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人は生きるために何かを失い、犠牲にしている。英映画「風をつかまえた少年」にその葛藤を象徴する場面がある。アフリカの最貧国マラウイが舞台。干ばつで飢饉(ききん)に陥った村に井戸から水を引くため14歳の少年が風力発電を思い立つ

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授業料が払えず退学になっても図書館で勉強を続けた。材料は廃棄場から調達した。発電機を回す肝心の車輪がなく、少年は「父さんの自転車を使わせて」と訴える。生活に不可欠な移動手段である。畑を耕すのに疲れ果てていた父親の怒りが爆発する

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「ガラクタは捨てて畑を耕せ」と。父親は1日1食と決めて家族を守るために自分はろくに食べていなかった。突き飛ばされた少年は諦めない。苦悩した父親はやがて…。実話に基づく作品である。少年のモデル、ウィリアム・カムクワンバさん(31)が映画の公開に伴い来日した

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日本は放置自転車があふれ、売れ残り食品が大量廃棄されている。あれも、これもと望めば手に入り、世界中でモノとエネルギーが大量消費されている。それは気候変動の影響を受けやすいマラウイのような貧しい国々の犠牲の上に成り立っていないか

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スウェーデンの16歳、グレタ・トゥンベリさんが国連気候行動サミットで涙ながらに各国首脳に訴えた。「あなたたちが話すのは金と永遠の経済成長というおとぎ話だけ」。果てしない欲望が犠牲を未来や途上国に押しつけているとの問題意識に共感する。カムクワンバさんも同じだろう。

(9月26日)

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