなかったのだ。


 ちなみ技術班のドラン達は既に飛行艇の点検が終わっていたのだが、敵が現れる領域ではなく、戦闘もなさそうだという理由から、デストロイヤーの魔石の他に魔力結晶球と例の指輪の解析を進めるために飛行艇内にある工房へと篭ってしまったのだった。

 リィナも転生者にそこまで興味がないのか、工房にいることを選択した。


 ポーラとリシアンは翼竜の魔石は欲しいけど、研究する衝動には勝てず、俺にまさかの解体を任せてきたのだった。

 だから現在、ナディアとリディアと共にアリスを連れて翼竜の解体と兵士達の浄化をするところへと来たのだった。


「まずは別に転生者であろうが、なかろうが基本的には干渉しないし、するつもりもないから安心してくれ」

「えっと、私はこれからどうなるのでしょうか?」

 不安そうに聞いてくるが、実はあまり困っていなさそう見えるのは何故だろうか?


「どうなりたいのか希望はあるのか?」

「えっと……貴方の愛人とか?」

「……どうなりたいのか希望はあるのか?」

「じょ、冗談です。能力もぶっ飛んでいるし、お金も持っていそうだから、愛人になれば楽が出来そうだとかは思っていませんから、睨まないでください」

 完全に煩悩が漏れているが、そこは完全にスルーしないと色々と話すのが辛いぞ。

 それにしてもエスティアに変なことを吹き込んだリする性格だということを完全に失念していた。


「そもそも転生者とは何者なのだ? それ以前に何故奴隷になったのだ?」

 少し真面目に聞くため、強めの口調で聞いてみる。


「えっと、こことは異なる世界で生まれて、事故に巻き込まれて死んだ人が神様に生き返らせてもらって、また新しい人生を始める人のことです。奴隷になったのは……有能なスキルを持っていた人とお近づきになろうとしたんですけど、その人が犯罪をしてたらしくて……」

 ……師匠が修行中に教えくれた能力依存に見事嵌まった典型だな。


「……じゃあアリスは一度死んだのか?」

「ええ、混ぜてはいけない洗剤……薬品同士を混ぜてしまったらしくて、ちょっと昼寝していたら死んでしまったらしいわ」

 ……怖くて、アリスが幾つだったのか聞けない。


「基本的に君は帝国で魔族研究に携わっていたのは知っているし、君の奴隷主だったクラウドは既にこの世にいない。だから魔族の研究を知っている人物も既に君しかいない。殺すことは出来るし、たぶんそちらの方が簡単だ」

「そ、そ、そんな!? 賢者ってあれでしょ、崇高な理念を持っている人なんでしょ?」

「それは知らないけど、魔族化研究をしていたんだから、消せばそれはこの世を守るために繋がると思うんだけど、どう思う?」

「え、えっと、私は奴隷として無理矢理研究をさせられていただけなのよ。人権なんてなかったわ」

「なるほど。ではそのことを神様に誓えるか?」

「ええ、誓えるわ」

「分かった。それでは誓約をしよう。汝アリスよ、私と私の仲間を害することを生涯しないと汝のスキルを対価として誓えるか?」

「誓えるわ」

 何故か勝ち誇った顔をしているが、誓約をしたことがあるのだろうか?


「私、もしくは私の従者以外に魔族化のことを話さないと誓えるか?」

「誓うわ」


「最後に私と私の従者に嘘を吐くこと、不利になること、損害を与えるようなこと、そして無駄に付きまとうようなこと、その全てをしないと神の名の許に誓えるか?」

「誓うわ。えっ!? 何よこの光?」

 突如アリスが慌て出した……もしかして誓約を知らなかったのか?


「誓約はなったが、何か?」

「えっと、今の光って何ですか?」

「誓約の光だけど?」

「えっと、その場のノリみたいなことじゃなくて?」

 ……


「異世界がどうかは分からないけど、主神クライヤの名の許に誓約がなったから、誓いを破ればスキルも使えなくなるし、罰も加算していくけど、まぁ守れば一切害はないから安心するといい」

「そ、そんな、人権侵害だわ」

「いや、無理に誓わせた訳じゃないし、そもそもこちらに対して何か害することをしようとしていたのか?」

「そんなことはして……いないわ」

 何故か目が泳いだが、早期に誓約が必要と判断した俺は自分を褒めてあげたい。


「それならいいだろ? さて、解体を始めるかな」

 少し酷いことをしたかと思いながらも、精霊であるフォレノワールや闇の精霊なら誓約を解くことも可能だから、アリスの人となりを二人に委ねることにして、翼竜の解体と帝国兵達の浄化をすることにした。



お読みいただきありがとうございます。



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