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聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~ 作者:ブロッコリーライオン

12章 帝国と二人の戦鬼将軍

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264 イルマシア帝国 皇帝

 ライオネルは皇帝の寝所をノックしたのだが、中からの返答はなかった。


「もう一度ノックをして返答がなければ突入します」

「何か対策はあるのか?」

「はい」


 ライオネルはそう言って、大盾を魔法袋から取り出した。

「まさか何があるか分からないのに、そのまま大盾を構えたまま突入するつもりなのか?」

「はい。これが一番被害が少ないかと。ルシエル様には申し訳ないのですが、今一度エリアバリアをお願いしても宜しいですか?」


 ”被害が少ない”という言葉に引っかかりを覚える。

 いつものライオネルならもっと豪快でありながらも何処かスマートな印象の戦闘狂(バトルジャンキー)なのに、今回はそのらしさというものが薄れているように感じた。


「……中がどうなっているのか分からない。それだけでは不十分だろ」

 俺はエリアバリアを掛け、その上から念の為に聖域鎧を発動させた。

「これはあの時の……ありがとうございます。これで憂いはなくなりました」

 この時、何故かライオネルが緊張しているように感じた。


「ライオネルからはまだまだ学ばなければいけないことが多い。それにライオネルに何かあれば、ナーリアに顔向け出来ないからな。それで俺達はどうすればいい?」

「ルシエル様にはこちらへ結界を張っていただき、中の状態を見てから追加で聖域結界の発動をお願いしたいのです」

 指示は冷静そのものだから、杞憂だったかもしれないな。

「分かった。魔力をここが終わった後に使うことはなさそうだし、魔力が枯渇するつもりで使うから、少しでも怪我を負ったら言ってくれ」


「ありがとうございます。ケティとケフィン、エスティアはもし戦闘になった場合、必ずルシエル様とポーラを守ってくれ」

「いえ、それでは不十分です。ライオネル様のことも今度こそ必ずこの命と引き換えにしてでもお守りします」

 ケティが語尾に”ニャ”と付けていないことに少々驚いたが、聞き捨てならない言葉だったので、直ぐに訂正する。


「俺がいるところで俺の仲間は誰一人として死なせない。だから命を引き換えにするとか言うな」

「……悪かったニャ」

「ケティ。あの時とは違い、今は本当に信頼出来る仲間と一緒なのだから、心は熱く、頭は冷静に行動するのだ」

「はい……ニャ」

 どうやらライオネルは問題なさそうだな。

 もしくはケティを見て冷静になったのだろう。

 これで安心してライオネルから割り当てられた任務に集中することが出来そうだ。


「ケフィンやエスティアもだが、魔族化していない兵がいる可能性も否定出来ない。だから結界がないものだと思って行動してくれ」

「「ハッ(はい)」」

「ポーラは最悪の場合ゴーレムを生み出してもらわなければいけない。念の為、研究所にあったこの魔石を渡しておく。万が一の時は頼むぞ」

「任された」

 ニコッと笑いながら、大事そうにライオネルから魔石を受け取った。


「魔石があったとか聞いてないぞ?」

「あげない」

「そうじゃなくて……はぁ~もういいや。ライオネル、無茶は出来るだけしないでくれるとありがたい」

 プイッと顔を背けたポーラを見て、何も言えなくなってしまう。

 きっとこれも作戦なんだろう……。

「善処致します」

 ライオネルは笑って頭を下げた後、もう一度皇帝の寝所の扉をノックした。


 そして反応がないことで、ライオネルは扉を開こうとして開けなかった。

 どうやら地下の研究所にあった扉を同じ仕掛けらしい。

「……ルシエル様、申し訳ありませんが……」

「【ディスペル】」

「ありがとうございます」

 ライオネルは気を取り直して寝所の扉を開いた瞬間、瘴気が噴出してきた。しかしもそれだけではなかった。


 濃密な瘴気と同系色の……闇属性魔法で作られた槍が飛んできたのだ。

 飛んできた槍は全て聖域結界に阻まれると思っていたが、実際には聖域結界を貫通し、ライオネルに集中した。

 その貫通した槍を確認したからか、一斉に魔族化した者達がライオネルに飛び込もうとして聖域結界の餌食になり、青白い炎に身を焦がす者と、忌々し気に聖域結界を見る者達がいた。


「大丈夫か?」

 数えただけでも十本以上の槍が飛んできていたことを確認しながら、怪我の心配をするが、ライオネルは直ぐに頷いて答える。


「勿論です。どうやら闇属性の魔力を槍に纏わせていたようですが、聖域結界で闇属性が消え、ただの投擲された槍でしかありませんでした。あの程度で怪我をする程、柔な鍛え方はしていませんよ」

 ライオネルは笑っているが、いつものように優し気な笑い方ではなく、獰猛な笑みを浮かべていることが気になったが、俺も自分の出来ることをすることにした。


 まずは瘴気を消さなければいけないと思い浄化波を発動させると、聖域結界に阻まれていた兵達が聖域結界の力を含んだ浄化波によって、青白い炎に包まれ濃密な瘴気が消えていった。

 そして目に映り込んできたのは、この瘴気を原因である瘴気を吐き出しているエビルプラントだった。


「こんなところにまで……」

 浄化波を受けたからか、エビルプラントは激しく体を揺らしていた。

 俺は直ぐに聖域結界で囲い浄化魔法を発動してエビルプラントを焼いたところで、ケフィンとケティが俺の横から飛び出していった。

 いつの間にかライオネルの姿も寝所へと移っており、俺はエスティアとポーラと共に帝国皇帝の寝所へと入室した。



 寝所の中には魔族化した兵達が十名程いたが、浄化の炎によって浄化されるか、苦しんでいたところをケフィンとケティの手によって制圧されていた。

 そしてライオネルはというと、派手な鎧に身を包んだ四十代半ば程の男と向き合っていた。


「お久しぶりです陛下。ご健勝であられますようで喜ばしく感じています」

 ライオネルが恭しく警戒したまま、軽く頭を下げた。

 どうやらあれが皇帝でいいらしい。


「フン。よもや本当に貴様が復活し、再び我の前に現れるとは思わなかったぞ、ライオネル」

 皇帝はライオネルを忌々しそうな目で見てそう告げた。

 ……どうやら皇帝は操られていた訳ではなかったようだ。


 ライオネルもそれを察したのか、何処か気落ちしたように肩から力が抜けていく。

「……陛下、ずっとお聞きしたいことがありました。陛下は我が息子を使ってまで、私を暗殺させようとしたのですか?」

「気づいておったか。ならばその答えにも気づいているのではないか?」

「……陛下自身の口からお聞きしたいのです」

 つまらなそうに皇帝はそう告げたが、ライオネルは色々な感情を押し殺すように再び皇帝へと問う。


「そうか……ならば教えてやろう。単純に貴様が邪魔になった……いや、昔から貴様が邪魔だったのだライオネル。帝国の最高権力者であるのは我だ。しかし我が霞んでしまう程、貴様は国内外にその名を轟かせ過ぎた」

「……幼少期からお仕えしていた私を……たったそれだけのことで切り捨てたのですか?」

「”それだけのこと”だと? 理由はそれだけで十分だ! 皆が、それこそ前皇帝までもが、息子であった我より貴様を重宝していたのだ。だからこそ昔から貴様を憎んでいたのだ」

 それは完全な嫉妬だったが、幼少期の頃からなら相当根深い問題だったはず。


 それなのにライオネルが将軍へと上り詰め、その地位を盤石のものとするまで、何故手を下さなかったんだろう……あ、そうか! 前皇帝がライオネルを将軍にしたのか。

 それならば辻褄は合いそうだ。


「……それでは成人の儀の後に交わした約束は……いくつもの小国がまだあった頃、陛下は皇帝となって帝国民の安寧の地を築き、私は外敵から国を守る守護者になると交わしたあの約束は……」

「そんな約束を本気で信じていたとはな。それは貴様を戦場へ送り出す方便よ。当時、王妃になったあやつも貴様のことをたいそう慕っていたからな。貴様のことを諦めてもらうために色々と工作をしたのだ」

「……工作とは?」

「当時まだ帝国の周囲にあった幾つもの小国がうるさかったから、前皇帝にいくつかの進言して貴様に動いてもらったのだ」

「……」

 ライオネルはもう口を開かなくなっていた。

「武勇に優れていからと理由をつけ、成人したての貴様を殺してもらうために戦争へそれも最前線へと送ってやったのに、貴様は期待を裏切って大きな戦果を上げて帰ってきた。その後も幾度と劣勢な戦場へも送ったのに戦果を上げ帝国もまたそれにより勝ち続けた」

 ライオネルの武勇伝を聞かされているのに、この無性にイライラするのは何故なのだろう?


「前皇帝も貴様の功績を称えて将軍に推挙するなど、我には腹立たしいことばかりだった。だから前皇帝に退いてもらい、我が皇帝に就き善政を敷くことで、民衆の支持を得ることにしたのだ。しかし民衆は既に我より貴様に信を寄せていた」

 前皇帝を暗殺でもしたのか……帝国の中も既に相当ボロボロだったのだろうか? それにしても皇帝がライオネルのことを認めて手を取っていたのなら、どれだけ凄い国になっていたのだろうか?


 ライオネルは皇帝の言葉を聞くと、左右に首を振った。

「そんなことはありません。前皇帝が崩御されてから陛下は国民の為に尽力し、民衆の指示を得ていました」

「当たり前だ。身体を壊した民衆に薬師ギルドと国で開発した薬を配り、好き放題やっていた貴族を裁き与え、皇帝として成すべきことは成してきたからな」

 それで良しとしなかったのが、皇帝の歪みだったのだろうか?

「ずっと機会を窺ってきたが、そんな機会は訪れなかった。転生者を名乗る者が現れるまでは」

 皇帝のその言葉に、邪神と対峙した時のような強烈な衝撃が身体を駆け抜けた。


お読みいただきありがとうございます。

i349488
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