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【社会】

「検閲」批判の払拭図る 出展者 内容介入に懸念 「表現の不自由展」再開提言

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 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で中止となった企画展「表現の不自由展・その後」を巡り、愛知県の検証委員会は二十五日の中間報告で早期の再開を求めた。抗議を理由に公開をやめたこと自体が「検閲」に当たるとの批判を払拭(ふっしょく)し、今後国内で開かれる他の芸術祭などへの影響を食い止めたい思惑がある。だが、検証委が掲げた再開の条件はハードルが高く、十月十四日に迫った会期末に間に合うかどうかは不透明だ。

 ◆前例

 「日本と海外で温度差があり、広義の『検閲』と受け止められている」。検証委の委員を務める岩渕潤子青山学院大客員教授(美術館運営・管理)は二十五日の会合で危機感をあらわにした。検証委によると不自由展の中止以降、海外を中心に計十三の作家や団体がトリエンナーレでの展示を中止・変更し、さらに一件の申し出があるという。

 中間報告は再開しないままトリエンナーレを閉会した場合、三年後の次回だけでなく、国内の他の公立美術館でも海外作家の出展拒否につながりかねないと指摘。さらに「電話攻撃や脅迫で中止に追い込むことができるという前例を作ってしまう」と強調した。

 ◆複雑

 再開提言に対する出展者側の受け止めは複雑だ。不自由展実行委員の岡本有佳氏は、安全確保を理由に中止したはずなのに中間報告は作品内容や展示方法にまで踏み込んだと批判。「まさに検閲、あるいは表現の自由に対する介入だ」とし「中身に対する介入がない形で中止前そのままでの再開を」と求めた。

 天皇制を主題とした作品を出品したアーティストの小泉明郎氏は提言を評価しつつ「私たちの作品は法律を犯したり、人権を侵害したりするわけではない。多数の抗議を理由に、展示の改変が押しつけられることがあれば、悪い前例になってしまう」と懸念を示した。

 ◆対応困難

 検証委は再開の条件として、電話やファクスによる脅迫や攻撃のリスク回避、展示方法の見直しなどを挙げたが、いずれも早期の対応が困難なものばかりだ。

 開幕から一カ月間に県庁などに届いた抗議の電話やメール、ファクスは計一万件を超える。保育園などへの危害を予告する内容もあった。県職員は「無関係の部局にも電話が殺到した。こちらからは止めようがない」と話す。

 展示方法の見直しにも課題が残る。中間報告は、昭和天皇の肖像が燃える場面を含む映像作品は、約二十分の全体を見ないと天皇への侮辱を意図しないとする作家の真意が伝わらないとして、別会場での上映を求めた。

 さらに、不自由展は作品の数や大きさの割には予算が少なく展示面積も狭いと指摘。質の高い展示を実現するには四~五倍の予算と八倍の面積が必要との見方を示した。

 これに対し二十五日に記者会見した芸術監督の津田大介氏は、抗議をした人の大半は実際には作品を見ていないと訴え、展示内容の見直しに「どう丁寧な説明をすればこの事態を避けられたというのか」と疑問を呈した。

 

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